25 / 39
第6章 疾走
疾走⑥
しおりを挟む
「これは一体…!?」
言葉を失った私に、エルマが説明をしてくれた。
「彼女たちは、離れたところにいる魔女の魂(ソウル)だけを、転写して霊体化させた存在よ。短時間だけではあるけど、物質世界に対して物理的に干渉が可能だし、本体ほどの出力は出ないけど、魔法も使える。私たち魔女の奥の手、"霊体召喚"と呼ばれる上位の召喚魔法よ。」
エルマはその法外な魔法事象を可能にする触媒である、楔石(くさびいし)を掲げて見せた。それは、魔女集会がミラルダによって襲撃された直後に、魔女集会の長、「光のアストラエア」が幽鬼(ファントム)たちに対抗するための手段として、魔女たちに配布した物だった。
召喚された4人の霊体は、姿を表すや否や、一斉にミラルダたちに襲いかかった。
4体の幽鬼たちは一瞬、"王の黒い手"を掲げたが、4人の魔女の霊体は、誰一人として魔法を使おうとせず、それぞれの得物で、敵へと殴りかかった。
「この4人を喚んで正解だったわね。」
一息入れるようにエルマはため息をついた。
「「紅(くれない)のロザリィ」、「石切(いしきり)のミレーヌ」、「白銀(しろがね)のフェルミ」、「清流(せいりゅう)のレイン」。皆、武器を使った白兵戦も得意な魔女なの。この前みたいに多数で包囲されるとつらいけど、一対一なら負けはしないわよ。」
エルマの言うとおり、召喚された4人の魔女の霊体は、幽鬼たちとの接近戦において、全くひけをとっていなかった。
ロザリィは細身のレイピアを片手に素早く、かつ力強く踏み込み、時には、紅の雷を放ちながら、剣による接近戦と、魔法による牽制の組み合わせで幽鬼を翻弄していた。
ミレーヌは大槌(ウォーハンマー)を振り回し、幽鬼たちを接近させず、重い一撃は小さな盾を構える幽鬼の体勢をいともたやすく崩した。
フェルミは以前に使用していた、中距離戦用の仕込み杖に加え、もう一方の手には、弧を描いた奇妙な形の鋸(ノコギリ)とも鉈(なた)ともつかない武器を持っており、戦闘距離に応じて、それぞれの武器を巧みに使い分けていた。
レインは湾曲した細身の曲剣による双剣のスタイルだった。まるで踊っているかのような優雅なステップで、幽鬼の剣戟を受け流しつつ、身体の回転を利用した素早い連撃に、幽鬼の方が防ぐのがやっとのように見えた。
「さてと、」
エルマは弓を構え直すと、魔法の矢をつがえ、狙いをピタリとミラルダに定めた。
「お暇(いとま)する前に、確認しておきたいことがあるわ。単刀直入に尋ねるけど、"渡り烏"というのは何者なの?私たちが知っている魔女かしら?」
ミラルダは瞬きひとつせず、エルマを睨み付けたままだった。
「貴女たちが"彼女"の正体を知ったところでなんだというの?"彼女"はずっと前から来るべきときに備え続けてきた。貴女たちがのんびりと仮初めの平和を楽しんでいる間も、着実に計画を進めてきたのよ。"彼女"のことを知ったところで、もう誰にも止められはしないわ。」
相変わらず要領の得ないミラルダの回答に、エルマはため息をついた。
「教える気はないということね。じゃあ、こっちから聞くけど、渡り烏の正体は『沈黙のユーリア』なの?」
ミラルダは予想外の指摘でもされたかのように一瞬きょとんとした表情を見せたが、一転して唇の端を吊り上げた。
「なるほど、貴女たちは"彼女"の正体が"ユーリア先生"だと思っているのね。」
ミラルダはおもむろに右手を掲げた。彼女の手には、銀色の鎖に繋がれたタリスマン(御札)が握られていた。
「面白い推理ね。別に"彼女"から口止めされているわけではないけど、楽しそうだから貴女たちの考えるクイズに付き合ってあげることにするわ。あえてヒントをあげるとするなら、そうね…以前にも言ったけど、『"彼女"について、私から語ることなど何も無い』ということよ。"彼女"は"彼女"の目的を果たし、私は私の目的を果たす。ただそれだけ。まぁ、でも。」
ミラルダの手の中のタリスマンが紫色の光を発した。
「ここで死ぬ貴女には関係無いわね。」
エルマは無警告に引き絞った光の矢を放った、が、光の矢は空中で突然消えた。
慌てて次矢を構え直そうとしたエルマだったが、違和感を感じるように首に手を当てた。
「そういえば、初めてだったわね。貴女と刃を交えるのは。」
ミラルダは楽しそうに右手の光るタリスマンを振って見せた。
「『沈黙の禁則』。この魔法にかかった魔女は詠唱ができなくなるの。私達魔女にとっては、最悪の魔法でしょう?」
エルマはすぐさま腰の矢筒から実矢を引き抜いてつがえた。
「その魔法は知ってるわ。あんたが使えるとは想定外だけどね。でも、その魔法は使用者本人の詠唱も禁じる魔法よ。互角の条件ならあんたを仕留めるのに何の問題もないわよ!」
エルマは実矢を放ったが、ミラルダの前に割って入った幽鬼の盾によって阻まれた。
「ええ、そのとおりね。でも、」
いつの間にか現れた幽鬼の増援たちが、私達の周囲を囲んでいた。
「私が魔法を使う必要はないわ。この子たちが貴女をいたぶるもの。せめて死に際で私を楽しませてちょうだい。」
そう言って、死人占い師(ネクロマンサー)は小さく舌なめずりをした。
言葉を失った私に、エルマが説明をしてくれた。
「彼女たちは、離れたところにいる魔女の魂(ソウル)だけを、転写して霊体化させた存在よ。短時間だけではあるけど、物質世界に対して物理的に干渉が可能だし、本体ほどの出力は出ないけど、魔法も使える。私たち魔女の奥の手、"霊体召喚"と呼ばれる上位の召喚魔法よ。」
エルマはその法外な魔法事象を可能にする触媒である、楔石(くさびいし)を掲げて見せた。それは、魔女集会がミラルダによって襲撃された直後に、魔女集会の長、「光のアストラエア」が幽鬼(ファントム)たちに対抗するための手段として、魔女たちに配布した物だった。
召喚された4人の霊体は、姿を表すや否や、一斉にミラルダたちに襲いかかった。
4体の幽鬼たちは一瞬、"王の黒い手"を掲げたが、4人の魔女の霊体は、誰一人として魔法を使おうとせず、それぞれの得物で、敵へと殴りかかった。
「この4人を喚んで正解だったわね。」
一息入れるようにエルマはため息をついた。
「「紅(くれない)のロザリィ」、「石切(いしきり)のミレーヌ」、「白銀(しろがね)のフェルミ」、「清流(せいりゅう)のレイン」。皆、武器を使った白兵戦も得意な魔女なの。この前みたいに多数で包囲されるとつらいけど、一対一なら負けはしないわよ。」
エルマの言うとおり、召喚された4人の魔女の霊体は、幽鬼たちとの接近戦において、全くひけをとっていなかった。
ロザリィは細身のレイピアを片手に素早く、かつ力強く踏み込み、時には、紅の雷を放ちながら、剣による接近戦と、魔法による牽制の組み合わせで幽鬼を翻弄していた。
ミレーヌは大槌(ウォーハンマー)を振り回し、幽鬼たちを接近させず、重い一撃は小さな盾を構える幽鬼の体勢をいともたやすく崩した。
フェルミは以前に使用していた、中距離戦用の仕込み杖に加え、もう一方の手には、弧を描いた奇妙な形の鋸(ノコギリ)とも鉈(なた)ともつかない武器を持っており、戦闘距離に応じて、それぞれの武器を巧みに使い分けていた。
レインは湾曲した細身の曲剣による双剣のスタイルだった。まるで踊っているかのような優雅なステップで、幽鬼の剣戟を受け流しつつ、身体の回転を利用した素早い連撃に、幽鬼の方が防ぐのがやっとのように見えた。
「さてと、」
エルマは弓を構え直すと、魔法の矢をつがえ、狙いをピタリとミラルダに定めた。
「お暇(いとま)する前に、確認しておきたいことがあるわ。単刀直入に尋ねるけど、"渡り烏"というのは何者なの?私たちが知っている魔女かしら?」
ミラルダは瞬きひとつせず、エルマを睨み付けたままだった。
「貴女たちが"彼女"の正体を知ったところでなんだというの?"彼女"はずっと前から来るべきときに備え続けてきた。貴女たちがのんびりと仮初めの平和を楽しんでいる間も、着実に計画を進めてきたのよ。"彼女"のことを知ったところで、もう誰にも止められはしないわ。」
相変わらず要領の得ないミラルダの回答に、エルマはため息をついた。
「教える気はないということね。じゃあ、こっちから聞くけど、渡り烏の正体は『沈黙のユーリア』なの?」
ミラルダは予想外の指摘でもされたかのように一瞬きょとんとした表情を見せたが、一転して唇の端を吊り上げた。
「なるほど、貴女たちは"彼女"の正体が"ユーリア先生"だと思っているのね。」
ミラルダはおもむろに右手を掲げた。彼女の手には、銀色の鎖に繋がれたタリスマン(御札)が握られていた。
「面白い推理ね。別に"彼女"から口止めされているわけではないけど、楽しそうだから貴女たちの考えるクイズに付き合ってあげることにするわ。あえてヒントをあげるとするなら、そうね…以前にも言ったけど、『"彼女"について、私から語ることなど何も無い』ということよ。"彼女"は"彼女"の目的を果たし、私は私の目的を果たす。ただそれだけ。まぁ、でも。」
ミラルダの手の中のタリスマンが紫色の光を発した。
「ここで死ぬ貴女には関係無いわね。」
エルマは無警告に引き絞った光の矢を放った、が、光の矢は空中で突然消えた。
慌てて次矢を構え直そうとしたエルマだったが、違和感を感じるように首に手を当てた。
「そういえば、初めてだったわね。貴女と刃を交えるのは。」
ミラルダは楽しそうに右手の光るタリスマンを振って見せた。
「『沈黙の禁則』。この魔法にかかった魔女は詠唱ができなくなるの。私達魔女にとっては、最悪の魔法でしょう?」
エルマはすぐさま腰の矢筒から実矢を引き抜いてつがえた。
「その魔法は知ってるわ。あんたが使えるとは想定外だけどね。でも、その魔法は使用者本人の詠唱も禁じる魔法よ。互角の条件ならあんたを仕留めるのに何の問題もないわよ!」
エルマは実矢を放ったが、ミラルダの前に割って入った幽鬼の盾によって阻まれた。
「ええ、そのとおりね。でも、」
いつの間にか現れた幽鬼の増援たちが、私達の周囲を囲んでいた。
「私が魔法を使う必要はないわ。この子たちが貴女をいたぶるもの。せめて死に際で私を楽しませてちょうだい。」
そう言って、死人占い師(ネクロマンサー)は小さく舌なめずりをした。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる