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拘泥
しおりを挟むヒート期間を終え登校したカロリーナの顔が朝から緩みっぱなしだ。
いい事があったのは一目瞭然。
休暇前、最後の授業を終えるとカロリーナに声をかけた。
「なんだか嬉しそうだね」
「ユリウス!聞いて!オリオールがさぁ、騎士になったら迎えに行くって言ってくれたの!」
破顔し花が舞いそうな声で喜びを伝えてくる。
「そっかぁ。良かったね」
微笑ましい報告にユリウスも堪らず笑みを浮かべた。
すれ違うようなことにならなくて良かったと心から思う。
騎士試験は冬季休暇明けに行われる。その頃には婚約の報告を聞けるかもしれない。
きっと2人はいい夫婦になるだろう。
カロリーナの奔放さに振り回されることもあるかもしれない。それでもオリオールは笑って受け止めるだろう。
そんなことを想像してふっと笑いが漏れた。
「ユリウスはさ、ローレンツと番になるんでしょ?あんなに好かれてるんだもん」
ニコニコと嬉しそうにカロリーナが微笑む。
そんな言葉にハッとし、ユリウスは視線を落とし首を振った。
今でもローレンツからそんな話をされたことは無い。
別のオメガを求めているんだろう。未だ婚約の申し込みがないということはそういうことだ。
「それは……ない、かな」
「なんかユリウスって自己肯定感低いよね。なんで?」
「え、そうかな?うーん……前世で愛されなかったから、なのかな?昔付き合ってると思ってた人に浮気されてて、親とも大人になってから絶縁状態だったし……だからかも」
しばし逡巡し、苦い思い出を口にする。思い出したくはないが、忘れられもしない記憶。出来事だけが鮮明で、彼がどんな言い訳をしたのかは覚えてないが、記憶の奥底にこびりついている。
「そんな……でもローレンツはその人とは違うし、今のご両親は愛してくれてるでしょ?」
勿論それもわかっている。わかっていても浮気された時のショックは今でも残っていて、消えない蟠りとなってしまっている。それが自己肯定感が低い原因かもしれない。
「それはそうなんだけどね……こんな僕でも、もし愛してくれる人がいるんならローレンツじゃなくても」
「俺じゃなくても?どういうことだ?」
思いがけない声に体が固まる。
ああ、迂闊だった。教室でする話ではない。
放課後に教室に留まっていれば、ローレンツがやってくるに決まっている。
恐る恐ると振り返った。
眉を寄せ普段見ないような表情をユリウスに向けている。
「番になりたい奴が出来たのか」
どこから聞いていたのかはわからないが、最後の一言は確実に耳に入ってしまったようだ。
一瞬開いた口を開いたはいいが、答えに迷い押し黙る。
言えるはずない。自分以外を番として求めているローレンツに言えるはずがない。
「ジェーク、じゃないか。この前も二人で話してたが、彼ベータだし……アレクシスとか言うなよ。アイツはジェークの妹と既に婚約してる」
そのどちらも違う。否定するようにただ首を振る。
それでも答えを口にすることは出来ない。
鋭い目に萎縮してしまう。
カロリーナも何か言わなければと慌てた顔を見せているが、ローレンツの圧に押されてただあたふたとするばかりだ。
「……話し合う時間が必要だな」
腕を掴まれ、引き摺られるように教室を出た。
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