モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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独占欲

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「……あー、俺はニコの手伝いでもしてくるか」

 ポンッと肩を叩かれ、はたと我に返った。気を利かせて背を向けるライアンの足音が遠ざかる。
 一体何をしてるんだ、と襲う羞恥心におろおろとしてしまうが、スイハの腕が緩まる気配はない。
 二人きりになった森の中。木漏れ日が、抱き合う影を優しく包む。

「トーリ」

 名を呼ばれ顔を上げると、すぐ近くにスイハの顔があった。唇が触れそうなほどの距離に息を飲む。

「これからは私がそばにいる」

 その言葉に、胸が熱くなる。

「……うん」

 短く頷くと、スイハはもう一度、確かめるようにトーリを抱きしめた。まるで、二度と離さないと誓うように。
 小さく身じろいだ瞬間、スイハの腕が逃がさぬようにトーリの腰へ回される。

「離さない」

 低く囁かれた声が、耳にかかった。どこか熱を帯びた声に心臓の鼓動が早くなる。

「スイハ……?」

 名を呼ぶと、返事の代わりに吐息が触れた。
 近すぎる。息が、混じる距離。

「怖かっただろう」

 顎に指がかかり、自然と顔が上を向かされる。
 戸惑いながらも、拒む気持ちはどこにもなかった。

「……少し」

 正直に答えると、スイハの瞳が揺れる。

「……すまなかった。だが、私以外に触れさせるな」

 囁きは命令に近い。精霊王としてではなく、ひとりの男としての声音。
 触れられたといっても、肩を軽く叩かれただけだ。それすら許せないほど──。
 他に思考を割くことすら気に食わないのか、腰に回された手がゆっくりと力を強める。
 逃げ場はないのに、不思議と怖くなかった。

「……トーリ」

 名前を呼ばれるたび、身体が反応するのがわかる。胸が熱く、自然と呼吸が浅くなる。
 額が触れ、次いで、頬に唇が触れた。
 一瞬。けれど、確かに“触れた”。
 それだけで、頭が真っ白になる。

「……今は、これ以上は求めない」

 自制するように、スイハは小さく息を吐いた。

「だが……覚えておいてくれ」

 耳元で、低く囁かれる。言葉は途中で途切れ、代わりに抱擁が深くなる。

「離れていた分まで、もっと、深く、触れたいと思っている」

 直球すぎる言葉に、心臓が跳ねた。

「……それは、……」
 続きが言えずにいると、スイハは小さく笑う。

「今は、それでいい」

 名残惜しそうに、額へ口づけが落とされた。



 家に戻ると、心配したニコに抱きつかれた。
 瞬間、またしてもスイハの腕に閉じ込められたが、ライアンもニコもそれを微笑ましく見ている。
 この森で、以前と同じように薬を作りながらの暮らしは、存外、居心地がいい。
 だが、気になることは色々ある。
 瘴気のこと。
 皇帝のこと。
 そして、スイハとのこと──。


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