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勇者パーティ脱退
しおりを挟む数日後。
トントンッと扉を叩く音に「私が出る」とスイハが扉を開いた。
「トーリ……って、え?誰だ?」
驚いたライアンの声。
ライアンも背が高く騎士らしいがっしりとした体躯だが、そのライアンが視線を上げながらスイハを見ている。
「私はスイハ。トーリの伴侶だ」
「伴侶……伴侶ッ!?」
「ちょ、ちょっとスイハ、何言ってるの!」
作りかけの料理をそのままに、慌ててスイハに駆け寄った。
「トーリは私の愛し子だ。愛し子には私の全てを捧げ、そしてその生涯を共にする。つまりこの世界でいうところの伴侶にあたるだろう?」
当然の道理だと言わんばかりだ。だがトーリはなぜ「愛し子」と言われるのかわからない。
流されるまま一緒に住み始めたが、スイハとはあの泉で会ったのが初めてなのだ。
「その愛し子ってのが僕はわからない。好意的に思ってくれてるのはわかるけど、スイハと会ってからまだ数日しか経ってないし」
「難しいことはない。トーリが今までいかに自然に対して敬意を持ってくれていたか私は見てきた。朝から小鳥たちに餌をあげているのも、森で怪我した動物を助けたことも……その澄んだ魂に惹かれたのだ」
「そ、それくらい誰でもしてることだから」
「そうでもない……人間は煩悩に支配され無闇矢鱈と森を拓き、自然との共生を忘れつつある。特にこのラゴ王国は独占的で他国への侵略も積極的に行っている。慈心を持たない者も多い中、トーリのような心を持つ者は稀だ」
「っ……わ、わかった!わかったよ。……えっと、そういえばライアン達はどうしてここに?」
流暢に語られる言葉がまるで無償の愛を注がれているようで恥ずかしくなり、無理やり話を切り上げると、玄関に立ったままのライアンとニコへと向き直った。
「俺達は正式に勇者パーティを抜けた。トーリにも世話になったし報告を兼ねて訪ねたんだ」
どうぞ、とリビングへ案内し、ライアン達の話を聞く。
「リリスは残ったけど」
「そうなんだ」
心の中でやっぱりと呟いた。リリスだけはあのショーマの所業を許容していたからだ。聖女と言っていたが聖女らしからぬ言動も多かった。まぁ、ゲームのし過ぎで聖女像に対しての理想が高くなっていたのかもしれないが。
「でも勇者だからってショーマとリリスの二人だけだと魔王討伐は無理なんじゃ……」
ゲームの途中で仲間は増えるが、戦闘シーンはその中から四人選んで行われるシステムだった。ここで仲間が抜けたのなら、既にゲームシステムは破綻してしまっていることになる。
「それが、第二王子であるバンハート殿下が同行するらしい。もちろん殿下だけ行かせるわけには行かないって事で騎士団も駆り出されるって話だ」
「それって大丈夫なの?王族がそんな危険な旅に出て何かあったら」
「その何かがかないように、騎士団と魔法省からも人材が派遣されることになったんだ。僕とライアンの所為だけど、ご愁傷さまだよね」
確かに第一王子がいれば次期国王の心配はないだろう。だが妙に引っ掛かった。第一王子に何かあった場合を考えると、第二王子をそう易々と危険な旅に出すだろうか。
まぁ、王族の内情など平民であるトーリが気にかけても仕方がない事だ。
「ライアン達はこれからどうするの?」
「それがなぁ……」
はぁ、と深いため息を吐く。
「僕たち二人とも次男だから領地は兄が継いでるし、旅に出るか王宮に戻るかの二択なんだけど」
眉を下げながらライアンとニコは続けた。
「有名な話だが、第一王子と第二王子は数ヶ月違いの兄弟だ。先に生まれたのはバンハート殿下だが、正妃の子が王位継承権は優先される。側妃の子であるバンハート殿下にとって第一王子であるロイス殿下は目の上のたんこぶって事だ」
「長い間の軋轢もあって、王宮は今第一王子派と第二王子派で分かれてるんだ。きな臭い話も耳にするようになったし」
「そういえばこの前街に行った時、ペール先生が第一王子がどうのこうのって」
ほんの2、3日前。薬を卸しに王都の医院を訪ねた時だった。最近の街の様子を聞いてみればペールが難しい顔をしたのだ。また戦争が始まるだろう、と。
「あぁ……隣国のシーミュ帝国の皇太子がこの国に隠れ住んでるって噂があってな、その皇太子を人質に戦争を仕掛けようって考えらしい。それを主導するのがロイス殿下。その戦争で手柄をあげれば次期国王の座は磐石になるだろうって言われてる」
「だからバンハート殿下も何かしらの手柄が欲しいってわけ」
まるで対岸の火事のような話に「へぇ…」と返しながらチラリと隣に座るスイハを見た。その険しい表情にトーリは息を飲んだところで視線に気づいたスイハが口を尖らせる。
「もう終わりか?終わりでいいな」
「え、なに、どうしたの?」
変わった雰囲気に戸惑ったのも一瞬で、甘えるようにするりと頬を撫でてきた。
「トーリがその者達ばかり構うからだ」
もしかして拗ねていたのか。
思いもしなかったスイハの言葉に少し可愛いと思ってしまったあたり、もう絆されてしまっているのだろう。
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