不名誉な人生、けれど挫けずに生きていく!

エイスト

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序章(プロローグ)

不運で不幸な人生、終わりを告げる

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「人生ってクソだな。」

 陸橋の上で僕は夜空に向かって呟いた。
 以前受けた資格の試験での結果が今日届き、結果は不合格だった。仕事の合間に勉強したり、受験料や会場までの通行日のため貯金したりと、それまでの努力が全て無駄に終わってしまったようなものだからだ。

「…今日は酒でも飲んで寝よ。」

 そう言ってその場から離れ足取りが重い中、歩を進める。足に重りが付いているように一歩一歩が重かった。
 数分ほど歩きコンビニに着き、入店して直ぐ酒が置いてあるコーナーに向かう。途中で雑誌のコーナーで立ち読みしている学生を見かけ、自身の学生時代を思い出す。
 荷物持ちやパシリなどでこき使われ、奴隷の扱いを受けた灰色の青春だった。更にありもしない不評が学園中に流れ孤立無援になり友人を作れなかった。
 嫌な記憶を思い出して更に気分が下がってしまった。早く買い物を終えて家に帰ろうと酒をカゴに入れ、レジで会計を済ませ店を出る。けれど嫌な記憶を思い出したせいで胸がモヤモヤして憂鬱気味になり、ここで一本開けようと缶を開け飲み干す。先ほどまで冷蔵庫に置かれてたおかげで冷えていたものの、素直に美味しいとは思えなかった。

「あーあ、これからどうしよっかな。」

 帰路に着いてる途中、横断歩道の信号が赤になって変わるのを待つ中これからのことを考える。今までにも資格を取ろうと勉強したり仕事で昇給しようと努力をしたものの全て成功しなかった。今はやる気が失せてしまい、もう一度資格を取る勉強をする気にはなれなかった。
 とりあえず家で酒を飲んでまた明日考えよう。そう決め横断歩道が青に変わって渡ってると、突然胸に強烈な痛みが走る。

「あ、あぐ、うぁ…」

 まるで針がささったかのような痛みで思わず立ち止まり胸を掴む。しかし今は横断歩道の中腹辺りにいるため、ここにいてはマズイとヨタヨタとフラつきながらどうにかして歩を進める。
 視界がぼやけて前が見えにくいものの、あと数歩で横断歩道を渡り切れる。そう思い少しだけ胸がスッとした次の瞬間、正面から素早い動きで右折してきた車が目に映る。
 そして刹那、身体に横から強い衝撃が入り身体が宙に浮かぶ感覚がした。目に映る光景が地面が上で空が下と反転しスローモーションに見えた次の瞬間、ゴシャと鈍い音が耳に聞こえ体全体にまた衝撃が入るのを感じた。
 何が起きたかすぐには分からなかったものの、次第に身体中に痛みが走り出した。自分が車に撥ねられたんだと気付いたのは身体中に痛みが走ってすぐだった。

「あ、ぁぐ…ぃい…」

 どうにか呼吸しようとしたがうまくできず、身体を動かせないか腕を上げようとしたものの思うように力が入らず逆に更なる痛みに襲われる。足も同様だった。

“あぁ、クソな人生だったな。”

 薄れゆく意識の中、これまでの自身の人生を走馬灯のように思い出す。幼い頃に肉親を事故で失い、自身を引き取った家では召使いのようにこき使われる日々。学生だった頃にありもしない悪評を流され友人を作れず、大学受験で失敗し家を追い出されてからは日銭を稼ぐ日々。資格を得るため勉強しても受からず、挙げ句の果てには車に撥ねられ身体中が痛く瀕死の状態である。
 一体自分が何をしたというのか。自身に降りかかり続けてきた見えもしない不運と不幸を呪う。

“次の人生、たくさんの幸せを。”

 そうして段々と全身の痛みを感じなくなっていき、そのまま意識が途切れる。
 


「もしもし。起きてください。」

 女性からの呼びかけが聞こえ目を覚ます。その声からはどこか神秘性を感じられて頭の中まで声が聞こえてくるようだった。

“えっと、僕は…なにしてたんだっけ?”

 先ほどまで意識を失っていたせいで頭がまだ少しぼやけていた。
 目を開けようとしても瞼が重くて思うように開けず視界がぼやけている。しばらくして意識がだんだんとはっきりしてきて、自身が事故に遭い意識を失ったことを思い出す。

“そうだ!確か車に轢かれて、痛くて、気を失ってそれで…。ここは、病院?それとも、天国?”
 
 まずは自分が置かれている状況を確認する。まず身体なのだが特に痛みは感じられず、車に撥ねられて全身が激痛に走っていたのが嘘みたいだった。
 というよりも手足の感覚そのものがなく、まさか身体の感覚そのものがダメになってしまったのかと内心焦る。

「…今のあなたには肉体がありませんので。」

 突然の女性の声に今まで忘れていたことに気づく。先ほどまで重かった瞼も開きやすくなりぼやけていた視界も少しずつ鮮明に見えてきた。
 周囲を見渡すと真っ白な空間が続いていて、どこまでも続いていて地平線が見えなかった。そしてその中に身体が薄く光り輝く美しい女性が立っていた。腰まで長く伸ばした髪と白い肌、金色の瞳に整った顔立ちで今まで見てきた女性の中で一番と言えるほどの美人である。

「それで、そろそろ話してもよろしいですか?」

 女性からジト目で話しかけてきた。明らかに面倒臭いと思われてることが分かる。
 あ、すみませんと謝罪をし、女性の声に意識を向ける。

「まず、先ほど申しましたが今のあなたには肉体がありません。それはあなたが命を落とし魂が肉体から離れたためです。」

“…そうですか。やっぱり僕、死んだんですね。”

 薄々と分かってはいたものの、自分が死んだと言われるとやはり落ち込む。けれどその反面なぜ自分はまだ意識が残っているのかが気になった。事故で死んで魂だけになった自分がなぜ女性とこうして話をしているのかに疑問に思う。

「そのことで、あなたに重大なお話があるのです。…突然のことで申し訳ありませんが、あなたには元いた世界とは別の世界に転生してもらいます。」

 別の世界。転生。
 この二つのワードから、最近流行りの異世界転生ものが脳裏に浮かぶ。読書が趣味であらゆるジャンルの本を読んでいて、それにラノベも含まれる。
 ストーリーは事故や寿命で命を落とした主人公が神様に会ったりして異世界へ転生し、そして最強の能力を授かったりして俺様強いぜという展開が繰り広げるという王道パターンが多い。

「転生させる世界はあなたがいた世界でいうところの剣と魔法が存在するファンタジーの世界で、その世界では危機が迫っているのです。」

 世界の危機と聞いて真っ先にモンスターと魔王を倒すというまたもや王道的展開を予想したものの、直ぐにその予想は外れることとなる。
 ここから女性の説明を要約すると、これから転生する世界では魔素と呼ばれる魔法を生み出すのに必要な物質が枯渇気味となっていて、このままだと世界の均衡(バランス)が崩れて最悪の場合世界が滅亡しかねないとのこと。
 さらに魔素は魔法を生み出すためだけに存在しているわけではなく世界を構成するのに欠かせないものらしく、もし魔素が無くなれば多くの生命が絶滅したり文明が崩壊したりと、このままだと本当に近いうちに世界が滅亡しかねない。
 そこで別の世界から魔素を補充すべく目をつけたのが主人公がいた世界であり、命を落とした主人公の魂を異世界に送る際に互いの世界の壁を一時的に開きそこから魔素を異世界に送り込むといった流れである。
 しかしここで一つ問題があるらしく、それは魂が途中で消耗して消滅することである。

「途中で魂が消耗して消滅してしまった場合、充分に魔素を送ることができなくなってしまいます。そこで私があなたの魂を強化しますが、それに伴い特殊な能力を得ることとなります。」

 ここで魂を強化するということはつまり、神様からチート能力を授かることであるため俺様最強な展開になるわけである。
 これは今まで不幸な目に遭ってもなお頑張ってきた分のご褒美だと思えばとても大きな嬉しいことである。

「ですがあなたの魂は器が小さいため、世界を渡るほどの強化をしたとしてもその器が耐えられません。仮に耐えれたとしても短い命で直ぐに死んでしまうでしょう。」

 その説明を聞き内心がっかりした。現実はそう甘くはないというわけである。

「けれどご安心ください。魂の強化の際に弱化も同時にすることで強化による魂の負担を緩和します。」

 女性の説明から一部不穏なワードが出てきたが、まだ希望が残っているというのが分かった。魂の弱化について聞いてみると、魂の強化で器に収まりきらない力を抑え込むための処置であり、いわゆるストッパーのようなものとのこと。
 簡単に言えば制約付きのチート能力を授かるということであり、例えば攻撃力が大きく上がる反面防御力や素早さなどが大きく下がる。まるで祝福と呪いを同時に得るようなものである。

「ではこれより、魂の強化による儀式を開始します。儀式が終了した直後にあちらの世界へお送りします。」

 そうして女性が手を上に掲げると自身の足元に魔法陣らしきものが出現し、光り輝いてる女性の身体の光がより強くなった。そうして女性は目を瞑り詠唱を始める。

『あなたのこれからの人生、数多の名誉を得て強大な力を得ていくでしょう。けれど人々は、あなたを称賛することは決して無く、あなたから周囲の助けを得ることは難しいでしょう。』

 詠唱を終えると足元の魔法陣もさらに強く発光し視界が真っ白になっていく。そんな中、思い浮かんだ疑問を口に出す。

「あの、なんで僕が選ばれたんですか。沢山の、僕よりも優れている人がいるというのに。」

 そう言い切った直後、視界が完全に真っ白になり再び意識を失っていく。

「…神の気まぐれ、ですよ。」

 意識が途切れる直前に、女性からの返答が聞こえた気がした。
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