スパダリ族はお断り!

赤井茄子

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お前をメルディワールドへ連れていく

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 木下家の素麺は具だくさんだ。

 少し濃いめのめんつゆに、刻んだ胡瓜と茗荷を少々。舞花作の錦糸卵とハムの細切りは太さが不揃いだが、そこは味というものだろう。各自小皿に盛り付けて、食べるときにザブザブと麺つゆに入れては素麺と一緒に食べるのだ。
 たっぷりのお湯に泳いでいた素麺を水でしめてから、ガラスの平皿に適当に纏めて置いていく。その上に氷を散らせば、木下家式素麺の完成である。

「いただきまーす!」
「冷やし中華みてぇな具だな」

 麺つゆの染みた薄焼き卵と、のどごしのよい素麺。暑くてしんどい日に、つるっと食べられる素麺は本当に素晴らしい。

 素麺に舌鼓を打ちつつ、何気なくタブレットの動画サイトを開く。すると、夏季休暇前だからかテーマパークレビュー系の動画がよく目についた。

「……メルディワールドかぁ」

『夏限定!TMWの新味ジェラート』
『ナイト・パレードの楽しみ方』
『新作アトラクション解説』

 太字が踊るサムネイルには、楽しげな文言と共にパステルカラーのくまちゃんがそこかしこで踊っている。
 確か、メルディワールドのマスコットキャラクターであるメルベアちゃんだ。

「流石の人気だねぇ」
「そりゃ、一番でけぇテーマパークだからな」

 メルディワールドは、小学校の修学旅行で行ったきりだ。何せ遠いし、フリーパスも食べ物もそれなりにお高い。姉と質素倹約に励んでいた舞花にとっては、高級フレンチと同じくらい縁遠いものだった。

「気になるか?」
「え?……うん、まぁ憧れはあるけど」

 試しにパレードの動画をタップすると、陽気でメルヘンな音楽が流れ始めた。メルベアちゃんがダンサーさん達と楽しげに踊り、パークの中を練り歩いてゆく。生クリームのたっぷり乗ったケーキ型フロートの上では、プリンセスやプリンスが微笑み優雅に手を振っていた。
 そういえば、メルディワールドも姉と「いつか一緒に行きたいね」と行っていた場所の一つだった。

 結局その役目は、あの難きスパダリ族幹高にぶん取られてしまったが。

「……じゃあ、行こうぜ」

 何とも言えない気持ちで素麺を啜っていると、舞花の肩を軽く叩かれる。
 隣を見れば、何やら吉弘が真剣な面持ちで、こんなことを宣ってきた。

「俺がお前をメルディワールドへ連れていく」
「…………はい?」

 この時、舞花は素麺にかまけてすっかり忘れていたのだ。
 彼が、後天性とはいえ――スパダリ族だということを。
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