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第一章・学園編

第八話

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 バタン

 僕は窓を開き、部屋から抜け出す。

(このまま部屋にいるとまずいな。)

 もし向こうがこちらに攻撃してきた場合、狭い部屋の中で戦闘することになる。それだとこっちが不利になる。それに寮内だと他の部屋の生徒に危険が及ぶかもしれない。

(そうなると外で迎え撃つ他ないな。)

 外でなら周りに危険が及ぶことはないだろうし、身を隠せる場所も多い。
 
(ここまで来ればいいかな。この辺なら周りの被害は出ないだろうし。)

 そうして寮から数十メートル離れてると、向こうの気配がこっちに向かって来ている。
 向こうも外に出てるようだ。

「それじゃ、相手が来るまで少し細工をしておくか。」

 もし戦うとなると、出来るだけこっちが有利になるようにする必要がある。狩りと同じだ。
 そこら辺に罠を仕掛けておく。といっても簡易的なものばかりだが、罠にかかって隙を作れればそれでいい。

「さて、準備は済んだし…あとは本番だ。」

 魔力探知で相手との距離が五メートルくらいになったとき、相手の姿を目視できた。
 やはりあの時の男子生徒だ。しかもよく見ると手になんか短剣に似た武器を持ってる。

「やぁ、あのとき僕を死なせようとした生徒じゃないか。ここまで追いかけてくるなんて、僕に謝罪したいのかな。」

 まぁ本当に謝りに来るのなら手に武器を持ってるわけないけど。少し挑発してみる。

「…まさか生きているとは思わなかった。あの毒は一分で体の自由が効かなくなって、数分で命を落とすほどのものだぞ。」

 そんなものを僕に盛ったのか⁉︎
 もし不死鳥フェニックスが一度殺してくれなかったらホントに死んでたな。

「…こういうのにはやり慣れてるの?」

「…どのみち死ぬ前だし教えておこう。不死鳥フェニックスの卵を捕獲せよとの任務があった。本来はあのボンボンどもを囮にするつもりだったが、あの時ちょうど貴様がいてな。」

 なるほど。つまり僕は巻き込まれた挙句、囮として殺されかけたというのか。
 才能のことだけでも不幸だというのに、運が悪いというか、逆に凄いというか…

 というか、僕自身コイツのことをまだ分かっていない。正体も分からないままだし、あれを行使してみよう。

解析眼アナライズ・アイ、発動)


『名前』シラキ=スクラ
『種族』人間
『基礎レベル』15
職業ジョブ斥候スカウト・《暗殺者アサシン(隠蔽発動中)》
『適正属性』風、土
技術スキル』剣術(短剣術、双剣術)、投擲術、《暗殺術(隠蔽発動中)》、探索、隠密
魔法マジック』風属性魔法(初級)、土属性魔法(初級)
能力アビリティ
剣撃威力向上:剣での攻撃時に、速度及び威力にプラス補正
《奇襲急所率補正:奇襲時の急所率に確率補正(隠蔽発動中)》
技能アーツ
「剣技」
一閃スラッシュ
「双剣技」
二段斬りダブルスラッシュ
「投擲技」
投擲刃スロウ・ダガー
《「暗殺技」(隠蔽発動中)》
首刈ネック・キル心穿突ハート・スラスト
「探索」
五感集中ファイブセンス・コンセントレイション気配感知サイン・ディテクション
「隠密」
気配遮断サイン・ブロック消音歩行ミュート・ウォーク、《隠蔽コンセアルメント(隠蔽発動中)》


 目の前の男子生徒の潜在能力値ステータスを見ることができた。
 名前はシラキ=スクラか。というか職業ジョブ暗殺者アサシンとあるが、能力値板ステータスボードには(隠蔽発動中)と隣に表示されている。
 これは隠蔽コンセアルメントによるものなのがすぐに分かる。他人に自分の正体を知られないよう偽の情報を作っているようだ。

「一度は諦めたものの、貴様が生きて戻ったのを聞いた時チャンスだと思った。貴様を確実に仕留め、今度こそ任務を達成する!」

 そう言ってシラキ=スクラは手に持ってた短剣を僕目掛けて投げつけてきた。
 僕は咄嗟に魔力盾マナ・シールドを展開して防ぎ、盾がカンカンと短剣が当たる音をたてる。

「不意打ちのつもりか。投げるなら僕も負けないぞ。」

 そう言って魔力弾マナ・ボールを投射する。しかしシラキ=スクラは隠してあった短剣を取り出し攻撃を相殺する。

「その程度の攻撃が聞くと思ったか。」

 シラキ=スクラは素早い動きで近づいてくる。流石は暗殺者アサシン職業ジョブ持ちといえる。
 僕は抜剣して盾と共に短剣の攻撃を防ぐ。

「流石は暗殺者アサシンか、良い身のこなしだ、シラキ=スクラ!」

「な、なぜ貴様が俺の名を!」

 男子生徒、もといシラキ=スクラの動揺で一瞬の隙が生まれる。
 そこを逃すことなく、攻撃を入れていく。

「『片手剣技・円斬スピンブレイド』!」

 体を横に捻り、その勢いで身体を一回転する。そして剣を回転に合わせて横斬りする。

「くっ」

 この剣技は横範囲の敵を攻撃するための技で、剣を振ったときの威力は一閃スラッシュよりも高い。

「『風属性魔法・風刃エアブレイド』」

 シラキ=スクラが魔法で風の刃を飛ばして来た。
 魔力盾マナ・シールドで防いだら、ギャギーンと刃が当たる甲高い音が響く。

「『土属性魔法・石礫投射ストーンショット』」

 次は幾つもの石が僕目掛けて飛んでくる。
また魔力盾マナ・シールドで防ぎ、カンカンと石がぶつかる音が響く。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 気づけば盾にヒビが入ってる。そこまで大きなヒビではないものの、このまま防いでたらいずれ壊れる。

(このまま戦いを続けてたら負けるな。)

 向こうは短剣を武器とした暗殺者アサシン、しかも魔法も使えるため遠距離中距離短距離と、まさにオールラウンダーだ。

(それに基礎レベルも向こうが高いから、純粋な力の時点で負けてるな。)

 今の僕の基礎レベルは5、それに比べて向こうは15と、僕の3倍のレベルだ。

(となれば、向こうの隙を狙って急所を当てる他ないわけだが…)

 向こうは短剣を投げたり魔法を放ってくるから好きを作るのは難しい。
 だがしかし、こんなこともあろうかと準備は既にしている。

「終わりだ。『暗殺技・首刈ネック・キル』」

 シラキ=スクラの短剣が黒い光を纏い、僕の首目掛けて刃が迫る。
 しかしその刃が当たる前に彼の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 ゴヴヴン!

「ぐあぁ!」

 彼の足元から直径1メートルほどの炎の柱が生じ、炎に飲み込まれた。

(よし、早速成功!)

 これは僕が仕掛けた罠、『炎属性魔法・起爆焱柱陣バーニング・トラップ
先程仕掛けといた罠を活かすことができた。

「くっ、おのれ…」

 炎の柱が消え、炎に飲み込まれたシラキ=スクラは地面に伏していた。

(見た目は強そうだけど、威力はそんなに高くないんだよな。)

 所詮は初級魔法、そう簡単には倒せないというのは分かってた。一発で倒せるとすれば精々E~Fのモンスターくらいだろう。
 だが、再び隙が生まれた。

(これで終わらせる!)

「『魔法剣技・魔刃斬マナ・スラッシュ』‼︎」

 僕の渾身の技をシラキ=スクラに斬りつける。
 剣の刃に魔力を纏わせて魔力剣を作り出し、剣技の一閃スラッシュでの攻撃。これが魔刃斬マナ・スラッシュの原理だ。

バタッ

 斬りつけられたシラキ=スクラがその場に倒れる。

「ふぅ、なんとか倒せたか。」

 一時はどうなるかと思ったものの、なんとかなったようだ。

「それじゃあ早く片付けるか。そろそろ人がーーー」

ザシュ

心穿突ハート・スラスト

 一瞬、胸に痛みが走る。そして痛みが走って数秒経ち、地面に倒れる前に自分の心臓を貫かれたことを理解する。

「ふふ、俺がその程度の攻撃で倒れると思ったか。」

 そう言ってシラキ=スクラは立ち上がり、倒れた僕を見下ろす。

「く、そ…」

 そうして僕の意識はゆっくりと落ちていく。



「ハッ、面倒かけさせてくれたものだな。」

 シラキ=スクラは倒れたコトノ=オオトリを蹴りつける。

「しかし生存してることを耳にして調べたのだが、なかなか有名そうじゃないか。適正属性が無属性で、ジョブが剣士と魔法使いと珍しいジョブだとか。だが結局は欠陥と周りから言われてる。」

 そう言いながらシラキ=スクラはコトノ=オオトリの頭を踏みつけながら淡々と話し続ける。

「確かにそうだと思ったよ。なんでお前のようなやつがこの世に生まれたんだろうなぁ。まさに生まれつきの負け犬だな。」

 そうしてシラキ=スクラは踏みつけるのを止め、その場から去ろうとする。

「良かったな。貴様のような負け犬がこのまま生き続けないように殺してやったのだからな。感謝してほしいものだ。まぁ、もう聞こえてないか。」

 そうしてその場を立ち去ろうと足を前に出した瞬間、シラキ=スクラの脇腹に痛みが走った。

「勝手に人を負け犬呼ばわりしないでもらえるかなぁ。」

「な、き、貴様、なぜ!」

 彼の背後には死んだはずの男がいた。そしてその男は剣を持ち、シラキ=スクラの脇腹を刺している。

「言っとくけど僕は、この世に生まれて後悔はないぞ。」



(どうやらあれが発動したようだな。)

 あの時、シラキ=スクラの技能アーツで心臓を貫かれた時には僕は一度死んだ。
 けれどこうして生きているのにはちゃんとした理由がある。

「なんで僕が生きているのかが不思議かな。答えは簡単、生き返ったからだ。」

 僕には不死鳥フェニックスから授かった力がある。
 その中の一つが僕が死ぬのと同時に発動した。
 その力の名は『無帰むにきす』。能力は“一日に一度死んだ時、一度復活ができる”だ。つまり僕は復活人間になったわけだ。
 といっても一日に一度復活のため、必ずしも万能というわけではない。一日一回限定で蘇る。

「生き返った、だと。そんな馬鹿な…」

「事実だ。こうして生き返ってるわけだし。というかこれが二回目の死なんだけど。」
 
 そうして僕は剣を引き抜き納め、彼に手を突き出し触れる。そしてもう一つの力を行使した。

「『業火パニッシュ・オブ・ファイア』」

 すると漆黒の炎が出現し、シラキ=スクラに纏わりつく。

「ギ、ギャアアアアア‼︎⁉︎‼︎‼︎」

 辺り一面に彼の断末魔が響き渡る。そして纏わりついてる炎が蛇のような動きで更に纏わりつく。

「その炎は心の悪意というのが大きければ大きいほど苦痛は大きいんだ。メチャクチャ痛いということは、お前の悪意はとても大きいということだな。」

 そう言い残して僕はその場から立ち去る。あんな断末魔の叫びだと必ず人がやってくる。
 そしたら必ず面倒になるに決まってる。
 それにあの様子だとあと数分の命だろうし、というより悪意が大きいやつを助ける気にもなれない。

「そういえば言い忘れてたな。…僕はただ、前に進むだけだ。」
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