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前兆①
しおりを挟む何気ない日。いつもの様にローレンツが迎えに来る。
いつもと変わらないのに、何かが違う。その何かに気づけないのはきっと特に気にすることもないような事だからだろう。
そう思い馬車止めへと向かった。
「おはよう、ロー」
瞬間、ローレンツが僅かばかり眉を下げた。
「ユーリ?」
下がった眉を寄せるローレンツの匂いに違和感を覚える。いつもより濃く感じるのだ。
「なにか変わったことはないか?いつもと体調が違うとか」
「そういえば……」
聞かれてみるとなんだか熱っぽいような気もする。
かと言って体が怠いわけでも喉が痛い訳でもない。風邪ではなさそうだ。
「少し熱っぽい、かな。でも風邪じゃなさそうだし大丈夫」
心配そうな顔を見せるローレンツに大丈夫と笑顔を向けると馬車に乗り込んだ。
走り出した馬車の中でも心配そうに「今日は休んだ方がいい」というローレンツに「大丈夫大丈夫」と軽く返す。心配かけたくなかったのだ。
学校に着いたものの熱っぽさは変わらず、ローレンツからはすぐ医務室へ行くよう言われる。
「そんなに心配しなくても、」
「ローレンツ、すまないが模擬練習について話がしたい」
「先生、今はちょっと」
「僕はいいから、先生の所に。ちゃんと医務室も行くよ」
説得しようとするローレンツに教師が話し掛け、そこで話は終わってしまった。
ローレンツのことだ、戻ってきたら戻ってきたで、ちゃんと医務室に行ったか確認してくるだろう。何がないことを確認すれば安心させられるだろうし、と医務室へと足を向けた。
どことなく熱っぽさが増した気がするし、倦怠感も感じる。きっと気がするだけだろうが。
「ローは心配症だからなぁ」
思わずクスッと笑ってしまう。子供の頃からそうだ。擦り傷を作っただけでローレンツの方が泣きそうな顔をしていた。
バラ園でだって大した傷でもないのにあんなにも大袈裟にするものだから、その後両親からも色々と言われた気がする。
そういえばあの時嗅いだ匂い。今日も同じ匂いがした気が──。
「ユリウスじゃないか」
あまり聞きたくない声にハタッと思考が止まる。
「ダニエル……」
最悪だ、と心の中で舌打ちをした。
表情を崩すことなく視線を向けるが、出来れば無視してしまいたい。
「どうしたんだい?息が上がってるようだが」
指摘され呼吸が荒くなってることに気づく。
ローレンツが心配した通り今日は休めばよかったかもしれない。そうすればダニエルと顔を合わすこともなかっただろう。
「今から医務室に行くので、失礼します」
礼儀として軽く頭を下げ、足を進めた。
よく分からない体調不良に、一刻も早く医務室へ行きたい気持ちが増していく。
もしかすると本格的に風邪でも引いたのかもしれない。その前駆症状ならそろそろ悪寒や咳が出始めるかもしれない。
「1人では心細いだろう。俺が連れて行ってやろう」
「あの…遠慮します」
「遠慮はいらん」
「いえ、本当にッ」
必死に断るが勝手に腰に手を回し、強引に付き添いを申し出てきた。回された腕に嫌悪感を覚え、払うが、懲りずに何度も腰を触られる。
ねっとりと這うような手の動きに吐き気を催す。
ローレンツは教師と共に行ってしまったが、従者であるドリューは近くに待機してるはずだ。
呼べば少しはダニエルも態度を改めるだろうと、その名を口にした瞬間。
「ドリ…んんッ」
「させるかッ」
勘づいたダニエルによって口を塞がれてしまう。呼んだ名はくぐもってしまい、ドリューに届いたかはわからない。
「俺が連れて行ってやるって言ってるだろ?はぁ……それにしてもいい匂いだな…」
首筋に顔を埋め、ダニエルが鼻を鳴らす。密着する身体にゾクッと全身に鳥肌が立った。
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