転生した世界で深愛に触れる

ゆら

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一度の人生

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 新学年を迎えてからも相変わらずカロリーナはランスと一緒にいるのを見かけていた。
 好きな人と懇意になり、幸せに心躍らせているだろうと思うのに、何故か時々憂いを帯びた顔を見せている。
 ランスは気づいてないようで、授業が終わる度浮き足立ってカロリーナの元を訪れた。

「カロリーナならさっき教室から出ていきましたけど」
「そうか……タイミングが悪かったな」

 カロリーナの不在を告げると寂しげに教室へと戻っていく。
 なんだか騙したようで申し訳ない気持ちになるが、カロリーナが教室に居ないことは事実だ。
 ユリウスはランスを見送ると、ガゼボへと足を向けた。



 訪れたお気に入りのガゼボ。そこには先客がベンチに腰掛けている。

「カロリーナ、話って?」
「ごめんね、ユリウス。教室だと話しずらくて」

 申し訳なさそうに眉を下げるカロリーナから相談したいことがあると言われたのは今朝登校してすぐだった。

「ランス王子のこと?」

 最近のカロリーナの行動からそうなのではと察してみる。ランスのことであるなら教室では確かに話しずらい。

「うーん……そうなんだけどねぇ……そうじゃないって言うか」
「どういうこと?」
「転生したって気づいた時は大好きなゲームの世界だって浮かれてたんだけど……段々ランスを攻略することばかり考えて、大好きな世界に転生できたのに自由がないなって気づいて……家族はいい人達なんだけど、折角王太子とお近付きになれたんだから番になるように言われてさ」
「番に、なりたくないの?」

 進級試験でもランスとダンスのペアを組んでいた。
 楽しそうに見えたが違ったのだろうか。
 そんな疑問が頭を過ぎる。

「私……実は好きな人がいるんだ」

 思いもよらない告白にユリウスは目を見開いた。
 ランスが好きだから選んだわけじゃなかったのか?
 ただ攻略できる、というだけでランスに近づいたというのか。
 恋愛に対する考えの相違がユリウスの中に複雑な感情を芽生えさせる。

「ゲームをしてる時は良かった。好きなキャラを選べたし、何回でもやり直せた。でも……今は違うんだよね。結ばれるのは一生に一度だし、選択を間違ってもやり直しなんてできない……」

 今の人生について向き合う覚悟を決めたような表情が、僅かに翳りを見せた。

「私の最推しって、攻略対象じゃないんだよね。モブじゃないけど、お助けキャラっていうか……だから攻略方法なんてわかんない」

 普通恋愛であれなんであれ、攻略方法なんてわらかなくて当然だ。
 好きだから相手を知りたいと思うし、好きになって欲しいから相手にも知って欲しいと思うのだ。
 勿論どんなに頑張っても好きなってもらえるとは限らないが。
 悩みを打ち明けるカロリーナに言葉を詰まらせる。
 ただ生まれ変わったと思っていたユリウスと、ゲームの世界に転生したと思っていたカロリーナ。元々この世界に対しての認識が違うのだ。
 ユリウスもゲームのファンであったならカロリーナと同じような考えを持った可能性だってある。
 そう思うとカロリーナの気持ちを無下に否定することなどできない。
 伺い見れば、その表情は薄らと涙を浮かべ痛々しく歪んでいる。
 後悔しているのだろう。
 効率的な恋愛を選んだことに賛同できないが、好きな人を諦めきれない気持ちは痛いほどわかる。
 この世界が本当にゲームの中であったとしても、今の自分にとっては現実にある人生なのだ。

「……みんな、同じだよ。ゲームの世界だって思ってるこの世界も今は現実なんだから、好きなように生きないと」

 自身の言葉にユリウスもハッとする。
 前世は窮屈な人生だった。
 運よく好きな人と付き合えたが、幸せだったかといえばノーだ。
 彼にはユリウスが知らなかっただけで他にも恋人がいた。2人でいる時は幸せな事もあったが、彼女がいると知ってからは裏切られた気持ちでいっぱいだったし、喧嘩も増えた。きっと相手に対して信頼する気持ちを失ってしまったからだろう。
 好きな人と……自分だけを愛してくれる人と一生添いとげられたらどれだけ幸せだろうか。
 別れを切り出す前はそんな事ばかり考えていた。

「ありがとうユリウス……私、やっぱり好きな人を諦めたくない」

 追憶から引き戻され、カロリーナへと視線を向ける。
 涙の浮かんだ瞳は迷いに揺れることなく、凛とした覚悟の色を乗せていた。


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