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血の証
しおりを挟む皇城の中心、二人が通されたのは謁見の間。
鎮座する王座に腰掛けるのは皇帝ハウエル。その目はどこか疲労の色が滲んでいる。
その隣に座る妃殿下が側妃のヴァネッサなのだろう。崩すことのない微笑は美しいのに、まるで仮面のようだ。
その隣に立つ青年は、この国の皇太子だろうか。煌びやかだが品のある洋装に身を包み、静かに、しかし鋭くトーリを観察している。
トーリはその出で立ちに密かに息を呑んだ。
左右の壁沿いには数名の重臣や貴族と思われる人が並び、値踏みするようにじっとトーリを見ている。
「これが本当に?」
「陛下の御前で頭も下げないとは」
耳に入った言葉に緊張で強張った体を慌てて下げた。
「お初にお目にかかります」と、頭を下げる。
こんな場での挨拶などしたことない。口上などわかるはずもなく、こんな感じでいいのかと、目の前のカーペットをただ見つめた。
「皇帝陛下に拝謁できたこと、恐悦至極に存じます」
隣にいるライアンは慣れた様子でお辞儀をしている。
「……顔を見せよ」
凛とした声だった。
促され、トーリはおずおずとローブを脱いだ。
淡い青色の髪が、光を受ける。ゆっくりと顔を上げ、ハウエルに視線を向けた。
一瞬の沈黙。次いで、ざわめきが起きた。
「アザーブルーの髪にオレンジの瞳……」
「あれは……皇族の証」
困惑を含んだ言葉があちらこちらから聞こえる。
目の前のハウエルの表情が、僅かに緩んだ。
しかし、その横で表情を強張らせる人物がいた。
「第一皇太子を騙る不届き者ではないか!?陛下、騙されてはなりません!」
そう声を上げたのは、この国の宰相だ。
トーリを迎えにきた使者から聞かされた要注意人物。
この部屋に入った時からトーリに対して鋭い視線を向けいていたので、すぐに気づいた。
「……そ、そうです陛下!」
「恐れながら、見目だけで決めるのは尚早かと」
次から次に臣下が声を上げる。
トーリが皇太子として認めると分が悪い者がいるようだ。
さすが皇族と感心に似た嫌気を覚えた。その時だった。
謁見の間に、森の気配が流れ込む。
はっとした瞬間、風と共にスイハが姿を現した。
深緑の髪が風に揺れ動く。思わず見惚れる視界の向こうで、即座にハウエルが膝を折った。
「精霊王……」
「……久しいな、ハウエル」
優しくトーリを捉えたスイハの目が、ハウエルへと向けられた。
「な、精霊王だと!?」
「どうしてここに……」
またしても場が騒がしくなる。
「ハウエルが、私の愛し子を呼んだのだ。アエルスの森が浄化されたと聞き、真偽を知りたかったのだろう?そして浄化を行った者が、ラナとの子ではないかーーと」
ハウエルは小さく「その通りです」と答えた。
「トーリは間違いなく、お前とラナの子だ。アエルスの森を浄化したのがその証拠だ」
スイハは話しながらトーリを立たせる。そして、胸元に下がる水晶をハウエルへ見せた。
水晶が淡く輝く。
それを見たハウエルは、確信に満ちた声で告げた。
「……私の子だ」
それは政治的でも、感情的でもない。
ただ、父としての声だった。
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