転生した世界で深愛に触れる

恋文

　事件から少しして迎えた秋季休暇。
　年越しは家族と迎えるのが通例で、昨年も例外なく家族と迎えた。
　今年はどうだろうかと思ったが、最後になるかもしれない、とローレンツの提案もあり例年通りアイル領へと帰省した。
　秋季休暇と言っても年末年始を家族と過ごすために設けられたもので、その期間は2週間ほどしかない。
　領地に戻ってすぐ、ローレンツから花が届いた。
　ローレンツの領地はアイル領より遠い。まだ領地に着く前のはずなので王都を発つ前に手配していたのだろう。こんな所はマメだ。
　花には一言だが手紙が添えられていた。

『家族と素敵な休暇を過ごしてくれ』

　思わず笑みが漏れる。
　王都を発つ前にも同じことを言っていたのがなんだかおかしかった。

「ローもね」

　ぽつりと呟く。後ろに控えていたドリューがくすりと笑った。

「ローレンツ様はいつでもユリウス様の事ばかりですね」
「そうかな？」
「そうですよ。私が騎士を辞める前から……いえ、それよりももっと前からでしょう。領地にいらっしゃっても、これはユーリに似合いそうだ、この花はユーリが好きな花だ、と何でもかんでもユリウス様基準でしたから」
「そ、そうなの？」

　初めて耳にする領地でのローレンツの話。
　ローレンツからアレをして過ごしたコレをして過ごしたという話は聞いても、ローレンツが何を話していた、と言う話は聞いたことがなかった。

「雨が降れば、ユーリは雨に打たれていないだろうか、と心配され、晴れれば、こんな日はユーリとピクニックに出掛けたいな、とよくこぼしては辺境伯爵から少しはユリウス離れをしなさいと窘められておいででした」
「そ、ぅなんだ……そっかぁ」

　何故だろう。第三者から聞くローレンツの話はどこかむず痒さを感じる。にやける口元を抑えられない。
　ユリウスは、へへっと照れくささを隠すように笑った。
　翌日も、そしてその翌日も。休暇の間、毎日のように花は届けられた。そしていつも一言ずつ言葉が添えられている。

『初めて会った瞬間、一目惚れだった。あの日から会う度好きになっている』
『ユーリの笑った顔が好きだ。笑顔の絶えない日々を共に過ごしたい』
『湖畔を見渡せる丘を見つけた。ユーリと一緒にこの景色を見たい』

　いつ好きだと気づいたのか、どこが好きなのか、一緒に行きたい場所や見たい景色。そして──。

『ユーリ、早く君に会いたい。』

「僕も」

　休みが明ければあとは卒業を待つのみだ。