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首輪①
しおりを挟む波のように1週間が過ぎた。
約5日間続くとされている発情期は、初めてだったせいなのか1週間経ち漸く落ち着いたが、1人で耐えるのは辛いものだった。
ローレンツの顔、声、手を思い出しては体が疼き何度も何度も1人で慰めることしか出来ない。
食事は気づけば部屋に置かれていた。気を使った使用人が寝落ちた頃に運んで来ていたのだろう。
それを食べては体の熱を孤独に発散させる。それの繰り返しだった。
倦怠感に襲われる体を動かし浴室へ向かう。
汚れた体は拭かれていたが、やはりお風呂に入ってさっぱりしたい。のんびりと湯船に浸かって体を温めた。
「みんなに迷惑かけたな……ローレンツにも」
ローレンツとの事を思い返すとあまりに恥ずかしい事をした気がするが、はっきりとは思い出せない。途中から熱に浮かされたように朦朧として、ただ嬉しかったことと気持ちよかったこと、そして切なかったことだけしか思い出せないのだ。
次ローレンツに会ったらどんな顔をすればいいのだろうか。
この世界ではオメガが発情するという事は当たり前かもしれないが、なまじ前世の記憶があるせいで羞恥心が消えない。
「うぅぅ……」
ブクブクっとお湯の中に潜る。いっそこのまま溶けてしまいたい。
そろそろ上がろうか、というタイミングで浴室の扉がコンコンッと鳴った。
「失礼します。旦那様がお見えになりました」
「父上が?」
「ユリウス様の体調を気にされておりましたので、様子を見に来られたのかと。晩餐を御一緒にと仰せつかっております」
「すぐ準備する」
浴室から出ると急いで着替えを済ませ、ルーサーが待つ食堂へと向かった。
「おお、ユリウス!大丈夫かい?」
「父上、ご心配お掛けしました」
「気にしなくていい。大変なのはユリウスなのだから」
穏和な笑みは優しい父親像そのものだ。
両親から愛されることがこんなにも幸せだと知ることが出来たのは、この世界に生まれたおかげだと思う。
「一緒の晩餐は久しぶりだな」
席に着きながら嬉しそうなルーサーに視線を向ける。「はい」と笑みを返せば、その穏和な笑みを深くした。
「ユリウス」
メイン料理を食べ終えたところで意を決したようにルーサーが言葉を発した。
「ヒートを迎えたことだし、首輪を新調してはどうだろうか。今着けてる物も勿論いいんだが……」
えっ、と驚いた顔を向けるが、心配そうに眉を下げているルーサーを見てユリウスは静かに閉口した。
ローレンツから貰った首輪。デザインもそうだが、ローレンツから貰ったというだけでユリウスにとっては特別なのだ。
手放したくない。だが、布製で心許ないと思う親心も理解できる。
「これは……」
葛藤に揺れながら首輪に手をやった。
新調する方がいいのはわかっている。だがこれがローレンツからの最後のプレレゼントかもしれない。
そんな考えが過ぎる。それだけで益々手放したくない気持ちが膨らんでいった。
「ローレンツから貰ったのだろう?彼なら話せばわかってくれる」
そう優しく微笑んだルーサーに寂しげな笑みだけを返した。
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