モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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トーリの気持ち

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 夜の帳に包まれた頃。
 トーリの部屋。そこに当然のようにスイハもいた。
 以前と変わらないのに、スイハの防音魔法が張られてるせいで、違う雰囲気に変わっている。
 外界の音はすべて遮断され、暖炉の小さな音と、互いの呼吸だけがどことなく近くに聞こえる。
 スイハは、ずっとトーリから目を離さなかった。
 その視線はただただ静かで、けれど、逃がさないと強い意志を宿している。

「……トーリ」

 名を呼ばれただけで、身体が熱を帯びていくのを感じた。
 歩み寄られ、背後から抱き寄せられる。胸と背中が密着し、腰に回された腕が逃げ場を断っていく。

「私の愛し子」

 耳元で囁かれる声は、低く、重い。

「私のものだ」

 はっきりとした独占の言葉。
 トーリの喉が鳴る。

「……そんなの……」

 抗議するように言葉を絞り出すと、スイハは小さく息を吐いた。

「嫌か?」

 問いは短い。だが、否定することを許さない声音に、トーリは首を振ることしかできなかった。
 フッと笑った短い吐息に、スイハが喜んでいるのだと気づく。
 顎を取られ、身体ごと向きを変えられた。
 至近距離で視線が絡む。
 その瞳には、理性と欲がせめぎ合っていた。

「お前が魔物に襲われてると知った時、私は……」

 額が触れる。
 言葉を飲み込んだ唇が、トーリのそれに触れる寸前で止まる。
 触れない。だが、近すぎる距離に視界はぼやけた。

「触れれば、もう、戻れない」

 それでも、離れない。
 腰を引き寄せる力が強まる。
 トーリの指が、無意識にスイハの服を掴んだ。

「……スイハ」

 呼ばれた瞬間、スイハの理性が揺らぐ。
 短く、深い息を吐いたと思った次の瞬間、唇が重なった。
 一度だけ。だが、確かめるように、奪うように。ラゴ王国でのキスなどまるで戯れだったかのように。

「……っ」

 僅かにできた隙間で、スイハが低く唸る。

「……だめだ」

 それは、拒絶ではない。理性の限界を告げる言葉。

「これ以上は……」

 そう言いながら、抱きしめる腕は緩まない。
 額へ、髪へ、何度も口づけが落とされる。

「…………めないで」

 小さく、それでもスイハの耳に届くほどの声量。
 もう誤魔化せない。
 スイハの事が好きだ。優しい手も、穏やかな声も、そして、こんなにも自身を求めながらも抑えようとする姿も。
 愛し子などと言われ「何言ってんだ?」と戸惑った頃から、絶え間なく注がれた愛情が嫌なはずがない。好きにならないはずがない。
 掴んでいた服を強く握りしめた。
 途端、ふわりと体が浮く。浮遊感に驚きスイハに抱きつくが、浮いた体はその腕の中に収められていた。


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