23 / 27
血の証
しおりを挟む皇城の中心、二人が通されたのは謁見の間。
鎮座する王座に腰掛けるのは皇帝ハウエル。その目はどこか疲労の色が滲んでいる。
その隣に座る妃殿下が側妃のヴァネッサなのだろう。崩すことのない微笑は美しいのに、まるで仮面のようだ。
その隣に立つ青年は、この国の皇太子だろうか。煌びやかだが品のある洋装に身を包み、静かに、しかし鋭くトーリを観察している。
トーリはその出で立ちに密かに息を呑んだ。
左右の壁沿いには数名の重臣や貴族と思われる人が並び、値踏みするようにじっとトーリを見ている。
「これが本当に?」
「陛下の御前で頭も下げないとは」
耳に入った言葉に緊張で強張った体を慌てて下げた。
「お初にお目にかかります」と、頭を下げる。
こんな場での挨拶などしたことない。口上などわかるはずもなく、こんな感じでいいのかと、目の前のカーペットをただ見つめた。
「皇帝陛下に拝謁できたこと、恐悦至極に存じます」
隣にいるライアンは慣れた様子でお辞儀をしている。
「……顔を見せよ」
凛とした声だった。
促され、トーリはおずおずとローブを脱いだ。
淡い青色の髪が、光を受ける。ゆっくりと顔を上げ、ハウエルに視線を向けた。
一瞬の沈黙。次いで、ざわめきが起きた。
「アザーブルーの髪にオレンジの瞳……」
「あれは……皇族の証」
困惑を含んだ言葉があちらこちらから聞こえる。
目の前のハウエルの表情が、僅かに緩んだ。
しかし、その横で表情を強張らせる人物がいた。
「第一皇太子を騙る不届き者ではないか!?陛下、騙されてはなりません!」
そう声を上げたのは、この国の宰相だ。
トーリを迎えにきた使者から聞かされた要注意人物。
この部屋に入った時からトーリに対して鋭い視線を向けいていたので、すぐに気づいた。
「……そ、そうです陛下!」
「恐れながら、見目だけで決めるのは尚早かと」
次から次に臣下が声を上げる。
トーリが皇太子として認めると分が悪い者がいるようだ。
さすが皇族と感心に似た嫌気を覚えた。その時だった。
謁見の間に、森の気配が流れ込む。
はっとした瞬間、風と共にスイハが姿を現した。
深緑の髪が風に揺れ動く。思わず見惚れる視界の向こうで、即座にハウエルが膝を折った。
「精霊王……」
「……久しいな、ハウエル」
優しくトーリを捉えたスイハの目が、ハウエルへと向けられた。
「な、精霊王だと!?」
「どうしてここに……」
またしても場が騒がしくなる。
「ハウエルが、私の愛し子を呼んだのだ。アエルスの森が浄化されたと聞き、真偽を知りたかったのだろう?そして浄化を行った者が、ラナとの子ではないかーーと」
ハウエルは小さく「その通りです」と答えた。
「トーリは間違いなく、お前とラナの子だ。アエルスの森を浄化したのがその証拠だ」
スイハは話しながらトーリを立たせる。そして、胸元に下がる水晶をハウエルへ見せた。
水晶が淡く輝く。
それを見たハウエルは、確信に満ちた声で告げた。
「……私の子だ」
それは政治的でも、感情的でもない。
ただ、父としての声だった。
21
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
英雄の溺愛と執着
AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。
転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。
付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。
あの時までは‥。
主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。
そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。
そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
泥酔している間に愛人契約されていたんだが
暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。
黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。
かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。
だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。
元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。
交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる