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*オメガ②
しおりを挟む服を乱暴に引っ張られ、飛んでいくボタンがスローモーションのように見えた。
「ひっ!」
「ははっ……すげぇな。エロい色。こんなピンク色の乳首見たことないぜ」
いつもの貴族然とした口調は崩れ、口角を上げながらその卑俗な視線はジッとユリウスの胸に向けられている。
乱暴に服を引っ張った手がぬっと胸に伸ばされた。
ダニエルの手が平らな胸の感触を楽しむように揉みしだき始める。
「ふ、……ッゃめ!」
体を襲う震えが恐怖なのかヒートによる影響なのかはわからない。頭の中では目の前のアルファを誘え誘えと唆し、思考を奪おうとしてくる。
それは自身が望むことじゃないと必死に抗うが、指先が胸の突起を掠めた瞬間、「んぁっ」と吐息混じりの声が漏れた。
「やっぱり私に触れられたいんじゃないか」
嬉しそうに口角を上げるダニエルの目が情欲
に染まる。勝手な思い込みで高揚し、その手が何度もユリウスの突起を嬲り始めた。
「んッ……く、んんッ……はぁ、ん」
「はぁ、はぁ……オメガだ……これが、オメガッ」
フェロモンに触発されたのか、ダニエルは前後不覚になったような興奮を見せている。
突起を摘み、弾き、舌で舐められ、全身がぞわりと粟立った。好き勝手蹂躙された突起は赤くなってしまっている。
胸に吸い付く頭を力の入らない手で押すが、決してダニエルは止まることなく思いのままにユリウスの体に手を這わせ、邪魔だと言わんばかりに乱暴に服を剥いだ。ユリウスの抵抗など意に介した様子も見せない。
怖い。気持ち悪い。
負の感情が湧き上がる度にアルファのフェロモンがその思考を麻痺させようとしてくる。
「んぁあっ」
胸をきつく摘まれ、後孔からツーッと粘液が溢れた。ダニエルからの刺激に感じてしまった事を悟られたくなくて必死に足を閉じる。
「フハッ!隠さなくてもわかるぞッ!お前の匂いが増したからな!感じたんだろう?ドロドロに濡れてきたんだろ?見せろッ!」
「ぃ…ッやだ!」
こじ開けようとするダニエルの手に必死に抗う。抗うことしか出来ない。
前とは違う。
前──ローレンツに強制的にヒートを起こされた時でもこんな恐怖を感じることなどなかった。
戸惑いはしたが触れられる嫌悪感などなく、寧ろ高揚した。フェロモンで思考が支配されることすら嬉しく感じていたかもしれない。
だが目の前の男がローレンツじゃないと言うだけで、支配されることを心が強く拒んでいる。
「隠すんじゃねぇよ!濡れてるくせに」
「っ!」
嫌なのに、望んでないのに、ユリウスの意志を無視して体はアルファを求めていた。逆らうなと言わんばかりに力が段々入らなくなっていく。
嫌悪感しかないはずなのに、抗いたいのに、体は勝手に快感を得ようとし始めていた。
悔しさのあまりユリウスは唇を噛む。
このまま好き勝手されるくらいなら、いっそ──。
ドンッドンッドンッ!
突然響いたドアを激しく叩く音に思考が止まる。
「な、なんだ!?」
ダニエルの動きも止まり、ドアの方へと振り返った。
「ユーリッ!!」
聞いたことがないような怒声にビクッと体が固まる。
視線を動かした先でドアがバキッと派手な音を立て崩れた。
流れ込んでくる匂いにハッとする。廊下の明かりに照らされ薄らと見えた顔を間違えるはずがない。
「…………ろぉ…………ローッ!」
動きを止めていたダニエルを押しのけると、ユリウスは滲んでいく視界を気にも止めず、ローレンツへと向かって必死に這い始めた。震える腕を叱咤し、前へ前へと動かす。
「ッ、ユーリ!」
数歩分進んだかどうかの所で、駆け寄ったローレンツに抱き締められ、その匂いに安堵すると同時に更に体の奥が熱くなった。
滾るように湧き上がる熱。
満たされるような感覚にローレンツへとしがみつく。
たった数回だがわかった。前世では体験したことがないオメガのヒート。
それはオメガから理性を奪い誰であろうとアルファを誘惑し求める。乾いた飢えを満たされたいと誰でも受け入れようとする体。それを拒むなと言うように思考を奪い、快楽に溺れさせていく。
誰でもいいなんて、そんなの耐えられない。
「もうこんな体……イヤだッ」
襲われ、触られ、アルファの匂いに逆らえなくなる本能。それを鎮めてくれるのはアルファだけだと本能が囁く。
そうだとしても、誰でもいい訳無い。ローレンツがいいのだ。
それなのにダニエルに触れられても熱くなっていく体が気持ち悪くて、気持ちよくて……。
ユリウスの意識はそこで途切れた。
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