ワガママ公爵娘の暴走記

籠志摩琢朗

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 ふかふかの天蓋付きベッドで遅くに起床。
 ベッドから降りると、私は窓際まで移動して太陽の光をこの青白い程の肌へと吸収させる。

「ん~!」

 あれから10日が経過した。
 意外とこの生活にも順応でき始めている。
 最初はこんな暴君に転生?して、最悪かも?なんて思っていたが、実際はそんな事なかった。

 ⋯⋯まるで前世の私のように。
 いつかはなんて願っていても、現実は非情なのだ。

 快適⋯⋯どころではない。
 「無敵」なのだ。
 こうして遅くに起きても誰からも指摘される事はなく、私が起きた音がすると、必ずナヨちゃんが数回ノックしてから入ってきては、私の服を着せてくれる。
 こんなのまるで介護だ。

 と、最初恥ずかしながら思っていたんだけど、10日も経つとそんな事も忘れてしまうくらいにはこの生活に安心してきてしまっている。

「お嬢様、おはようございます」
「おはよう」

 鏡を見る。
 幼いなんて微塵も思わないくらい綺麗な顔面。
 ナヨちゃんのおかげで、元がいい顔面に更に磨きがかかっている。
 
 そして私は今日も悪女の公務(笑)に励む。

「あら、メイドなのにそれくらいもできなくって?」
「そこの貴方、埃がまだ残ってるわよ」

 起床してからは、食事に出掛ける際、すれ違う人たちへの口撃を行う。
 下手に良い子なんてなってしまえば、色々やりたい事もままならなくなってしまうからだ。

「お嬢様⋯⋯その」
「どうかした?」

 勿論ナヨちゃんに攻撃なんて一切していない。
 ある意味この子にとっては幸運な事だろうけどね。

「いいえ、なんでもありません!」

 きっとなぜ自分だけ言われないのか心配なのだろうけど、元を知っているから、何も聞けないというのが答えだろうね。

 と、私は軽く頭を下げるナヨちゃんを見ながら食堂へと向かう。

「お待ちしておりました公女様」

 数人のシェフとメイドが頭を下げて待っている。
 私はその横を通り過ぎてから席につく。

「おはよう。サリー、オルマン」
「「⋯⋯!?」」

 これは私なりのサービスだ。
 日本人としての配慮になってしまうが、貴族から名前を呼ばれる事はかなりの意味を持つと思い、なんとなく呼んでみたりしている。
 最初に行った数人の感触がすごく良かったから、こうして続けている。

「私共の名前を覚えていらっしゃますとは、ありがたき幸せでございます」

 テーブルの上にはかつての自分だったら一ヶ月分はあるんじゃないかというくらい大量に置かれたシェフの力作である料理の数々。
 
「これは何?」

 私は一つのスープを指差す。
 私は少しずつレベルを上げていこうとまずは情報を周りの人間から聞いている。
 
「こちらは『ライアール』という冷製スープでございます」
「材料は?」
「え?はい、こちらはチェルシーという薬味とポティが中心で、調味料を加えて作る物でございます」

 このような情報から、私は今後に活かすべく脳内保存して後で部屋に帰ったときにメモしている。

「うん、中々いいわね」

 自分の中ではボソッと呟いたつもりでも、使用人たちの中では違う。

「あら、ありがとう」

 私が口にしたスープを褒めただけで、シェフが他のスープに合うパンを持ってきて目の前にゆっくりと並べる。
 ん~パンも美味しい~!

 ⋯⋯とそんな訳はなく。⋯⋯固いのだ。

 それに他の事も色々ある。
 例えば起きた時に感じたニオイ。あれは多分、あんまり入っていないからちょくちょく臭ってくるアレだ。
 
 様々なところで感じていたけど、これは思った以上にカネになる商売を早速発見したぞー!

『うん!』
『やったぞ!』
『セレブにセレブをかけよう!』
 
 心の中の私の分身たちがワァー!!!と喜んでいることでしょう。

 こういうのは早いモノ勝負よ。
 とは言っても、現地の人たちがそこまで考えていないわけがないでしょう。
 いや、意外と食べたことがないから分からないとかかも?

 そんな訳でこの十日間、結構楽しんで過ごしている。
 ⋯⋯なんて思っていたのだが、イベントというのはすぐにやって来るものだ。

「あっ⋯⋯」

 後ろでナヨちゃんが緊張した様子で背筋を伸ばした。

 ん? 誰か来たのかな?

 チラッと振り返る。
 そこにいたのは、スラッとした体格の男の人だった。
 あまりにかっこよくて思わず抱きつきに行きたいと思うほどだ。

 だが、そんなイケメンはこちらを冷たい目線で見ていた。

「ヴィクトリア、こんな所にいたのか」
 
 落ち着いた口調だった。
 しかしその声はどこか呆れているとも捉えられるモノで、私はなんとなく察してそのまま笑みを浮かべた。
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