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精霊王スイハ
しおりを挟む買い出しを終え自宅に戻ったのは昨日よりも早い時間だった。当然ベッドも有難く新調させて貰った。
そういえばショーマ達は無事精霊王に会えただろうか。ちゃんと妖精に対して敬意ある態度で接しているだろうか。
そこでふと気になった。
ゲームのストーリー上であればもう関わることは無い。だがこの世界の勇者はあのショーマだ。妖精の森には問題なく入れたとしても、なんの問題もなく加護を貰えるだろうか。不遜な態度に精霊王の怒りを買ったとしても「だろうね」と納得してしまう。そして加護を貰えなかったと憤慨し文句を言いに来てもおかしくない。
買った物を食料庫に入れながら段々気がそちらへと向いてしまう。
「大丈夫……だよな?ライアン達もついてるし、うん、大丈夫大丈夫」
そう自分に言い聞かせるがなぜか不安が拭えない。
「精霊王だって魔王を倒すために加護が必要なことはわかってるし、少し態度が悪いくらいは……」
大目に見るだろうか。
というか、精霊王が寛大かどうかなんてゲーム内のお利口さんな勇者への対応しか知らないのだから知るはずない。
「そういえば、精霊王ってめっちゃイケメンなんだよなぁ」
ゲームで精霊王とのイベントを思い出していると、そのビジュアルへと思考が流れていく。
「ビジュめっちゃカッコよかったけど、本物ってどうなんだろ?」
気づけば食料を片付ける手が止まっていた。
ぼんやりと空を見ながら思い立つまま口を開いた。
「よし、行ってみよう」
遅くなれば日が落ちてしまう。取る物も取り敢えずトーリは家を出た。
出がけに掴んだレッドベリーを石碑に置き、森を進む。
いつもの水汲み場所を過ぎ、更にその奥。この森でいちばんの大樹を目指して歩いた。
地面を見ると人が歩いた跡があるので、勇者たちはちゃんと森に入ることができたようだ。
「すごい……」
大樹の根元。澄んでいるといえばそうだが、それだけでは言い表せない泉に息を飲む。泉の底が見えそうな透明度なのに、その底は果てなく見えない。
覗き込んだだけで飲み込まれそうだ。
これはとてもゲームでは表現できない。
ゴクリと息を飲む。
ここに精霊王がいる。
そう思うだけで緊張が走った。
泉はシーンと静まり返っている。森もいつもより大人しい。
「勇者、来たんだよね?足跡も残ってるし……もう精霊王に会ったのかな?もっと早く来ればよかった」
もしかしたら入れ違いに加護も貰って森から出たのかもしれない。
キョロキョロと辺りを見渡してみたが勇者達がいる雰囲気はなく、折角精霊王を見に来たが残念だと肩を落とした。
夜露は持ってないし、持ってたとしても使ってまで会うのは違う気がする。
仕方ないと踵を返したその時だった。
今まで凪ていた泉からポコッポコッと泡が弾ける音がし振り返る。瞬間、眩しい光に思わず両腕で目を覆った。
「うわっ!?な、何!?」
光が収束すると腕の隙間から様子を伺う。人影だ。
今まで妖精にイタズラされたことはないが、もしかすると勇者が何かして気が昂っていたのかもしれない。そうだとすれば勇者とはなんの関係ないのだと弁明しなければ。まぁ、全く関係ないとは言えないのだが。
慌てて腕を下ろしその人影に声をかけようと口を開いたところで声が出なくなった。
「よく来た」
風が囁くような声に開いた口をポカーンとしたまま見とれてしまう。
森を思わせるような深い緑の髪。陽の光を思わせるような金色の目。
美しさに息を飲んだのは前世を含めても初めてのことだった。
「トーリ、待っていたぞ」
呼ばれた名前に思考が戻る。
「なんで精霊王が……」
「いつもこの森に来ていただろう。まぁ、それ以前から知っていたが」
「え?」
「ずっとこの時を待っていた」
そう言いながら近づいてきた精霊王がスッと頬を撫でた。
戸惑うトーリに柔らかい笑みを返す。
「我が名は精霊王スイハ。我が愛し子にこの世の恩寵を授けよう」
そのセリフにハッとした。このセリフは勇者に加護を授ける時のものだ。
「え、あの、それって」
「これからは我が加護がトーリを守ってくれる。まぁ、私が直接守るから必要ないが」
にっこりと笑ったスイハに、トーリは訳がわからず首を傾げた。
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