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すべての誤解が解けるとき
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再び二人きりとなった、東屋に沈黙が落ちる。アイリスもヒースも何を話すべきか、逡巡していた。
「すまなかった」
ヒースがぽつりと言葉をこぼす。
「レオンに言われて気が付いた。私は自信がなくて言い訳をしていただけだった。アイリスを振り回して申し訳ない。だが、私は君のことが好きだ。こんなことをいうのは許されないかもしれないが、これからもそばにいてほしい。そのためにもアイリスの気持ちを聞かせてはくれないだろうか」
アイリスは普段の物静かなヒースとは違うその情熱的な言葉に目を見開く。数度口をパクパクと小さく開いた後、やっと言葉を絞りだす。
「ヒース様、私たちはまだ婚約関係にあります。そして、それを解消することは望んでおりません。私はヒース様が好きなのです。でも、隣国の皇帝陛下が私に婚姻を打診していたなんて初めて知りましたわ」。
ヒースはアイリスの気持ちを聞くと、我慢できないとばかりに駆け寄り、アイリスを強く抱きしめた。その身が自分の腕の中に納まっていることを何度も確かめる。
「ありがとう、アイリス。本当にすまなかった。皇帝の婚姻の打診は私が全力を尽くして退けたから知らなくても当たり前だ。私は意外と嫉妬深いんだよ。あの皇帝が個人的にアイリスの心に存在するなんていやだったから、ちゃんと話が付いた後でも言わなかったんだ。今日からは、もう嘘もつかないし、我慢もしない。だってアイリスがそばにいてくれると言ってくれたカラね。良き国王となって君を守ろう。国が幸せなら、私たち王族も幸せになれる」
アイリスの耳元にささやきかける。アイリスもヒースの気持ちを知って頬を赤らめながらも、嬉しさを隠さない表情で小さく頷いた。
「そういえば、ヒース様はなぜ、私がレオン殿下を慕っていると勘違いされたのですか。今後同じことがないように教えてください」
今の幸せな気持ちを手放したくないと強く思ったアイリスは、勇気をもって尋ねてみた。
「それは、君は私の前では心から笑ってくれないだろう。最後に君の真実の笑顔を見たのは私がほんの5歳ぐらいの時だ。でも、レオンにはその笑顔を見せていたから、てっきり私のことは心から好きではないのだと思ったんだよ。でも、君の気持ちを言葉で聞けたからもう疑わないよ」
アイリスははっと息をのむ。
小さい頃、庭園で花を眺めていたアイリスにヒースが声をかけて、花について面白い話をたくさん聞かせてくれたことがあった。それをきっかけに、貴族とその子弟があつまるお茶会で、仲良く話すようになったのだ。たしかに、その時には自分を隠すことなく心から笑っていた。けれど、婚約を申し込まれた後は、教育係の婦人たちからほほえみ以外の笑みは禁じられた。ただのマナーとしてだけではなく、ヒースが無邪気に笑う女性を好まないからだと何度も言い聞かされたのだ。アイリスはいつしか、それが真実だと思い込んでしまっていた。
「あの、ヒース様は私が笑っていても、嫌いにならないのですか」
もしかしたらとんでもない勘違いをしているのではないかという事実を確かめるため、恐る恐る、ヒースに尋ねた。
「そんなことで、嫌いになるわけがないだろう。むしろ、私は笑顔のアイリスが大好きなんだ。この手で君を笑顔にできれば、どれほど幸せかといつでも夢に見ていたぐらいなんだ。なぜ、嫌われるなんて思ったの?」 アイリスの問いに驚いたヒースは、慌てて確認した。
「教育係のご婦人たちがその用に教えてくださったのです。その中にはヒース様に近しい方もおられましたので信じてしまいました。確かめもしないでごめんなさい」
ヒースがありのままの自分を好いてくれていたことを知って、自分の臆病さと考えの浅はかさからヒースを悩ませてしまったことを申し訳なく感じたアイリスは、思わず涙を流していた。
「君は悪くない。それを知らなかった私の責任なんだから。これからはもっと気を付けておこう」
アイリスの涙でぬれた頬にヒースの手が添えられる。そして、ヒースの指がそっと涙を拭っていった。その手はどこまでも暖かく、アイリスを安心させる。
「愛している、アイリス」
ヒースはすっかり油断したアイリスにささやき、軽くついばむような口づけを落とす。しっかりとした唇がアイリスに熱を分け与え、心を触れ合わせる。その柔らかな喜びに
身をゆだね、アイリスはにっこりと幸せそうに微笑んだ。
「すまなかった」
ヒースがぽつりと言葉をこぼす。
「レオンに言われて気が付いた。私は自信がなくて言い訳をしていただけだった。アイリスを振り回して申し訳ない。だが、私は君のことが好きだ。こんなことをいうのは許されないかもしれないが、これからもそばにいてほしい。そのためにもアイリスの気持ちを聞かせてはくれないだろうか」
アイリスは普段の物静かなヒースとは違うその情熱的な言葉に目を見開く。数度口をパクパクと小さく開いた後、やっと言葉を絞りだす。
「ヒース様、私たちはまだ婚約関係にあります。そして、それを解消することは望んでおりません。私はヒース様が好きなのです。でも、隣国の皇帝陛下が私に婚姻を打診していたなんて初めて知りましたわ」。
ヒースはアイリスの気持ちを聞くと、我慢できないとばかりに駆け寄り、アイリスを強く抱きしめた。その身が自分の腕の中に納まっていることを何度も確かめる。
「ありがとう、アイリス。本当にすまなかった。皇帝の婚姻の打診は私が全力を尽くして退けたから知らなくても当たり前だ。私は意外と嫉妬深いんだよ。あの皇帝が個人的にアイリスの心に存在するなんていやだったから、ちゃんと話が付いた後でも言わなかったんだ。今日からは、もう嘘もつかないし、我慢もしない。だってアイリスがそばにいてくれると言ってくれたカラね。良き国王となって君を守ろう。国が幸せなら、私たち王族も幸せになれる」
アイリスの耳元にささやきかける。アイリスもヒースの気持ちを知って頬を赤らめながらも、嬉しさを隠さない表情で小さく頷いた。
「そういえば、ヒース様はなぜ、私がレオン殿下を慕っていると勘違いされたのですか。今後同じことがないように教えてください」
今の幸せな気持ちを手放したくないと強く思ったアイリスは、勇気をもって尋ねてみた。
「それは、君は私の前では心から笑ってくれないだろう。最後に君の真実の笑顔を見たのは私がほんの5歳ぐらいの時だ。でも、レオンにはその笑顔を見せていたから、てっきり私のことは心から好きではないのだと思ったんだよ。でも、君の気持ちを言葉で聞けたからもう疑わないよ」
アイリスははっと息をのむ。
小さい頃、庭園で花を眺めていたアイリスにヒースが声をかけて、花について面白い話をたくさん聞かせてくれたことがあった。それをきっかけに、貴族とその子弟があつまるお茶会で、仲良く話すようになったのだ。たしかに、その時には自分を隠すことなく心から笑っていた。けれど、婚約を申し込まれた後は、教育係の婦人たちからほほえみ以外の笑みは禁じられた。ただのマナーとしてだけではなく、ヒースが無邪気に笑う女性を好まないからだと何度も言い聞かされたのだ。アイリスはいつしか、それが真実だと思い込んでしまっていた。
「あの、ヒース様は私が笑っていても、嫌いにならないのですか」
もしかしたらとんでもない勘違いをしているのではないかという事実を確かめるため、恐る恐る、ヒースに尋ねた。
「そんなことで、嫌いになるわけがないだろう。むしろ、私は笑顔のアイリスが大好きなんだ。この手で君を笑顔にできれば、どれほど幸せかといつでも夢に見ていたぐらいなんだ。なぜ、嫌われるなんて思ったの?」 アイリスの問いに驚いたヒースは、慌てて確認した。
「教育係のご婦人たちがその用に教えてくださったのです。その中にはヒース様に近しい方もおられましたので信じてしまいました。確かめもしないでごめんなさい」
ヒースがありのままの自分を好いてくれていたことを知って、自分の臆病さと考えの浅はかさからヒースを悩ませてしまったことを申し訳なく感じたアイリスは、思わず涙を流していた。
「君は悪くない。それを知らなかった私の責任なんだから。これからはもっと気を付けておこう」
アイリスの涙でぬれた頬にヒースの手が添えられる。そして、ヒースの指がそっと涙を拭っていった。その手はどこまでも暖かく、アイリスを安心させる。
「愛している、アイリス」
ヒースはすっかり油断したアイリスにささやき、軽くついばむような口づけを落とす。しっかりとした唇がアイリスに熱を分け与え、心を触れ合わせる。その柔らかな喜びに
身をゆだね、アイリスはにっこりと幸せそうに微笑んだ。
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