転生した世界で深愛に触れる

ゆら

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オメガ①

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 その日はなんだかいつもよりも気怠かった。
 それが意味することをもっと深く考えれば良かったと後悔した時には──。



「はぁ…やっぱり休めばよかったかな」

 ドリューにローレンツへの伝言を頼んだため長い廊下を歩きながら独り言ちる。
 朝は何となく気怠いだけだったが、時間が経つ度に増す体の怠さに反省しながら医務室へ足を向けていた。その足取りすら重い。
 段々と体が熱くなり、もしかしたら、と嫌な予感が頭を過った。頭がぼーっとし、周りの喧騒を気にする余裕もない。
 この角を曲がりいくつかの講義室を過ぎれば医務室だ、と角を曲がってすぐだった。

「ユリウスじゃないか」

 掛けられた声に顔をやれば、ニヤリと下卑た目と合った。
 確か伯爵家の──ダニエル。
 しつこくユリウスに言い寄ってはローレンツに睨まれ、虚勢を張りながら退散していった男が怪しい笑みを携えて近づいてくる。

「1人とは珍しい。辛そうだな、手を貸すよ」

 優しく語り掛けてくるのに、その目は何かを企んでいるようにしか見えない。

「結構です」
「遠慮するな。私と君の仲だろう」

 どんな仲だ。
 親しくしたつもりもないし、初めて話した時から不快感しか覚えてない。
 ギロッと睨みつけてみるが何処吹く風とばかりに無視され、強引にユリウスの腕を握った。

「ほら、こっちに」

 やらしさを乗せた笑みで腕を引きかれ、その手を離そうと必死に藻掻くが上手く力が入らない。
 誰か、と周りを見渡すが、教室から離れたためか人の姿はなく焦燥感が増す。
 ダニエルからぶわりと漂う匂いを不快に感じるのに、心臓がドクドクと忙しなく鳴り、上がった息がうるさい。

「無防備だよね」

 開かれた扉の中に押し込まれ、整然と並んだ机と椅子が目に入る。講義室だ。使用予定がないのか、廊下の灯りが入り込むだけで室内は薄暗い。
 放り投げるように腕を離され、ユリウスは床に倒れ込んだ。

「痛ッ……な、にっ」

 詰め寄るように1歩、また1歩とダニエルが近づいてくる。
 はぁ、はぁ……。
 荒くなった息を吐きながら震える手足を動かし這うように後退った。
 変な汗がツーッと首を伝っていく。
 ダニエルは腐ってもアルファだ。こんな所に連れ込まれたのだから何をされるのかなんて想像に易い。
 そんなの絶対に嫌だ。ローレンツ以外と番になるくらいなら死んだ方がマシだとさえ思った。
 なのに、ダニエルから漂う匂いに勝手に体の力が抜けていく。逃げようと動かす手足はずりずりとその場で床を磨くばかりで、体は前にも後ろにも進んでくれない。完全に気持ちばかりが逃げを打っていた。

「こんな首輪つけてさぁ……」
「ヒッ」

 ハッと顔を上げればすぐ近くにダニエルの顔があり堪らずゾッとする。スッと伸びてきた手が目の前に迫り、恐怖のあまり瞼を閉じた。
 迫った手の感触が思いもしない場所に落ち、きつく閉じた瞼を恐る恐る開く。

「どうせ取っちゃえば意味ないのに。さっさと外しちゃえ」
「や、やめ…」

 ダニエルの手が首輪をそろっと撫でた。
 その気持ち悪さにビクつき、全身に鳥肌が立つ。
 だがそれを何と勘違いしたのか、ダニエルがにたぁ…と不気味に笑った。

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