ワガママ公爵娘の暴走記

籠志摩琢朗

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「お、お嬢様」

 気のせいだろうか。
 私の耳には、確かに『お嬢様』と聞こえたんだけど。
 
 しかもどこか、怯えた声色にすら聞こえる。
 私がお嬢様な訳がない。
 ただの日本住みの大学生だ。

「うーん⋯⋯」

 自然と目を開ける。
 いつも通りの朝⋯⋯というわけではなかった。
 黒いカーテンの天蓋付きベッドに私は寝ていて、三星ホテルにある部屋の広さの倍以上の広さが私の目にはひろがる。

 私の目が開いた理由は、ふかふか過ぎて浮いてるかと思ったというのもあったが、明らかに現実離れしている感覚と匂いが私の鼻を起こしたのだ。

 そして、起き上がった私の真横で、明らかに現代では見ないようなメイドの姿が私の瞳に映った。

「あの、貴女は⋯⋯?」
「お、お嬢様!?」

 可愛らしいショートで茶色の髪色をしたメイドの服装をしている子は私を見て、怯え過ぎてホラーな表情を見せながら一歩後ろへ下がった様子だった。

「ど、どうかしたの?」

 何が起こっているかわからない。
 だけど、ここは病院ではなさそうだし、明らかに状況が普通ではないことは明らかだ。

「悪いんですけど⋯⋯名前は?」
「ナヨ⋯⋯でございます! お嬢様!」

 ナヨさんね。覚えた!

「ナヨさん──」

 私がそう言いかけると、まるで化物を見るかのようにホラーな叫び声を上げた。

「ど、どうしたんですか? 何か悪い事でも」
「いやァァァァ! お嬢様、一体どうしたんですか!?」

 何か問題でもあったのだろうか?
 それとも、私がおかしいのか。
 あまりにも私を見て叫んでいる様子なので、鏡を取ってもらう。

「ナヨ、ちょっと外に出てもらっていい"かしら"?」
「はっ、はい!お嬢様!」

 そう言ってナヨが出ていくと、私は内心叫び声を上げたくて仕方なかった。

 なぁぁにがどうなってるのよぉぉ!!

 ⋯⋯え?
 手鏡を自分に向ける。
 映るのはキツイ顔であるが、どこからどう見ても最強に王妃と言われても違和感のないあまりに整った顔だった。

 記憶が曖昧だ。
 この姿を見るに、私は死んだ⋯⋯?

 するとその言葉の直後、一気に直前までの記憶が頭にワァーッとギュウギュウに押し込まれる。

 あ、私⋯⋯手を振り払ってそのまま轢かれてしまったんだ。

 だけど、その後のことが思い出せない。
 とにかく今は、死んだ私の魂がどう転んだのかまではわからないけど、この女の子の中に入ったって考えるほうが早くて安心だ。

 俗にいうところの転生ってやつか。

「はぁ⋯⋯」

 身なりやこの部屋の感じから察するに、多分私は良いところのお嬢様ってところかな。
 メイドもいるわけだし。

「ナヨ」
「はい!」

 急いで部屋に入って私の前で跪く。

「ごめんなさいね、今日は何日か分かるかしら?」

 ちょっと胸が締め付けられるけど、ひとまず貴族っぽい振る舞い方をしなくちゃ!

「ど、どうかされたのですか? 本日はエオルゼア暦600年、3月16日です」

 西暦ではない、けど月や日にちは一緒か。
 だとしたら色々早そうだ。

「私の名前は?」
「ヴィクトリア・モンクレイ様です」
「ありがとう、貴女⋯⋯入ってどれくらい?」
「丁度半年くらいです」
「そう、後で給金を上げておくように伝えるわ」

 これ、貴族っぽい言い回しじゃない!?
 内心言えたと喜んでいる内に、ナヨちゃんが涙ぐみながら土下座を始めてしまった。

「ありがとうございまずゥゥゥ」

 ⋯⋯え?
 こんな事で号泣⋯⋯!?
 一体ヴィクトリアちゃんは何をしていたのよ。

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