モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

文字の大きさ
9 / 36

勇者パーティ脱退

しおりを挟む


 数日後。
 トントンッと扉を叩く音に「私が出る」とスイハが扉を開いた。

「トーリ……って、え?誰だ?」

 驚いたライアンの声。
 ライアンも背が高く騎士らしいがっしりとした体躯だが、そのライアンが視線を上げながらスイハを見ている。

「私はスイハ。トーリの伴侶だ」
「伴侶……伴侶ッ!?」
「ちょ、ちょっとスイハ、何言ってるの!」

 作りかけの料理をそのままに、慌ててスイハに駆け寄った。

「トーリは私の愛し子だ。愛し子には私の全てを捧げ、そしてその生涯を共にする。つまりこの世界でいうところの伴侶にあたるだろう?」

 当然の道理だと言わんばかりだ。だがトーリはなぜ「愛し子」と言われるのかわからない。
 流されるまま一緒に住み始めたが、スイハとはあの泉で会ったのが初めてなのだ。

「その愛し子ってのが僕はわからない。好意的に思ってくれてるのはわかるけど、スイハと会ってからまだ数日しか経ってないし」
「難しいことはない。トーリが今までいかに自然に対して敬意を持ってくれていたか私は見てきた。朝から小鳥たちに餌をあげているのも、森で怪我した動物を助けたことも……その澄んだ魂に惹かれたのだ」
「そ、それくらい誰でもしてることだから」
「そうでもない……人間は煩悩に支配され無闇矢鱈と森を拓き、自然との共生を忘れつつある。特にこのラゴ王国は独占的で他国への侵略も積極的に行っている。慈心を持たない者も多い中、トーリのような心を持つ者は稀だ」
「っ……わ、わかった!わかったよ。……えっと、そういえばライアン達はどうしてここに?」

 流暢に語られる言葉がまるで無償の愛を注がれているようで恥ずかしくなり、無理やり話を切り上げると、玄関に立ったままのライアンとニコへと向き直った。

「俺達は正式に勇者パーティを抜けた。トーリにも世話になったし報告を兼ねて訪ねたんだ」

 どうぞ、とリビングへ案内し、ライアン達の話を聞く。

「リリスは残ったけど」
「そうなんだ」

 心の中でやっぱりと呟いた。リリスだけはあのショーマの所業を許容していたからだ。聖女と言っていたが聖女らしからぬ言動も多かった。まぁ、ゲームのし過ぎで聖女像に対しての理想が高くなっていたのかもしれないが。

「でも勇者だからってショーマとリリスの二人だけだと魔王討伐は無理なんじゃ……」

 ゲームの途中で仲間は増えるが、戦闘シーンはその中から四人選んで行われるシステムだった。ここで仲間が抜けたのなら、既にゲームシステムは破綻してしまっていることになる。

「それが、第二王子であるバンハート殿下が同行するらしい。もちろん殿下だけ行かせるわけには行かないって事で騎士団も駆り出されるって話だ」
「それって大丈夫なの?王族がそんな危険な旅に出て何かあったら」
「その何かがかないように、騎士団と魔法省からも人材が派遣されることになったんだ。僕とライアンの所為だけど、ご愁傷さまだよね」

 確かに第一王子がいれば次期国王の心配はないだろう。だが妙に引っ掛かった。第一王子に何かあった場合を考えると、第二王子をそう易々と危険な旅に出すだろうか。
 まぁ、王族の内情など平民であるトーリが気にかけても仕方がない事だ。

「ライアン達はこれからどうするの?」
「それがなぁ……」

 はぁ、と深いため息を吐く。

「僕たち二人とも次男だから領地は兄が継いでるし、旅に出るか王宮に戻るかの二択なんだけど」

 眉を下げながらライアンとニコは続けた。

「有名な話だが、第一王子と第二王子は数ヶ月違いの兄弟だ。先に生まれたのはバンハート殿下だが、正妃の子が王位継承権は優先される。側妃の子であるバンハート殿下にとって第一王子であるロイス殿下は目の上のたんこぶって事だ」
「長い間の軋轢もあって、王宮は今第一王子派と第二王子派で分かれてるんだ。きな臭い話も耳にするようになったし」
「そういえばこの前街に行った時、ペール先生が第一王子がどうのこうのって」

 ほんの2、3日前。薬を卸しに王都の医院を訪ねた時だった。最近の街の様子を聞いてみればペールが難しい顔をしたのだ。また戦争が始まるだろう、と。

「あぁ……隣国のシーミュ帝国の皇太子がこの国に隠れ住んでるって噂があってな、その皇太子を人質に戦争を仕掛けようって考えらしい。それを主導するのがロイス殿下。その戦争で手柄をあげれば次期国王の座は磐石になるだろうって言われてる」
「だからバンハート殿下も何かしらの手柄が欲しいってわけ」

 まるで対岸の火事のような話に「へぇ…」と返しながらチラリと隣に座るスイハを見た。その険しい表情にトーリは息を飲んだところで視線に気づいたスイハが口を尖らせる。

「もう終わりか?終わりでいいな」
「え、なに、どうしたの?」

 変わった雰囲気に戸惑ったのも一瞬で、甘えるようにするりと頬を撫でてきた。

「トーリがその者達ばかり構うからだ」

 もしかして拗ねていたのか。
 思いもしなかったスイハの言葉に少し可愛いと思ってしまったあたり、もう絆されてしまっているのだろう。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐
BL
 悪逆の限りを尽くした公爵令息を断罪しろ! そんな貴族たちの声が高まった頃、僕の元に、冷酷と恐れられる王子がやって来た。  その男は、かつて貴族たちに疎まれ、王城から遠ざけられた王子だ。昔はよく城の雑用を言いつけられては、魔法使いの僕の元を度々訪れていた。  ひどく無愛想な王子で、僕が挨拶した時も最初は睨むだけだったのに、今は優しく微笑んで、まるで別人だ。  出会ったばかりの頃は、僕の従者まで怯えるような残酷ぶりで、鞭を振り回したこともあったじゃないか。それでも度々僕のところを訪れるたびに、少しずつ、打ち解けたような気がしていた。彼が民を思い、この国を守ろうとしていることは分かっていたし、応援したいと思ったこともある。  しかし、あいつはすでに王位を継がないことが決まっていて、次第に僕の元に来るのはあいつの従者になった。  あいつが僕のもとを訪れなくなってから、貴族たちの噂で聞いた。殿下は、王城で兄たちと協力し、立派に治世に携わっていると。  嬉しかったが、王都の貴族は僕を遠ざけたクズばかり。無事にやっているのかと、少し心配だった。  そんなある日、知らせが来た。僕の屋敷はすでに取り壊されることが決まっていて、僕がしていた結界の魔法の管理は、他の貴族が受け継ぐのだと。  は? 一方的にも程がある。  その直後、あの王子は僕の前に現れた。何と思えば、僕を王城に連れて行くと言う。王族の会議で決まったらしい。  舐めるな。そんな話、勝手に進めるな。  貴族たちの間では、みくびられたら終わりだ。  腕を組んでその男を睨みつける僕は、近づいてくる王子のことが憎らしい反面、見違えるほど楽しそうで、従者からも敬われていて、こんな時だと言うのに、嬉しかった。  だが、それとこれとは話が別だ! 僕を甘く見るなよ。僕にはこれから、やりたいことがたくさんある。  僕は、屋敷で働いてくれていたみんなを知り合いの魔法使いに預け、王族と、それに纏わり付いて甘い汁を吸う貴族たちと戦うことを決意した。  手始めに……  王族など、僕が追い返してやろう!  そう思って対峙したはずなのに、僕を連れ出した王子は、なんだか様子がおかしい。「この馬車は気に入ってもらえなかったか?」だの、「酒は何が好きだ?」だの……それは今、関係ないだろう……それに、少し距離が近すぎるぞ。そうか、喧嘩がしたいのか。おい、待て。なぜ手を握るんだ? あまり近づくな!! 僕は距離を詰められるのがどうしようもなく嫌いなんだぞ!

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。 なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。 お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。 発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。 ※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。 同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。

目覚めたらポメガバース!?〜騎士団長に拾われて溺愛されちゃいました〜

恋白もも
BL
星空悠真(ほしぞらゆうま)は出勤途中でポメラニアンを助けたところ、異世界にポメガバースとして転生してしまう。 ガラの悪い人たちに絡まれていたら、騎士団長のリカルドに助けられる。 悠真はリカルドの屋敷でお世話になる内に、優しくて頼れるリカルドを好きになってしまう。ある日、寂しくてポメラニアンになってしまった悠真。リカルドの匂いの染みついた洋服を集めて巣作りをしているところをリカルドに見つかってしまって……。 「いっぱい甘やかしてあげる」 「ねえユーマ、愛してる。俺のものになって」 「俺にユーマの全部を見せてごらん」 不安になるとポメラニアンになってしまう悠真と、そんな悠真を溺愛するリカルド団長の甘すぎるハッピーエンドストーリー。 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。 目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。 そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。 どうして僕はこんな所に居るんだろう。 それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか…… コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。 【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】 反応いただけるととても喜びます! 匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(⁠^⁠^⁠)  

処理中です...