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赤井茄子

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初めてのフロリダ・メルディ⑥

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 そして、とうとうフロリダ・メルディ滞在最終日。

「舞花、おい、髪濡れたまま寝るんじゃねぇ」
「んーー」


 ホテルのディナーとコラボカクテルを楽しみまくった舞花は、シャワーから上がって速攻でベッドに倒れ込んだ。頭の中がふわふわして何だか楽しい。
 ベッド脇に立ってこちらを見下ろす吉弘に、舞花は首を傾げた。

「んふふ、んふー。あれ、なんれ吉弘がいるのー? 部屋ちがうよねぇ?」
「酔っ払いが風呂場で転ばねえか心配で来たんだよ。おら、こっちこい」
「んーー」

 力強い腕に引き寄せられ、分厚い胸板に後ろ向きで倒れ込む。頭にふかふかのタオルをかけられ、無骨な指がタオル越しに舞花の髪を拭き始めた。
 時折指先が耳裏を掠めて、それがくすぐったくてクスクスと笑ってしまう。身をよじると、バスローブがはだけるのだが、酔っ払った舞花はあまり気にしない。むしろ暑いので、はだけたくらいが涼しくて丁度よい。

「……よしひろ」
「ん?」
「ありがとーね」

 間違いなく、これまでで一番楽しい休暇で、誕生日プレゼントだった。連日のフリーパス代や食事代等を考えると恐ろしいが……舞花一人では、絶対に来ることはなかったに違いない。
 始まりは少し強引だったが、手を引いて連れてきてくれた吉弘には本当に感謝である。

「お代は、むきんり幼馴染ローンでおねがいね……」
「だから要らねぇって。俺が勝手に連れてきて、連れ回したんだし」

 ――でもまぁ、喜んで貰えたなら良かった。
 つむじの辺りに吉弘の笑い声と吐息を感じながら、舞花はくすぐったいような、温かいような気持ちで笑う。

「奢られっぱなしはフェアじゃないもんー」
「気にすんな」
「やだ、気になるー」
「やめろバタつくな! ったくお前は……」

 ベッドに倒れこみ、駄々をこねてバタつく酔っ払い舞花。そんな情けない幼馴染の姿に何を思ったのか……吉弘は、重苦しいため息をつき、背中を丸めて俯いた。

「……何でもいいんだな?」
「んー、いいよぉ。わたしが出来ることならー」
「お前にしか出来ないことだ」
「んーー?」

 顔を上げた吉弘が、徐にこちらをのぞき込んでくる。切れ長の黒い目が、真っ直ぐに舞花を射抜いた。酔っ払ってグデグデの彼女とは違い、その顔は真剣そのものだ。

「――キス、させてくれ」
「えっ?」

 予想外の言葉に、舞花は酔に蕩けた目を見開く。
 ベッドに転がったまま固まった彼女を、熱を孕んだ黒い瞳がじっと見つめていた。
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