転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ

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第6章:美形側近、集結(残り45日)

6-1:悪徳貴族の妨害工作

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 白ウサギ宰相(ラビ)の執務室、通称『戦略拠点』での火花散る三つ巴の遭遇戦から、さらに五日が経過した。
 リリアの破滅回避RTAは、現在、最も安定した段階に入っている。ラビの業務フローはリリアの指導のもとで劇的に改善され、女王レジーナによる無駄な命令は、ラビの裁量とリリアの代行決済権限によって、その大部分が『却下』か『棚上げ』とされるようになっていた。騎士団(ジャック)は士気が高く、常に王女の護衛という名の私的な監視を強化し、情報網(チェシャ猫)は、リリアの要求に応じて、王宮内の全ての秘密をスコーンと引き換えに提供していた。
 リリアの頭の中では、「チーム戦力、最高効率で稼働中。破滅フラグ回避率90%」という表示が点滅していた。
(これで、女王の暴走という『内部リスク』はほぼ管理下に置けたわ。アリスが来る九十日後まで、この体制を維持すれば、私の断罪シナリオは確実に不発に終わる)
 リリアは、王女宮の自室で、次のタスクである『王室財政の健全化』に関する資料を広げていた。これは、行政権限を持つ今だからこそ、ラビと連携して進められる、重要な長期タスクだ。
 白ウサギの執務室は、リリアの指導が入ってから、劇的な変貌を遂げていた。以前の『書類の雪崩』は完全に解消され、机の上には、進行中の案件のみが、重要度と緊急度に従って整然と並べられている。窓は常に開け放たれ、清涼な空気が流れる。部屋の隅には、リリアが淹れたばかりのハーブティーの香りが漂い、そこには以前の『魔窟』の陰鬱な面影は微塵もなかった。この執務室は、リリアの『経営哲学』と『秩序』を具現化した、まさに『戦略拠点』と呼ぶにふさわしい空間になっていた。
 しかし、リリアが忘れていたのは、彼女の改革が、この国の『既得権益』を脅かしているという事実だ。
 女王の暴政と、宰相の無力さ、そして騎士団の疲弊は、一部の悪徳貴族にとっては最高の『収益源』だった。女王の気まぐれなバラの肥料代の公費流用、滞納している貴族の税務処理の棚上げ、騎士団の装備品調達費の裏取引。これらは全て、王宮の腐敗という名の『温室』で育まれた、悪しき特権だった。
 リリアが行政の実権を握り、ラビ宰相と共に『合理的な行政運営』を導入した結果、それらの温室は、急速に冷え込み始めていた。女王がいくらバラを欲しても、その購入プロセスにリリアの監査が入るため、不正なキックバックが封じられたのだ。
 その日、リリアの『戦略拠点』であるラビの執務室に、予想外の『妨害工作』が持ち込まれた。
「リリア様、これは……」
 ラビは、顔色を青ざめさせながら、一つの羊皮紙をリリアの机に差し出した。その羊皮紙の端は、まるで故意に汚されたかのように黒いインクの染みがついており、この清浄な執務室の秩序を乱す『異物』のようだった。それは、王宮御用達の商会から送られてきた、次月の食料品および事務用品の『納入中止通知』だった。
「納入中止? 理由は何です、ラビ宰相。王室からの支払いが滞っているというのか」
 リリアは、冷静に書類を読み込んだ。彼女が管理している行政フローにおいて、王室の財政は常に黒字を維持しているはずだ。
「いいえ。支払いは滞っておりません。問題は、この文面です」
 ラビの指が差す先には、美辞麗句に包まれた、しかし明確な『拒絶』の言葉が記されていた。
 「この度の王室財政および行政運営の急進的なご改革により、弊社の業務フローが著しく圧迫を受けております。特に、今月より厳格化されました『公費支出の透明化』の要求は、長年の商慣習を崩壊させるものであり、貴王室との継続的な取引は、誠に遺憾ながら困難であると判断せざるを得ません」
 要するに、リリアの導入した『コストの見える化』と『税務監査の強化』により、彼らが享受していた不正な利益が遮断され、「これ以上、王室相手に不正な取引ができないなら、商売をやめる」という、悪徳貴族の息がかかった商会からの、明確な『反抗の狼煙』だった。
「ふざけているわね」
 リリアは、静かに、しかし深い怒りを込めて羊皮紙を叩いた。彼女の怒りは、個人的な感情ではない。それは、自分の構築した『効率的なシステム』が、腐敗という名の非効率な『ノイズ』によって汚され、脅かされていることへの、純粋な経営者としての苛立ちだった。
「これは、単なる納入中止ではありません。リリア様」
 ラビの声は、震えていた。彼は、長年、女王のヒステリーの裏で、こうした悪徳貴族たちの根回しと、横暴を見てきた。
「この商会は、王宮御用達品の八割を牛耳る『王室経理総括貴族』、ハートのテン男爵の息がかかっています。彼こそが、女王陛下の浪費の裏で、最も私腹を肥やしてきた悪徳の根源です」
 ラビは、白いタキシードの袖を固く握りしめた。彼の神経質な顔に、久しく忘れていた『絶望』の色が戻ってくる。
「彼らに納入を止められれば、王宮内の食料、事務用品、そして騎士団の備品に至るまで、全てがストップします。騎士団の士気は再び低下し、役人たちは業務に必要なインクすら手に入らなくなる。王宮は、数日後には『物資の飢餓状態』に陥ります」
 ラビは、息を継ぐ間もなく、この事態の深刻さを訴えた。
「そうなれば、リリア様が築き上げた、この行政の『均衡』は、一気に崩壊します。私の権限とて、空腹と不満に満ちた騎士団を前に、どこまで機能するか分かりません。私の改革を邪魔するなら、城全体を混乱させ、女王陛下に『リリアのせいだ』と告発し、貴女を排除しようという魂胆です」
 ラビは、悔しさに顔を歪ませた。彼は、リリアに救われた恩がある。リリアのために、全力で行政を改善してきた。だが、この巨大な『既得権益』の壁は、彼一人の力では、決して崩せない。彼の中で、再び『無力感』が、冷たい水のように広がっていくのを感じた。
「いいえ、ラビ宰相。崩せます」
 リリアの声は、冷たい氷のように響いた。彼女の青い瞳は、既にこの危機を『経営課題』として捉え、その解決策を高速でシミュレーションしていた。彼女の瞳の奥では、前世で最も理不尽なクレーマーを撃退した時の、闘志の炎が燃え上がっている。
(ハートのテン男爵。悪徳貴族の代表格ね。彼らの目的は、私を排除し、行政を以前の非効率な状態に戻すこと。しかし、私の手には、武力、情報、権力という、三つの最強の駒が揃っている)
 リリアは、羽ペンを手に取り、羊皮紙の余白に、新たな『業務フロー』を書き込み始めた。その手つきは、新作ケーキのレシピを考案する時のように、淀みない。
「ラビ宰相。この男爵が最も恐れるものは何でしょう。女王の怒りではありませんね。それは、彼が築き上げた『経済的な特権』が、全て崩壊することです」
「もちろんです。彼の富の源泉は、王室からの不正な公費流用と、貴族内の権力者としての地位です」
「ならば、私たちは、この男爵を『経済的・法的・社会的』に、同時に、そして徹底的に破滅させます。私が動くのは、『最も効果的かつ最も合理的なタイミング』でなくてはなりません」
 リリアは、ペンを置き、ラビの顔を見上げた。その瞳には、すでに悪徳貴族を『市場から撤退させる』という、冷徹な『経営戦争』の決意が宿っていた。
「私たちは、この納入中止を、逆に『彼らを市場から排除する最高のチャンス』と捉えましょう。ラビ宰相、貴方に、二つのタスクを提示します」
「承知いたしました。命じられるままに。私の命を、貴女様のために」
 ラビの赤い瞳に、再び希望の光が戻ってくる。彼は、リリアの論理的な判断力と、圧倒的な実行力を信頼していた。
「一つ。この男爵が過去十年間にわたって行ってきた『不正な公費支出』に関する全ての書類と、『税務上の不備』に関する全ての記録を、今すぐ洗い出してください。貴方の権限で、極秘裏に」
「それは、私の長年の裏仕事の領域です。既に大部分は把握しています。リリア様が与えてくださった行政権限を使い、すぐにでも『法的な鉄槌』を下す準備を整えます」
 ラビの神経質なエネルギーは、リリアのタスクによって『知的な献身』へと昇華された。
「二つ。騎士団の食料備蓄と、事務用品の残量を、正確に把握してください。物資が底を尽きるまでの『猶予期間』が必要です。私の計画は、そのデッドラインの直前に、全て実行されます。この攻撃は、一撃で終わらせる。『二度打ち』は非効率です」
 リリアの命令は、極めて冷静で、的確だった。彼女は、自ら最前線に立つのではなく、三人の側近という『最高の資源』を、最適なタイミングで投入する『司令塔』の役割を選んだのだ。ラビは、リリアのその冷徹なまでの合理的思考に、心底から感服し、静かに深く頭を下げた。
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