転生した世界で深愛に触れる

ゆら

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王太子の婚約者

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 しばらく経った頃、カロリーナが王太子の婚約者にいじめられているという噂が立った。しかも理由が、カロリーナが王太子を寝取った、などという淑女を貶めるようなものだ。
 時期的に、カロリーナがランスと距離を置き始めたのも合わさり、噂好きの貴族にとっては好餌だったのだろう。それは燎原の火の如く広まっていった。
 あくまで噂だ。真偽は定かでないにしろ、当のカロリーナはケロッとしている。
 噂の発端はランスの婚約者であるミレイユがカロリーナを窘めたことだが、それを目撃した噂好きの生徒が口にしてしまったのだ。「カロリーナ嬢がミレイユ嬢にいじめられている」と。
 アレクシスに招かれたガーデンパーティでミレイユとは挨拶を交わした程度の仲だが、アレクシス同様、生真面目で筋を通さないと納得しないタイプといった印象だ。
 そんなミレイユのイメージが周囲にいじめていると妙な印象を与えてしまったのだろう。よく良く考えれば矛盾するのだが、そこを気にしないから流言がやまないのだ。
 それに2人のイメージをただただ損なうだけしかない噂には早く収束してもらいたい。
 挨拶を交わしただけの間柄で話を聞いてもらえるかわからないが、ユリウスは意を決してミレイユの教室を訪ねた。

「ミレイユ嬢、お話があるのですが、少しよろしいですか?」

 緊張で僅かに声が強ばる。

「あら、あなたはローレンツの……人前では憚れる内容かしら」
「……少し」

 凛とした佇まいを変えることなく「行きましょう」と一言だけ告げると教室をあとにした。



 人気のない裏庭。
 中庭に比べ殺風景なこの場所は、剣術訓練で使われる以外は滅多に人が来ることがない。

「お話、というのは?」
「ミレイユ嬢と、カロリーナのことです」
「ああ……」

 察したように一息ついたミレイユだったが、その表情は微かに眉が動いただけだ。

「噂を鵜呑みにした訳ではありません。ミレイユ嬢がいじめているなどとも思っていません。ただ、このままだと双方に悪い心象を持たれるだけです」
「そう……。私も、噂は耳に入っております。カロリーナ嬢を窘めたことはありますが、勝手に尾ひれがついてしまっているようですね」
「ええ。叱責していた、頬を打ったなどという噂も耳にしました。ミレイユ嬢がそんな事するとは思えないですし、カロリーナもそんな事されていないと言っていたので…」
「勿論です。私はリベルラ家の名にかけてそんな事してませんわ。ですが……」

 淡々としていた口調が僅かに躊躇いの色を見せた。

「なにか?」
「それを信じる信じないは、きっと噂する人達にとってどうでもいいことなのでしょう。貴族にとって噂話は娯楽のようなものですから」
「それは……」

 諦観した言葉。少しの綻びを見せればあっという間に噂の的になる貴族社会で、公爵家ともなれば些細なことでも醜聞と取り上げられてしまう。今までもそういう標的とされやすかったのだろう。
 自然と視線が地面を写す。
 1度流れた噂をなかったことには出来ない。
 わかっているのにそれをミレイユに言ってどうしてもらうつもりでいたのか。
 ミレイユが「噂は嘘です」と言って何人が信じる。餌を取り上げられて喜ぶハイエナなどいないのに。
 自身の安易な考えに拳を握りしめた。

「心配なさらないで。私が関わらなければカロリーナ嬢との噂も下火になっていくでしょうし」
「ですが、そうなるとミレイユ嬢のイメージがッ」
「お優しいのね……私は大丈夫ですわ」

 ほんのり口角を上げたミレイユの目が柔らかく細まる。
 彼女はあの王太子の婚約者なのだ。将来国を背負う王を支えるため教育を受けた、国母の覚悟を持った女性。そんなミレイユに対し烏滸がましい進言をしてしまったと後悔する。

「……すみません」
「その優しさはあなたの美徳だと思います。大切になさって下さい。私のことを理解してくれようとする人がいる。それだけで私は覚悟が深まりました。ありがとうございます、ユリウス様」

 毅然とした姿で去っていくミレイユをただ見送ることしか出来ない。

「ミレイユのことなら気にすんな」
「ジェーク!?」

 どこからともなく現れたジェークにユリウスは腰を抜かしそうになる。

「公爵令嬢として強がりたいだけだ。あいつには必要だからな。ホント……あいつの兄貴もあれくらい公爵家を背負う気持ちがあればいいんだけどな…」

 どこか遠い目でミレイユが去った方を見つめるジェーク。
 ”あいつの兄貴“という言葉に引っかかったが、懐古が滲む瞳にユリウスは静かに頷くことしか出来なかった。


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