モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

文字の大きさ
3 / 27

勇者来訪

しおりを挟む


「えーっと、ネオック病の薬と咳止め、傷と湿疹に塗る軟膏と保湿クリーム……よし、これくらいでいいかな」

 翌日、作った薬を鞄に入れ王都へと向かった。



「ペール先生」
「やぁ、トーリくん。いらっしゃい」
「薬持ってきたよ。そろそろネオック病の薬も必要になってくるかなって思って」
「助かるよ。最近ちらほらネオック病の患者も出始めてきたからね」

 訪れたのは祖父の代から薬を卸してる医院。ペールは貴族に媚びへつらうような医者とは違い、身分に関係なく患者に寄り添える信頼できる医者だ。

「良かった。昨日丁度キアヌ草が手に入ってさ。今日はとりあえず50持ってきたけど、来週また持ってくるよ」
「ああ、頼むよ」

 あとこれ、と持ってきた薬を見せると全て買い取ってくれた。

「トーリくんの薬はよく効くからね」
「ありがとうございます」

 代金を受け取り医院を出る。近くの定食屋で昼食を食べ、馴染みの雑貨屋にも保湿クリームを納品する。その後買い出しを済ませると帰路へと着いた。



 日が暮れる頃、ようやく自宅が視界に入る。

「あーやっと帰ってきた……ん?あれ?」

 見慣れた家の前に人らしい影が見える。
 来客の予定なんかなかったはずだ。もしかすると薬を必要としている人だろうか。
 荷物を抱え直し急いで家へと向かう。

「ショーマ、あれ」
「あ…?あーッ!やっと帰ってきたのか!」
「え?」

 1人の青年が不機嫌を隠すことなく露わにし声を荒らげる。その勢いに驚き、思わず足を止めた。

「いつまで待たせんだよ!てか、俺を待たせるとかガチ意味わかんねぇ」

 約束などしていただろうかと思い返すが、やはり全く思い当たる節がない。
 青年を見れば普段関わるような一般人とは違う出で立ちをしている。
 見てわかるほど高価な防具に腰には剣を携えており、まるで冒険者のような格好だ。
 男三人女一人。冒険者グループだろうか。一人は剣士、一人は魔法使い、残りの女性は白魔道士だろうか。だが白魔道士に必要な杖を持っていないな、などと考えていると、先程言葉を荒らげていた青年がぬっと近づいてきた。

「お前森の薬師だろ!早く精霊王の所に連れて行けッ!勇者を案内するのがお前の役目だろ!?」

 その言葉に目を見開き、そして一気に落胆した。

「これが、勇者……」
「そうだ!勇者に会えて嬉しいだろう」

 思わずこぼした言葉だったが、感動していると勝手に解釈したのかどこか自慢げに腕を組んでいる。

「えっと…」
「わざわざこの世界を救うために来てやったんだよ?さっさと精霊王とのイベント終わらせたいんだけど」

 言外に早く案内しろと言わんばかりに組んだ腕を指でトントンと叩き始めた。

「薬師殿、申し訳ない。俺は王国騎士のライアンだ。コイツはショーマ。魔王を倒すために異世界から召喚された勇者なんだ。前の村でこの森に精霊王がいると聞き訪ねさせてもらった」
「そうなんですね。僕はトーリ。この森で薬師をしてます」

 間に入ったライアンがここを訪れた経緯を説明してくれる。どうやらショーマより話せる相手のようだ。差し出された手をジッと見つめる。
 召喚されたと言うことはどこか他の世界から来たのだろうか。ショーマという名なら日本ということは十分有り得る。顔立ちも日本人のように見える。同郷ならぜひ仲良くなりたい、と思うところだが……如何せん横暴そうな振る舞いを見るだけでドン引きだ。正直転生者です、なんて知られたくないし、できるもんなら関わりたくないッ!
 そんな事を一瞬のうちに考えると、トーリはにっこりと笑みを浮かべライアンの差し出された手を握った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

泥酔している間に愛人契約されていたんだが

暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。 黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。 かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。 だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。 元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。 交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...