【完結】瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~

飛鳥えん

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花鶏(3)

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就寝前。
蘇芳は芦屋だった頃からいつもそうしているように、困難な状況を前にして、落ち着いて、イマジナリー脳内会議の卓に着いていた。

上等な寝間着を着て横になっている。
江雪邸のような天蓋のある寝台ではない。簡素だが布団も柔らか過ぎずこれくらいのほうが寝心地がいい。

頭の中の会議出席者に議題を説明していく。
皆、神妙な顔で聞いてくれている。
無論全員、自分である。

ー洗脳。

なぜ決して快適とは言えない穴倉のような半地下に花鶏を住まわせ、見張りを立て、出歩けなくさせているのか。
まともな人間が見たら、誰だっておかしいと思うはずだ。
放逐され後ろ盾がないとはいえ、少年は王位継承権三位である。
いや、だからこそ、江雪は花鶏を支配下に置き、いずれ来るべき時、自身の傀儡として操る下準備をしているのだ。
結果、花鶏は政敵の皇子を暗殺し、江雪に見捨てられ処刑された。
(ついでにこの俺も道連れに)

ちなみに、蘇芳が江雪の目を盗んで皇子を虐待していたことは、江雪にはもちろん筒抜けだったろう。
むしろ好都合だったはずだ。
皇子を虐げる者がいたほうが、江雪の慈愛は花鶏にとってまさに天からのクモの糸にも等しかったに違いない。
結局のところ、蘇芳も花鶏も同じ穴の狢だった。
江雪に大事にされていると思っていたが、使い捨ての駒に過ぎなかった点において。

ー話を戻そう。

目下、江雪が花鶏を引き取り軟禁し始めて半年ほどたっている。
その間、蘇芳は大なり小なり陰湿な虐待で少年を傷つけてきたはずだ。

(見た感じでは、ケガの類はなかったな。当然か、さすがに周りの目もあるし。でも服の下や見えない場所にあざがあるのは現代の虐待事件でもよくあるケースだ)

そこまで考えて、ふっと浮かんだ名前があった。
ー帆世(ほよ)

彼女は花鶏の世話をしていた。
もしかしたら、花鶏は心を開いていたのかも。
そして帆世も、同情心から花鶏を助けようとして、蘇芳によって追い出された。いやもしくは、始末された……?

(うわーまじか。やっぱりゲームはゲームとして楽しむべきだ。うん、いったん保留しよう、保留)

目下、蘇芳には一つのタスクと、いくつかの障害があった。

タスクは、いうまでもなく花鶏の保護だ。

少年がこのまま江雪の元で幽閉され、洗脳されて闇落ち、もとい残虐な王となって人民を虐げ、江雪に処刑されれば、最後には蘇芳も同じ末路をたどるだろう。

話自体は簡単なのだ。
要は、少年が悪に染まらなければいい。

10歳の子供をそこらの子供と同じように純粋なまま育ててやって、大人になったら放流してやればいい。
それから先は、雨月皇子を支える皇族臣下になるもよし、たまわった領地に引っ込んで美人の奥さんや場合によっては側室なんぞをめとって悠々自適に暮らすもよし。
好きにやってくれて構わない。

その時には、蘇芳も元の世界に戻る何らかの方法を見つけられていれば万々歳だが、贅沢は言わない。
少なくとも処刑ルートを回避できれば、いかようにも道は開けるはずだ。


しかし障害もある。
江雪の目がある中で、突然それまでの態度を翻して花鶏を保護するのは容易ではないだろう。

絶対に怪しまれる。
裏切りがバレれば、江雪は子飼いの蘇芳にも何をするか分かったものではない。

(あの優男ぶったサイコパス野郎。本当ならすぐにでもこの家に花鶏を連れてきてやりたいけどさ。さすがに殿下を一介の官吏に任せるわけないし、無理だろ)

それならせめて、江雪に悟られぬよう、陰ながら花鶏を支えてやって何とか持ちこたえさせるしかないのだろうか。

今日は花鶏に面会したものの、初手に失敗した。
せっかく直前に簡素な服に着替えて、本来失礼に当たる無冠を今回に限ってはあえてそうすることで
印象操作を狙ったつもりだったのに。

気休めだったが、見た目の印象というのは強い。
その違和感に気を取られているうちに、どさくさに紛れて人払いしてから花鶏に謝罪し、じわじわ懐柔していくつもりだった。

けれど予想外なことに、目の前に小さな彼を見て、蘇芳は固まってしまった。
思った以上に、小さな子供が目の前で明らかにひどい扱いを受けて荒んだ目をしていることに、蘇芳本人の心がショックを受けてしまった。

いくら目の前で動いて喋っていても、どこかで「ゲームのキャラだから」という思いがある。
それは間違ってはいないと、正直今でも思っている。

それでも、小さな子供が実年齢よりだいぶ痩せて見えることにも、肌寒く暗い室内でかび臭い寝台にいるのも
現代人の感性がまだしっかり居座っている蘇芳には、ちょっときついものがあった。

(虐待を受けてきた子供ってこんな、生気がないもんなんだ……)

結果、用意していた口上も吹っ飛んで、いきなり大の男が涙をこぼすというわけのわからない事態となった。
内心あわあわしながら適当なことを言って辞した。

花鶏からすれば、挙動不審極まりない。
初手から失敗した。

しかし挫けて辞めるわけにもいかない。

一朝一夕でないことは百も承知だが、どのみち通る道だ。
開き直って着手するしかない。

命がかがっているのだ。何だってしてやる。
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