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首輪②
しおりを挟む翌日。アイル家の馬車に乗り家を出た。
発情期が明け初めての登校だ。
学園に着き、馬車から降りたところで心配そうなローレンツが駆け寄ってきた。
「ユーリ!週末だから今日は休むのかと思っていた」
「昨日ゆっくりしたから、今日くらいはと思って。勉強も遅れるし」
「勉強くらい俺が教えてやる」
「ん……ありがとう」
驚きと心配を滲ませた表情に、ユリウスは申し訳なさを感じつつ、からりと笑って見せた。
何もなかった。ローレンツのと間のは何もなっかたのだ。そう思えばこれまでの関係を続けることができる。
一晩考えた末の答えだった。
ランチの時間。お気に入りのガゼボから見える花畑は少し様相が変わっていた。
彩の美しさは変わらないが、どうやら花を植え替えたようだ。変わらないものなんてないんだな、とぼんやりと眺める。
「伯爵が来たって聞いたけど」
持ってきたサンドウィッチを頬張ると、一緒に来ていたローレンツの真剣な目がユリウスを捉えていた。
「え?あ、うん。昨日来て、今日にはもう領地に戻るって」
「心配だったんだろう」
ローレンツの目が切なげに細まった。
ルーサーとの晩餐を思い出し、無意識に首輪を触る。
これを言ってしまえばこの首輪を手放さなければならなくなる。それが自身のためにもローレンツのためにもいいとわかっている。それなのに、重たい口はハクハクと開閉するだけで言葉を紡いではくれない。
「ユーリ?どうした?」
「っ!」
心配そうに顔を覗き込まれ、心臓が痛いくらいに鳴った。ぎゅっと唇を結ぶ。
ここで言わなければ、きっと一生ローレンツを諦めることはできなくなる。
大きく息を吸い、覚悟を決めたようにユリウスは口を開いた。
「……首輪を……新しくした方がいいだろうって」
「伯爵の言うことは当然だ。ヒートを迎えたということはアルファと番になれるということ。もし事故で意にそぐわない人間と番になりでもしたら悲惨だ」
ユリウスの決死の言葉に、ローレンツは当然とばかりに頷いた。
「それは、わかってるけど……」
「どうかしたのか?」
やりきれない未練が心の奥で燻る。
ローレンツから貰ったものを手離したくない。
そう言いたいのに、自身にそんなことを言う権利などないのだ。
口にすることの出来ない言葉を飲み込み、首輪を撫でる。
「これ……気に入ってる、から」
せめてもの足掻きだ。気に入っているから手放したくないのだと。それくらいの可愛い我儘は許してほしい。
「それなら…」
言いながらローレンツが徐に鞄を開いた。
取り出されたのは今ユリウスが着けているものと同じデザインの首輪。だがその素材はヒートを迎えたオメガがよく着用している革製だ。
「帰りに寄って渡そうと思ってた」
身に着けていた布製のものを外され、革製のものを着けられる。今までのものより頸を覆う幅が広くなっているが、しっかりとなめしてあるのだろう。堅苦しさはなく、柔らかく首に馴染んだ。
「気に入っているなら今まで着けてたのは部屋に飾るといい」
今まで着けていた首輪が手の平に乗せられる。
「ッ……ありがと」
別にああして欲しい、こうして欲しいと頼んだわけじゃない。なのにいつもユリウスの気持ちを汲み取った行動をしてくれる。こういう事をされるからローレンツの事を諦められないのだ。
「その方が安心だ」
安心したように笑みを浮かべたローレンツに、ユリウスは滲む視界を隠すように微笑んだ。
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