転生した世界で深愛に触れる

ゆら

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ダンス練習

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 このルイチル学園は2年制ということもあり、卒業まで問題なく過ごせば無事卒業……というわけにはいかない。
 第1学年が終わる際の試験に合格して初めて第2学年に上がることができるのだ。しかしその試験、貴族科は筆記試験だけでなくマナーからダンスまで試験対象となっている。
 ダンス試験は当然ペアで受けることになるのだが、女性アルファと男性オメガの場合男女どちらのポジションでも可という特例がある。相手が必須なため相手に合わせてポジションを変えることが出来るのだが、逆を言えば両方のダンスを覚えなければならない。
 ただでさえ苦手なダンス。幼少期には遊びでローレンツと踊ったりしていたが、入学してからステップの間違いを何度も指摘され、特に女性側のダンスを覚えるのに苦戦している。
 そんな様子を見て心配したのだろう。空き時間にローレンツが練習を申し出てくれた。
 早々にランチを切り上げ、舞踏室でローレンツと向き合う。
 1、2、3の掛け声に合わせてステップを踏んでいくが、考えながら足を動かすのがやっとだ。ローレンツのリードがなければ何度足を踏んでいたかわからない。

「ユーリは全然下手じゃないぞ。俺となら昔から踊り慣れてるし、緊張しないだろ」

 そう言って試験のペアにも誘ってくれた。
 ペアを探すにしても声を掛けるような心当たりもなかったのでローレンツの申し出を有難く受けたが、益々試験に落ちる訳にはいかなくなった。
 ローレンツまで落第させる訳にはいかないのだ。
 今日も落第回避に向け、舞踏室で練習をしていると、意外な人物が顔を覗かせた。

「あれ?ジェーク」
「声がしたから見に来てみれば……お邪魔したね」

 扉の所で親しげにヒラヒラと手を振っている。
 相変わらず軟派だな、と心の中で思いながらも、軽く手を挙げて返した。

「珍しいな」

 ローレンツが訝しげな顔を見せる。
 確かに率先して練習をするタイプでは無いが、この時期に舞踏室に来る人間など試験に向けて練習する生徒くらいだ。

「ジェークも練習?」
「いや、俺は興味本位で覗きに来ただけ」

 どうやら気まぐれだったらしい。
 授業で見かけた限りだと、練習の必要などなさそうに見えた。相手はどうだか知らないが。
 そういえば誰とペアを組んだのだろうか。
 ジェークはベータだ。必然的に踊る相手は女性になるだろうが、ジェークが特定の女性と一緒にいる姿を見たことはない。常に女性と一緒に居る所を見かけるが、相手はいつも違う女性だ。
 ふと好奇心が湧く。

「ジェークは誰と踊るの?」
「あれ?俺のことが気になる感じ?まぁ、まだ決まってないけど……」

 おちゃらけた表情が一瞬寂しそうな翳りを見せた。
 もしかしたら意中の人がいるのだろうか。

「気になる人がいるなら、誘ってみたら?」

 伺うように聞いてみるが、「うーん」と歯切れが悪い。
 婚約者がいるという話は聞いたことがないが、もしかしたらまだ言えないだけで内々に話が進んでいたりするのだろうか。そうなると簡単には話せなかったりするが。

「もう相手がいるとか?」

 誰、と特定したいわけではないが、隠されると気になってくる。

「まぁ、声を掛けてくれた令嬢から選ぶよ。俺のことはいいから、ほらローレンツが怖い顔で睨んでるぞ」

 ジェークは誤魔化すように笑い、「怖い怖い」と肩を上げた。
 振り返るとどこか不機嫌そうに眉を寄せるローレンツがいた。

「うるさい。お前はさっさと腹を括れ」
「腹を括るも何も、俺が決められることなんてないんだよね……ほら、俺なんかに構ってないで練習の続きやんないと」
「お前が邪魔したんだろ」
「はいはい、じゃーな」

 ヒラヒラと手を振りジェークは出ていった。

「ねぇ、ロー……ジェークって」
「本人同士の問題だ。俺達が気にする事じゃない」

 ローレンツの言う通りだ。ジェークに意中の相手がいてもいなくても外野がとやかく言う事じゃない。

「……そうだね」

 閉じた扉をジッと見つめる。
 わかっていても気になってしまうのは、どこか自身と重ねてしまっているせいかもしれない。


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