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1巻
1-1
しおりを挟む寝苦しさを感じてうっすら目を開けると、朝靄が立ち込める庭先からの青白い光が、窓の形を切り取り、白い壁に丸く映っていた。
夜と朝、月光と朝日が溶けて混じった水底にいるようだ。
(……今、何時だ?)
普段なら、まだ夢の中にいる時間だろう。ぼんやりした頭でそんなことを思い、サイドテーブルの上に手を伸ばした。寝る前に充電しておいたはずのスマートフォンで、時刻を確認しようとしたのだが――
(あれ、ないぞ。俺のスマホ、鞄に入れっぱなしだったか?)
いつも同じ場所に置いてから寝るのが習慣なのに、手探りしても見つからない。それどころか、サイドテーブルがあるはずの位置を探っていた手がガン、と何かに当たった。
「痛って」
思わず声に出してから、痛みのおかげでようやく意識が明瞭になってきた。
寝台に横たわったまま、ぐるりと室内を見回す。
いつもの「見慣れた部屋」だった。
花鳥を透かし彫りされた、紫檀の寝台。象嵌細工の円卓と、二脚の椅子。本や骨董品を陳列するための書架と、その横には山水を描いた屏風。どれも古いが、名工の品であることは一目見て分かる。
この部屋に住むことになった時、「新しいものを用意する」と言い張る「彼」を宥めすかして、放置されて埃を被った調度品を掃除し、壊れた部分を修繕して使い続けていた。そのせいか、住み始めて数年経った今では、見慣れなかった重厚な家具にも愛着が湧くようになった。
そう。ここでは、アラームなんて鳴るはずがないのだ。
朝の陽光に自然と意識が覚醒する習慣は、「この世界」に来てから身に付いた。
今朝だって、いつもと同じ時刻に起きるはずが、何故中途半端なタイミングで覚醒してしまったのか。
探さなくても、原因はすぐに判明した。
(またか……はあ。また勝手に侵入しやがったな、コイツ)
寝起きでもすぐ覚醒するタイプなので、さほど時をかけずに異変を察知した。何者かの両手が背後から腹に巻き付き、片足が脛の上に無遠慮にのっている。
重い。ぎゅうぎゅう絡みつく両腕に圧迫され、足も重石のようだ。これでは安眠を妨害されても仕方がない。
溜息を一つ吐いてから、背後に首を捻り、安眠を妨げた不届き者を一喝した。
「殿下、……殿下! また間違えてますよ。ここは私の部屋で、私の寝台ですよ。何故毎回勝手に入って、勝手に寝てるんですか! ほらもう、起きてください、朝ですよ」
身じろぎすると、後ろからひっしとしがみ付いていた男が「んー」と呻き、首筋に顔を埋めてきた。そのまま深く息を吸い込む気配に、首筋がぞわりとする。
昔見た、友人が飼い猫を「吸う」光景を思い出した。その時の、吸われている猫の何とも言えない虚無と哀愁に満ちた表情を、今の自分も浮かべているのではないだろうか。
腹の前に回された腕をべしべしと叩く。
「殿下、起きなさい。私はもう起きますから、離してください」
ぐるんと腕の中で身体を反転させる。これ以上ないほど近くにお互いの顔があった。身長差があるので、普段はここまで顔が近くなることはない。
「殿下、いい加減になさい」
今度は形の良い額をべちんと叩いた。うう、と眉をひそめるが、これでも起きない。仕方ないので鼻を摘まんだ。
さすがに目を開けたが、まだ寝起きのぽやんとした眼差しである。ようやく焦点が合うと、嬉しそうに目が細まった。
「先生。おはよう。今朝も綺麗ですね」
そう言って、蕩けるような笑みを向けた。
馬鹿らしくなって、頭の下から枕を引っこ抜いてやった。そのまま、美しい顔めがけ容赦なく落とす。
んが、と小さく呻くのを放って、さっさと寝台を下りる。
「まったく、何度も言っているでしょう。ご自分のお部屋で寝なさい。子供の時分ならまだしも、御年お幾つにおなりですか。……殿下?」
返事がない。どころか反応がない……
振り返ると、顔の上に枕をのせたまま、腕をだらりとさせて微動だにしない青年の姿があった。結っていない癖のある長い髪が無造作に広がっている。大きく寛げた襟元から覗く健康的な胸板は上下していない。
ピク、と口元が引き攣った。むろん苛立ちのためだ。
(朝っぱらから何ふざけてるんだ、いい歳して……ああいや、駄目だ。ここで反応してやるから、いつまでたっても俺の言いつけを無視するんだ)
ならばと、こっちも無視して朝の支度をすることにした。屏風の反対側で身繕いし、腰まである長い髪を梳くと、手水で顔を濯ぐ。この作業にも、今や随分慣れたものだ。
ふと振り返れば、青年はいまだに同じ体勢のまま、ピクリとも動かない。
(息……してるよな。絶対、ふざけてるだけだって分かってるのに)
そろそろと寝台に近づいた。
(若い奴でも心筋梗塞とか、いきなり脳震盪になるとか……この子に限って絶対ないだろうけど)
「殿下? 朝からふざけるのも大概にっ」
顔の上の枕に手を伸ばした瞬間、甚だしい瞬発力で上体を起こした青年に腕を掴まれ、グイッと引っ張られた。
倒れ込みながら頭に浮かんだのは忸怩たる思いだ。
(またやっちまった!)
力強い腕に絡めとられ、もう片方の腕も腰に回される。寝台に半分寝そべった状態で、青年――花鶏が肩口に顎をのせてきた。
「こら、殿下!」
「おはよう」
「……おはようございます。寝癖が凄いですよ」
花鶏はうるさそうに前髪を手でかき上げ、「これでいい?」と甘えるように首筋に擦り寄った。
「……毎度貴方のおふざけに付き合うのをやめなくてはと思うのに……楽しいですか? 子供みたいな真似をして」
「楽しいですよ? 先生が最近俺に冷たいので、構ってもらうのに必死なんです。健気だと思いませんか?」
「……冷たい? 私が?」
「前は一緒に寝てくれたけど、最近は寝台にも入れてくれないし、俺から触らないとこうやって『スキンシップ』もお預けにされる。昔の先生はもっと俺に優しかったのに」
口調は不満げだが、目は笑っている。こういう時の花鶏はじゃれているだけだ。
「昔の貴方はもう少し可愛げがありましたからね。というか、私は許可していませんよ。殿下が勝手に寝台に入ってきているんです。身体が大きくなったんですから、態度もしゃんとしてください。臣下の寝床に主人が入ってくるなど。……変な噂が広まったら困るのは殿下ですよ」
「変な噂って? 先生、それは何ですか。俺は初めて聞きました。どんな誤解か知っておいた方が良さそうだ」
わざとらしく目を見開く花鶏を睨めつけた。
(ああ言えばこう言う奴に育っちまって……小さい頃は素直で、俺の言いつけをハイハイ聞く子だったのに)
在りし日の思い出に、再びの溜め息を吐く。
「口さがない噂については気にすることはありません。殿下が悪いわけじゃありませんから」
当時の花鶏を思い出し、無意識に頭をよしよしと撫でていた。
「けれど、殿下もいずれ細君を娶り、ご自分の家族を持つことになるんですよ? いつまでも私が一緒というわけには」
頭を撫でられて機嫌を良くしていた花鶏が、途端に目つきを険しくした。
「俺の家族は先生だけだって何度言えば分かるんですか。……ねえ、俺には先生だけだから、そんな悲しいこと言って俺を虐めないで」
まただ。成長した花鶏は、この手の話題に過敏に反応するようになった。しかも、悪い意味で。
(もしかして女性不信なのか……? だとしたら余計、俺が気を利かせて良いお嬢さんとの縁を取り持ってやるべきか)
「そんなこと言って、殿下の方こそ先生を困らせないでください。それに、それとこれとは無関係でしょう。こんな風に私の寝床に入ってきたら駄目です」
「子供の頃の夢を見たんです。それで悲しい気分になって、どうしても先生の顔が見たくなって」
「だからって起きた後も子供のままでいる気ですか? ほら、いい加減に離れなさい」
「先生が俺に冷たかった頃の夢だった」
花鶏を引き離そうと肩に置いた手が、ぴくりと震えた。それ以上力を籠めることができず硬直する。
花鶏はさっきまでのお調子者の雰囲気をかき消し、悲しげに眉尻を下げていた。こころなしか、目も潤んでいるように見える。そして自嘲するように小さく笑った。
「あんな昔の夢をまだ見るなんて、おかしいですよね。たまにあれが現実だったのか分からなくなる。……だって」
言いながら、抱きしめる腕に力を込めて頬擦りしてくる。
昔ならともかく、成長した今は大型犬に圧し掛かられているようだ。花鶏は甘えた声で「俺の先生は、こんなに綺麗で優しい人なのに」と囁いた。
抱き着きながら目線だけを上げた花鶏が、「俺のこと、この先も嫌いになったりしませんよね?」と、回した腕にさらに力を込める。ぎちぎちと獲物を締め上げるような強さに、思わず眉をひそめた。
「もちろんですよ、殿下」
縋るように額をぐいぐいと押し当ててくる花鶏の頭を、優しく撫でてやった。
「殿下を嫌うわけないでしょう。この世で一番大事に思っていますよ」
「ずっと傍にいてくれますよね?」
言葉に詰まった。本当ならここに存在するはずのない、偽物の自分が、いつまでも一緒にいることができるとは思えない。
無言をどう受け取ったのか、花鶏がじっと見つめてくる。
「俺を置いてどこにも行かないって、今、約束してください。約束してくれたら、大人しく自分の部屋に戻るよ」
「殿下にも、いつか私などより大切な人が現れますから……」
「俺の大切な人はこの先も先生だけだ。先生も俺だけを大事にしてください。俺以外の誰かに『先生』なんて呼ばせるのも絶対に駄目だ。でないと」
花鶏が押し殺したような声でそう言った時、薄暗い部屋の隅で、姿の見えない何かが蠢く気配があった。
――ずるり、と。重いものが床を擦るような音が聞こえた。
花鶏に抱き着かれたまま、「分かった分かった」と頭を撫でて、やれやれと溜息を吐く。もうこれで何度目だろうか。懐いてくるのは可愛いが、年齢を鑑みれば、もう少し大人びていてもいいくらいだ。甘やかしてはいけないと思いつつ、面と向かうとつい絆されてしまう。
「まったく貴方ときたら。いつになったら先生離れができることやら」
「離れる必要なんてあるんですか? 生涯、俺の傍にいてくれる約束でしょう」
(……そんな約束したか? してないだろ。適当なこと言いやがって)
指摘したらまた機嫌を損ねそうだったので、黙っておいた。
(可愛くて、いい子なんだけどな。これじゃあホントに嫁さんどころか恋人もできないんじゃないか? 俺の育て方に問題があったんじゃないだろうな……)
すりすりと甘えてくる花鶏をあやしながら、少し心配になってきた。まさか本当に、これまでの自分の接し方に人格形成における悪影響があったとしたら、どうしよう。
気付いた時には過去の記憶の扉が開き、この世界で初めて花鶏に出会った時のことを思い出していた――
第一章 悪役エンド回避プラン
「……そういうわけだから、花鶏殿下の世話係を新しく雇い入れなくてはいけないね。蘇芳」
芦屋はぱちり、と瞬きした。まるで焦点が定まらないかのようにぼんやりしていたが、やっと自分の目の前の、何やらおかしな光景の中央に座ってこちらを見上げる人物を見つめた。
「ええ、はい。お世話を、その」
声を出したが、そのせいでまた混乱し、今度はむせそうになる。それでようやく目の前の人物も、彼の下僕の様子がいつもと違うのを察した様子だった。
「蘇芳、どうしたんだい。具合が悪いのかい? 顔色が悪いようだが」
気遣う声に無言で頷くと、その人物は立ち上がって親しげに芦屋の頬に手を添えてきた。
「冷や汗までかいて。このところ巫監術府で根を詰めすぎているのではないか。今日はもう下がりなさい。殿下のことは、明日の朝また話そう」
芦屋はほっとして、ゆるゆるとお辞儀をすると、踵を返した。
部屋を出ようという時、台の上の茶器に触れるカチャ、という音がして、穏やかな声が背中にかけられた。
「主治医を呼んで、念のため診てもらうのだよ」
無言のまま頷いて、今度こそ足早に部屋を出た。
「嘘だろ……なんだよこれ。ああくそ、歩きにくいな!」
ぶつぶつと悪態を吐きながら回廊を進み、いくつかの角を曲がり、庭園を突き抜ける外階段を上り降りし、簡素だが上質な誂えの一部屋にたどり着いた。
中に入るとすぐ戸を閉め、鍵がないのでとりあえず花器が飾ってある文机を引き摺ってきて塞いだ。
「どうなってんだ」
即席バリケードの前でへたり込み、呻きつつ手で顔を覆う。見るからに年代物であろう文机を引き摺ったせいで飴色の床に傷がつこうが、全く問題はない。
何故ならここは自分の部屋だからだ。正確に言うなら、江雪が子飼いの蘇芳に下賜した仮の住まいである。私邸も兼ねた邸宅の離れに設けてあり、何かあった時に江雪の仕事を手伝うのには都合がいい。本宅は別にあるが、もっぱらこの離れの一室で寝起きするのが常だ。
――ということを、当然のように芦屋は知っている。
数分前、芦屋はオフィスビルの一室で、ノートパソコンを前にオンライン会議の議事録を取っていた。ビルの窓から昼過ぎの日差しが射し込んできて眠気を誘い、カタカタと指を動かしているとふっと意識が遠のきかけたが、いかんせんカメラオンの状態で舟を漕ぐのはまずい。欠伸を我慢するために顔をしかめて仕事をしていた。
そして次の瞬間には、何の発端も予兆もなく、あの場所にいた。目の前に座る人物を見た最初の感想はそう――
(随分と金と気合の入ったコスプレだな)
これに尽きた。現代日本でお目にかかることはない重厚感のある服装は、ドラマなんかでよく見る隋や唐時代の漢服のイメージが一番近かった。しかし胸の前で合わせる襟の形や、腰を帯らしきもので締めているせいか、どことなく「キモノ」を連想させる。こういう衣装は時代劇でも見たことがない。
(一体いつの時代考証なんだ?)
現実逃避じみたことを考えていると、突然、視覚情報が堰を切ったように眼球から脳へ流れ込んできた。
部屋の様子。板と漆喰の壁、漆を塗ったように艶やかな板張りの床、木枠に透かし模様の入った大きな丸窓、花鳥で彩った調度品。エスニック、あるいはシノワズリとでもいうのだろうか。
和風というより中華街のそれにも似た異国情緒と、どこか昔懐かしくもある趣。しかし言葉はどう聞いても日本語だ。日本人とは似て非なる外見をした先ほどの男。それは何も着ている服ばかりではない。女性でも珍しいくらいの長髪を後ろで結って、髪飾り……いや冠だろうか、そんなものが鈍色に反射していた。
形の良い額。目は髪と同じ赤みがかった赤銅色という、外国人でもあまりない色素だ。多分カラーコンタクトとウィッグだろう。若者ファッションには詳しくないが、ぱっと見、馴染んでいて地毛かと見紛う程であった。
――と、先ほどの男が自分とそう年の変わらないことに気付いた。
(……まあ、人の趣味にとやかく言うのはよくないな)
ファンタジーから抜け出てきたようないで立ちで、堂に入ったコスプレイヤーは、何事かを自分に話しかけていた。
『花鶏殿下の世話係を新しく雇い入れなくてはいけないね。蘇芳』
声は音として耳に入ってきたが、意味は全く分からない。だが、「蘇芳」という単語を改めて思い出した瞬間、芦屋はそれまでの混乱などいっそ吹き飛ぶくらいの衝撃に襲われた。
画面越しの映像を猛スピードで見せつけられるように、それまでなかったはずの蘇芳なる人間の記憶と知識が一気に頭の中へなだれ込んできたのだ。
時間にして一瞬。しかし莫大な、一人の人間の半生の軌跡。もしも記憶に質量があったなら、煉瓦でぶん殴られて脳震盪を起こしたようなものだ。その場で気絶していてもおかしくなかった。
今、芦屋という男の意識と記憶の真横に、〈李蘇芳〉という男の人生が存在している。それは、他人が脳に居座っているかのような薄気味悪い感覚だった。
〈蘇芳〉の記憶を自分のものとするには違和感がある。一方で、幼少からの蘇芳の記憶と感情を自然と「思い出す」こともできる。自分は今や芦屋という二十七歳のサラリーマンであると同時に、外見と記憶は、〈蘇芳〉という名の十九歳の青年文官なのだ。
しかも、問題はそれだけではなかった。
冷静になってみれば、流れてきた〈蘇芳〉の記憶と、さっきの男の名――江雪というピースを組み合わせると、芦屋の記憶にぴったり合致するものが一つだけあった。
(「瀧華国寵姫譚」に出てくる登場人物と同じ名前じゃないか!)
「瀧華国寵姫譚~白虎の章~」は、半年前に発売され、それなりの人気を博したノベルゲームだ。架空の中華風世界を舞台に、主人公の少女が瀧華国の後宮に召し上げられることから物語は始まる。少女は「秘蹟の巫女」として困難を乗り越えつつ、何人かの攻略キャラとの恋愛が発展していく。
王道ストーリーに加え、大手ゲーム会社がそれまでの作品から引き継いだノウハウをもとに、マーケティングを戦略的に手掛け、設定や人物描写も好評だった。グラフィックの美しさや長編ならではの伏線回収も効いているし、攻略キャラはそれぞれ個性的で、当然ながら趣の異なる美形ぞろい。
そしてもう一つ、昨今のストレス社会の世相を反映したものか、悪役側の断罪イベントに必要以上の爽快感を提供しているのも人気の理由だろう。プレイヤーが「そこまでする?」と思ってしまうほどの執拗な報復展開。しかしプレイするうちに、それがだんだん癖になってくる、そんな評価や口コミで、このゲームは売り上げを伸ばした。
悪い奴が残酷にやっつけられるのは楽しい。誰が何と言おうと、それは人の心理だ。ましてやプレイヤーは主人公の少女に共感しているのだから当然だろう。
何故芦屋がそれを知っているかといえば、ほかでもない、彼もまたプレイヤーの一人だったからだ。「瀧華国寵姫譚」は原作小説が存在し、そちらは恋愛が主題というよりは、ライトレーベルから出たいわゆる王朝ファンタジーもので、主人公も秘蹟の巫女ではなく、雨月皇子である点が異なる。芦屋は原作を手にとった延長線上でゲームにも手を出した読者の一人だった。
芦屋はぐるぐる記憶を漁りながら、違ってくれ、勘違いであってくれと天に祈った。これがもし、夢でも、突然発症した精神疾患の類でもないのなら。自分が知っているこの世界の筋書きは――
(〈蘇芳〉はゲームの主要キャラじゃなかったはずだ。非攻略対象の端役で、主人公と会う機会もほぼない。奴は最後――)
ガタ、と背後で音がした。続いて戸を開けようとして手こずっている気配。
「蘇芳様、そちらにいらっしゃいますか? 江雪様よりお加減を悪くされたと伺いました。戸の前にいらっしゃるので?」
若い男の声。芦屋、もとい蘇芳はへたり込んだまま、ぎくしゃくと膝で這って扉から離れた。内向きの観音扉は文机で塞がったままだ。不審そうに中を気にしている人影が、磨硝子を通して見えた。
「待て、今開けるから」
まだ自分の声にも慣れない。立ち上がって裾を払った。肩からはらりと流れ落ちた長い髪の感触にはもっと違和感がある。
深呼吸一つ。逃げ場はない。今はとにかくやり過ごすしかない。
(これが夢でもなんでもなくゲームの世界なら、俺がここにいるのはまずいぞ)
とにかく状況を把握して、それから――
(ここから逃げる。外に逃げて、元の世界に戻る方法を探すしかない!)
そして叶うことならすぐにでも、この鬱陶しい長髪を切ってやるのだ。
「旦那様、白湯と熱冷ましをお持ちしました。洪庵先生もすぐに」
参ります、と言いかけた言葉を呑み込み、早蕨が怪訝な顔をする。
(そうだ、早蕨だ。こいつは〈蘇芳〉の下僕みたいなもので、確か仲は悪かったはず)
「お髪をご自分で結われたので? それにこれは……床をどうされたのです」
やっと室内に入ってきた早蕨は周囲を見回し、さらに眉をひそめた。
「戸を塞いでおられたので?」
「その、少し一人になりたかったんだ。すまない」
早蕨は無言で主人をじっと見つめた。どぎまぎしながら「どうした、早蕨」と問いかけると、何故かいきなり背中を押されて奥の寝台の方へと押しやられる。
「え、ちょっと、あの」
「蘇芳様、ひとまず横になってください。すぐに先生が参りますから、それまで絶対安静になさりませ」
目を丸くしている間に有無を言わせず寝台に放り込まれ、早蕨は部屋を出ていった。
「本当に異常はないのですか? 洪庵先生。頭に瘤でもできていやしませんか。何か変なものを口にされたとか」
「そう申されましてもなあ。大げさじゃないのかね。滋養のある薬膳を届けさせるから、薬を飲んで休ませなさい。ただの疲労だろう」
「でも私のことを名前で呼んだんですよ。ここ数年、お前以外の呼び方はされたことがないのに。それに日中から冠を外すなんて。人一倍、身なりに執着するあの人らしくない」
寝台の上で豪華な刺繍の綿布団にくるまれた芦屋は、大きな溜め息を吐いた。
あの後、洪庵と名乗る医者が診察に来た。そして診察が終わり帰るという段になって、早蕨は戸の向こうで医者を引き留め、あれこれ問いただしているというわけだ。二人は声を潜めているが、「蘇芳の耳」は性能が良いようで丸聞こえだった。
どうやら早速、違和感を与えてしまったらしい。所詮は蘇芳の身体に入った偽物の身である。
長い髪が鬱陶しかったから適当にその辺にあった紐で束ねた。邪魔だから重たい冠を外した。どれも早蕨が部屋に来る前の自分の行動だ。そんなことでいちいち困惑されては、この先キリがない。
――俺は蘇芳だ。
芦屋は布団の端を鼻まで引き上げながら、何度も念じた。少なくとも元の世界に無事戻れるまで、もしくは当面の身の安全が保障されて他人の振りをしなくても良いその時まで……蘇芳としてやっていくしかなさそうだった。
「蘇芳様」
洪庵が辞した後、釈然としない顔で早蕨が部屋に戻ってきた。
「お加減はいかがでしょうか」
「悪くない、と言いたいが、まだ熱があるみたいだ。悪いが起き上がらせてくれないか」
またしても気味の悪いものを見たような顔をされたが、もう気にしないことにした。そしてこういうことに関しては、芦屋は決めてしまえば思い切りが良い質だった。
どのみち、完全な模倣は不可能だ。最低限やり過ごせればそれでいい。
(どうせ中身が違う奴だなんて、証明のしようもないからな)
「それなら寝ていらした方が」
「書簡を出したい。筆と紙を持ってきてくれないか」
「……承知しました。紋書印紙をお持ちしますか?」
紋書は官吏が使用している紙で、よく見ると表面に地紋が一つ捺してある。
正式な文書から日々の些末な報告書まで、基本的にはこれを使い、後でどの部門の書類か判別しやすいように、意匠はそれぞれ異なっている。蘇芳の所属する巫監術府では、大きく開いたカラスウリの花弁の意匠が用いられていた。
「私信だから何でもいい。書いたら赤間に届けておいてくれるか。手隙の時で構わないから」
「構いませんが、急ぎでないならやはり休まれてください。明日は予定通り、江雪様の元へ行かれますか?」
小言を言いつつ、早蕨は書きやすいように膝の上に置く小さな折り畳みの台も用意してくれた。その上で紙にするすると文字を書きつけながら、蘇芳はそういえば、と早蕨を見やる。彼は蘇芳が個人の書簡と言ったため、行儀良く文面が見えない位置まで下がっていた。
「最近、殿下の世話役について何か聞いているか? 江雪様とその話をしている時に具合が悪くなった」
早蕨は怪訝な顔をした。
「何故そんなことを聞くんです? 帆世を追い出したのは蘇芳様でしょうに。殿下はよく懐いていらっしゃったと聞いていますが。ご実家があのようなことになったとはいえ、皇族の御方に馴れ馴れしすぎると言って罰したのではなかったのですか」
蘇芳は黙って筆を置いた。書き上げた書簡を差し出す。受け取っても蘇芳からの返答がないので、早蕨は仕方なくそのまま部屋を辞した。
(帆世……。駄目だ、記憶にない。というか、ちょっと待てよ。今気付いたけど、これって)
完全だと信じていた蘇芳の記憶、実は肝心な部分が穴空きでは? もしそうなら由々しき事態だった。
(なんでだ? あの時確かに、俺の中に〈蘇芳〉の記憶が入ってきたのを感じたぞ?)
待て。落ち着け。整理しろ。考えを巡らせると、ある仮説が浮かんできた。
つまり大前提として、ここはゲームの世界。生きて目の前に存在しているように見える早蕨も江雪も、配置されたキャラクターに過ぎない。いわば役割を与えられた駒だ。
そしてキャラクターには当然、設定がある。物語の核心に関わるキャラクターであるほど、細かく設定され、人格や個性を与えられている。〈蘇芳〉にもシナリオ上の役割があるが、所詮は端役の悪役だ。攻略対象の皇子たちほど詳細な設定がないのは当然のこと。
つまり〈蘇芳〉から引き継いだ記憶とやらも、結局は芦屋が知っているゲーム既出のエピソードの記憶に過ぎず、制作側さえ把握していない設定部分は端から知りようもないのでは?
例えば、原作小説にしか書かれていない設定やエピソードはどうだろう? もっと言ってしまえば、原作者しか知らない、文字化する前の頭の中で生まれた構想までが、この世界ではきちんと反映されているとしたら?
蘇芳はぞっとした。まるでそこら中に歯抜けがある巨大なジグソーパズルの上にいるみたいじゃないか。
(というか、シナリオに関連ある記憶しか〈蘇芳〉が持っていないとすると、それ以外の記憶は、俺だけがその歯抜け状態の盤上にいて、他の奴らはみんな補完されたパズルの上にいるのと同じ状態と言えるんじゃないか)
さっきの早蕨が、「自分のしたことなのに忘れたのか?」という態度だったのを見るに、蘇芳以外はこの世界の完全な住人だから記憶の穴など存在しない。もしくは、あったとしても不自然に感じることなくそのまま過ごしていく。所詮ここは仮想世界だから、主要キャラ以外の有象無象は人の形をした張りぼてみたいなものだ。
蘇芳だけが、現実の世界からやってきた異分子。ゲームを通して知り得ている情報以外は、全くの未知数だ。
蘇芳は腕組みをして、今しがたの仮説を整理した。
正直、記憶の穴の真偽はこの際、不明でも構わない。〈蘇芳〉の記憶はあくまで他人のそれが勝手に頭に割り込んできただけだ。たとえその記憶が不完全でも、惜しいとは思わない。
だが見過ごせないのは、蘇芳の今後の計画に支障が出る可能性がある点だろう。
名付けて、悪役END回避プラン①
「瀧華国寵姫譚」には、二人の主人公が存在する。一人は、プレイヤーが操作する少女。後の「秘蹟の巫女」だ。もう一人は、こちらは準主役と言っていい。攻略対象の一人で現皇帝の長男、雨月だ。原作小説では少女と結ばれる相手であるため、物語も初期は彼を起点にストーリーが進行する。
二人は出会ってすぐに惹かれ合うが、少女は奴婢の出だ。この先交わることはないと思われた二人は、彼女が奴婢の身分としては初めて、秘蹟の巫女として宣託を受けたことから再会。少女は正妃候補として後宮入りし、貴族子女たちと選抜試験なるものに挑み、果ては国を襲う災厄を神力によって払いのけ――と、まあ……
陰謀渦巻く宮中で果敢に、そして純真に、恋する人と絆を深めていくのだ。
どんな物語にも、スパイスとしての悪役は欠かせない。いなくてもいいが、どうせならいた方が正義のヒーローやヒロインが際立つというものだ。
「寵姫譚」における悪役は大なり小なり複数いる。その中の一人が、大変遺憾ながら〈蘇芳〉その人であった。
〈蘇芳〉は若くして後の宰相・江雪に取り立てられた文官で、彼の遠縁にあたる。美しい容姿と才覚を持つが、それらはいわば表の顔で、裏では口にするのも憚られる悪癖に手を染めていた。
一つは贈賄。もう一つは弱き者を嬲って喜ぶ嗜虐癖である。後者はより質が悪い。人買いから身寄りのない少年少女を買って虐待したとか、犬に喰わせて、死体は自宅の井戸に投げ捨てているだとか……
ちなみにこれらはゲーム上では「噂」として扱われ、真偽のほどは定かではない。そのためか、〈蘇芳〉の「記憶」もその辺りは曖昧だった。
(曖昧で良かった。井戸の中を確かめるのは……絶対やめておこう)
ともかく、清廉な表の顔と知る人ぞ知る裏の顔が相まって、〈蘇芳〉を知る人々の人物評価はちぐはぐだ。まあゲーム上では間違いなく、下衆野郎に分類されるが。
そんな卑怯で矮小な小者、〈蘇芳〉が唯一服従するのが、彼を取り立てて官職にまで押し上げた江雪である。
この江雪こそ、「瀧華国寵姫譚」における最大の悪役だ。彼は自分が擁立した第三皇子を玉座に座らせるため策を弄し、雨月皇子暗殺を企てた。
そして中盤、ついに雨月は逃亡を余儀なくされ、江雪は念願叶って覇権を握る。そして仕上げとばかりに、息子のように可愛がり育てた傀儡の皇子を、部下に命じて毒殺させる。この役目を実行したのが、何を隠そう〈蘇芳〉だ。
シナリオ終盤、反乱軍を率いて帰還した雨月によって江雪一族は捕らえられて処刑される。もちろん〈蘇芳〉も。
これから迎える結末を知っている身としては、処刑など勘弁願いたい。
こちらの世界で死んだら現実に戻れるのでは? という期待もなくはないが、もしそうでなかった場合は取り返しがつかないではないか。そんなリスクは断固、拒否だ。
(だったら俺のとるべき道は一つだ)
悪役END回避プラン① ――逃げる。
〈蘇芳〉の名前と身分を捨て、金目のものを拝借して、とっととゲームの盤上から退場する。
(でも待てよ。今すぐ逃げるのは、逆に危険じゃないか?)
何しろこの世界で知っていることといえば、ゲーム上の展開と世界観程度。それも原作から入ったので、主人公・雨月ルートの流れを大まかに知っているだけなのだ。
持ち出した金品で生活しようにも、それが尽きた後の生計は? すぐに元の世界に帰れる糸口が見つかるとも限らない。
少なくともここにいる限り、当面の生活は保障される。仕事があり、身の回りを世話してくれる早蕨をはじめとする使用人もいて、住居もある。食うに困ることはない。
シナリオ通りであれば、江雪たちが皇子を毒殺し、処刑されるまで少なく見積もっても八、九年はある。そんなに長く留まりたくないのはやまやまだが、裏を返せば、それまでは命が繋がっていると見ていいだろう。
悪役END回避プラン① 一部修正――逃げるための生活基盤の確立、および「保険」の確保。これだ。
(見通しが立ってきたな。そうと決まれば、明日からの俺の仕事も決まった)
この世界で自分を守るための「保険」に会いに行かなくてはならない。
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本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
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ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
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過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
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キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
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これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
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