スパダリ族はお断り!

赤井茄子

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目玉焼きの所在

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 何はともあれ、大好きな姉との二人ぐらし生活が戻ってきた。これからまたずっと……という訳にはいかないが、舞花としては願ってもないことだ。
 ……その、はずだったのだが。

「あ、舞花! おはよう」
「えっ、あ……おはよう。お姉ちゃん」

 振り向いた舞花は、姉よりずっと高い位置に向けた目線を下げる。
 マタニティ服を着た姉は、長旅の疲れもあるだろうにニコニコしながら目玉焼きを焼いてくれた。エアコンでゆっくりと温まっていく部屋の中に、目玉焼きに火が通っていくジュワジュワという音が響く。
 本当に久々の、姉妹水入らずな時間だ。

「舞花。お皿ちょうだい」
「はーい」

 狭いキッチンで肩を並べて準備をする。時折触れ合う肩は細く、多少ぶつかってもビクともしない奴とは大違いだ。
 勿論、姉は絶対に目玉焼きをトーストに乗せたりしない。目玉焼きとトーストは別々に食べるものだから。

「今日は私が晩ご飯を作るわね」
「うわぁあ!ありがとうお姉ちゃん!でも、無理しなくていいのに……」
「家事くらい出来るわよ。それに適度に運動はしないと、いざ産むぞ!って時に大変なんだって」
「そ、そうなんだ……」

 テーブルに並んだ料理は、舞花のすきなものばかりだ。
 片栗粉をまぶした唐揚げは揚げたてだからかカリカリで、噛めば鶏胸肉の旨味が口いっぱいに広がる。豆ご飯は、シンプルな塩味にご飯の甘み、そら豆のほんのり青い香りに箸が止まらない。

「ありがとね。そら豆とか、剥くの大変なのに……」
「そうでもないわよ。座ったまま作業できるし」
「いやいや、大変だって……」

 久々の大好物を口いっぱいに頬張りながら、舞花は眉間に皺を寄せた。あの大ぶりな豆をチマチマと剥いていく作業が苦手すぎて、姉が嫁いでから一度も作っていなかったのだ。

 ――あ、一回作ったか。吉弘が食べたいって言って……。

 『久々に、お前ん家の豆ご飯が食いたくなった』と言って、道の駅でみかけたそら豆を買い込んできた事があった。そら豆を吉弘が剥き、舞花は味付けを担当した豆ご飯はそりゃもう美味しかったが……延々とそら豆を剥き続けたせいで、吉弘の手は二日ほどそら豆の匂いがしていた。

「はーーやっぱり美味しいね、豆ごはん」
「……うん」

 吉弘よりも低い目線を意識しながら、舞花は姉と顔を見合わせて笑った。
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