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犬猿の2人
しおりを挟む新しい首輪に変わり、オメガとして安心した日常が過ぎる。これもローレンツのおかげだ。
そんなローレンツは今日も教師に呼ばれてしまっている。来年辺り生徒会にでも入れられそうだ。
クスッと笑みを漏らしていると、廊下の先でジェークを見かけた。ヒートの時迷惑を掛けたのにまだお礼を言えていない。
「ジェーク卿」
「ユリウスじゃん。体調はどう?」
「お陰さまで助かりました。本当にありがとうございます」
「気にしなくていい。ローレンツの大事な人を放置できないからな。俺ともローレンツと同じように話してくれ。名前も呼び捨てでいい。堅苦しいのは苦手なんだ」
にっこりと人好きする笑みでそう言われてしまえば頷くしかない。
ジェークとは付き合いが深い訳では無い。故に軟派な印象を勝手に持っていたが、噂は当てにならないようだ。言い方は別として、気さくな人物のように思えた。
「ありがとう」
「何だ、今度はローレンツの友人に手を出すのか、節操なしめ」
突然の悪態に視線を向ければ、学内でも有名な人物がいた。
アレクシスだ。ジェークもそうだが、入学してからもあまり話したことは無い。
この2人犬猿の仲と噂だったが、それでもローレンツと友人関係なことが不思議だった。家系的な関わりもあるのだろう。
割り込めないような雰囲気にユリウスはただ静かに2人を見遣った。
「妹はあんなに優秀なのに、兄がこれではな…」
「もう1人優秀な兄がいるから、我が家は困んないよ」
そういえばアレクシスの婚約者がジェークの妹だと聞いたことがある。
円満な婚約ではなかったのだろうか。2人のやり取りに何か確執があるような気がする。
「お前はやればできる事をやらないだけだろう」
「なにカリカリしてんの?ミリーと喧嘩でもした?あ、カロリーナちゃんに振られたんだっけ?」
2人とも一時期はカロリーナと一緒にいるところを見かけたが、最近は全くだ。というのも、カロリーナがランスを選んだからだが。
もしかすると2人の確執もそこに起因するのかもしれない。
「そういうお前こそ、最近一緒にいないみたいだが」
不機嫌さを隠すことなくアレクシスが眉間に皺を寄せている。
だがジェークは意に介した様子もなく笑みを浮かべた。
「俺は色んな子と遊ぶのに忙しいからね。じゃあ俺はこれで。ユリウスもまたな」
ヒラヒラと手を振ってジェークは去っていってしまった。
慌てて手を振り返す。
噂通り飄々として真意を掴めない男だ。
「まったく…」
呆れて溜息を吐くアレクシス。しかしその視線はジェークだけを追っていた。
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