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第三章:開拓(アトリエLv.1)
3-5:最初の調達リスト(バルト商会への指令)
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『白夜の桃』の成功により、エリアーナの行動は、さらに加速した。
セバスと村の若者たちによる懸命な作業の結果、一週間後には、打ち捨てられていた厨房は、最新鋭の機材が並ぶ、清潔な「アトリエ」へと生まれ変わっていた。
魔導コンロの青白い炎が静かに燃え、真新しいステンレスの調理台が、ランプの光を反射して輝いている。埃とカビの匂いは消え、代わりに『白夜の桃』から放たれる、清らかな香りが満ちていた。
エリアーナは、そのアトリエの中心に立ち、セバスに最後の「調達リスト」を手渡した。
「セバス、王都への二度目の魔導便よ。今回の手配先は、代官ゲオルグ殿が推薦してくれた、信頼できる行商人(バルト商会)にお願いして」
「かしこまりました。今回のリストは、前回の機材と比べて、随分と……地味でございますね」
セバスがリストを見下ろすと、そこには「最高純度の砂糖」「ヴァニラの鞘(さや)」「厳選されたナッツ類(ピスタチオ、アーモンド)」「高品質なバター」など、王都でさえ手に入りにくい、極めて繊細な食材の名前が並んでいた。
「地味ではないわ、セバス。これらは、私の『作品』の骨格よ。前回が『骨』なら、今回は『筋肉』。特に『砂糖』と『バター』は、王都の社交界で出回っている、あの不純物だらけの代物では、絶対に私の要求を満たせない」
エリアーナは、真剣な顔でセバスに語りかけた。
「パティスリーにおいて、砂糖は単なる甘味料ではないわ。キャラメリゼの『結晶化』、メレンゲの『安定化』、そしてクリームの『乳化』の全てに関わる、極めて繊細な『化学物質』よ。純度が低いと、温度が僅かにずれただけで、全てが台無しになる」
彼女の言葉は、まるで魔法の呪文のようで、セバスには理解できない専門用語の羅列だったが、その情熱だけは痛いほど伝わってきた。セバスは、主のその集中力と、「化学物質」という言葉に、畏敬の念を抱いた。彼は、この令嬢がやっていることは、もはや料理ではなく、学術的な探求なのだと悟った。
「特に、あの『白夜の桃』の香りを、最大限に引き立てるには、透明で純粋な甘さを持つ『最高純度』の砂糖が必要不可欠なの。王都の富裕層が『最高級』と呼ぶものよりも、さらに上の『品質』を求めて」
セバスは、リストに記された『最高純度の砂糖』の項目を指でなぞりながら、主の要求の過酷さを理解した。王都の最高級商会ですら、これを常に安定して手配するのは困難だろう。しかし、今や彼の脳裏には、あの純白に輝く『白夜の桃』の姿が焼き付いている。あの桃を活かす素材ならば、たとえ王国の財宝を使い果たそうとも、調達しなければならないという、強烈な使命感に突き動かされていた。
「この地では、私たちの『作品』を理解できる人間は、まだ誰もいないでしょう。だからこそ、信頼できる『調達係』が必要なの。王都から、必要な『素材』を、正確に、そして清潔に運び届けてくれる、ビジネスパートナーがね」
エリアーナは、セバスの目を真っ直ぐに見据えた。彼女の目には、既に行商人との交渉のシミュレーションが映っているかのようだ。彼女にとって、調達は単なる買い物ではなく、最高の素材(ポテンシャル)を作品(アウトプット)に繋げるための最初の、最も重要な関門だった。
「このリストを、バルト商会の行商人に届けて。そして、はっきりと伝えてちょうだい。このリストにある『品質』をクリアできなければ、私たちは彼らと取引しない。だが、もし、私の要求に応えてくれたなら……」
彼女は、アトリエの窓の外、夜明け前の冷気に包まれ、純白に輝く『白夜の桃』の木を一瞥した。
「彼らに、王都の貴族が、その財産を投げ打ってでも欲しがるであろう、『奇跡のコンフィチュール』の独占販売権を、与えることになるだろう、と」
エリアーナの微笑みは、純粋な探求者のそれでありながら、同時に、全てを掌握するビジネスの女王の威厳を帯びていた。セバスは、主の背中に、公爵家を繁栄させた歴代の当主たちに共通する、揺るぎない「才覚」を見た。老執事は、深く、そして力強く一礼した。
「かしこまりました、お嬢様。必ず、バルト商会に、お嬢様の『条件』を、このセバスがしかと叩き込んでまいります」
セバスと村の若者たちによる懸命な作業の結果、一週間後には、打ち捨てられていた厨房は、最新鋭の機材が並ぶ、清潔な「アトリエ」へと生まれ変わっていた。
魔導コンロの青白い炎が静かに燃え、真新しいステンレスの調理台が、ランプの光を反射して輝いている。埃とカビの匂いは消え、代わりに『白夜の桃』から放たれる、清らかな香りが満ちていた。
エリアーナは、そのアトリエの中心に立ち、セバスに最後の「調達リスト」を手渡した。
「セバス、王都への二度目の魔導便よ。今回の手配先は、代官ゲオルグ殿が推薦してくれた、信頼できる行商人(バルト商会)にお願いして」
「かしこまりました。今回のリストは、前回の機材と比べて、随分と……地味でございますね」
セバスがリストを見下ろすと、そこには「最高純度の砂糖」「ヴァニラの鞘(さや)」「厳選されたナッツ類(ピスタチオ、アーモンド)」「高品質なバター」など、王都でさえ手に入りにくい、極めて繊細な食材の名前が並んでいた。
「地味ではないわ、セバス。これらは、私の『作品』の骨格よ。前回が『骨』なら、今回は『筋肉』。特に『砂糖』と『バター』は、王都の社交界で出回っている、あの不純物だらけの代物では、絶対に私の要求を満たせない」
エリアーナは、真剣な顔でセバスに語りかけた。
「パティスリーにおいて、砂糖は単なる甘味料ではないわ。キャラメリゼの『結晶化』、メレンゲの『安定化』、そしてクリームの『乳化』の全てに関わる、極めて繊細な『化学物質』よ。純度が低いと、温度が僅かにずれただけで、全てが台無しになる」
彼女の言葉は、まるで魔法の呪文のようで、セバスには理解できない専門用語の羅列だったが、その情熱だけは痛いほど伝わってきた。セバスは、主のその集中力と、「化学物質」という言葉に、畏敬の念を抱いた。彼は、この令嬢がやっていることは、もはや料理ではなく、学術的な探求なのだと悟った。
「特に、あの『白夜の桃』の香りを、最大限に引き立てるには、透明で純粋な甘さを持つ『最高純度』の砂糖が必要不可欠なの。王都の富裕層が『最高級』と呼ぶものよりも、さらに上の『品質』を求めて」
セバスは、リストに記された『最高純度の砂糖』の項目を指でなぞりながら、主の要求の過酷さを理解した。王都の最高級商会ですら、これを常に安定して手配するのは困難だろう。しかし、今や彼の脳裏には、あの純白に輝く『白夜の桃』の姿が焼き付いている。あの桃を活かす素材ならば、たとえ王国の財宝を使い果たそうとも、調達しなければならないという、強烈な使命感に突き動かされていた。
「この地では、私たちの『作品』を理解できる人間は、まだ誰もいないでしょう。だからこそ、信頼できる『調達係』が必要なの。王都から、必要な『素材』を、正確に、そして清潔に運び届けてくれる、ビジネスパートナーがね」
エリアーナは、セバスの目を真っ直ぐに見据えた。彼女の目には、既に行商人との交渉のシミュレーションが映っているかのようだ。彼女にとって、調達は単なる買い物ではなく、最高の素材(ポテンシャル)を作品(アウトプット)に繋げるための最初の、最も重要な関門だった。
「このリストを、バルト商会の行商人に届けて。そして、はっきりと伝えてちょうだい。このリストにある『品質』をクリアできなければ、私たちは彼らと取引しない。だが、もし、私の要求に応えてくれたなら……」
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