『「害虫駆除」スキルでスローライフ? 私、害虫(ドラゴン)も駆除できますが』

とびぃ

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第九章:王都の断罪

9-5:王の裁き

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王都、大会議室。
『遠見の水晶』を取り囲む国王と貴族たちも、バルケン領とまったく同じ、死んだような沈黙に包まれていた。腐敗臭が漂う部屋で、誰もが息を潜め、水晶の中の光景に釘付けになっている。
水晶の中で、何が起きたのか。
理解が、追いつかない。
あの、建国神話に語られる「古竜(エンシェント・ドラゴン)」が、あの追放した地味な小娘(ファティマ)の、「去れ」というたった一言で、絶叫しながら逃げ出した。
国王の、老いた手が、玉座の肘掛けをミシミシと音を立てるほど強く握りしめられていた。
彼は、すべてを悟った。
(聖女セシリア)
国王は、意識を失ったまま侍女に抱えられている哀れな少女を一瞥(いちべつ)した。
(お前の『豊穣の祈り』は、地力(マナ)を『前借り』するだけのまやかしだった。結果、地力(ちりょく)を失った王国は蝗(イナゴ)に食い尽くされた。蝗に対しても無力。竜を見ただけで失神。……これが、王国が縋(すが)った、『奇跡』の正体か)
そして、国王は、水晶の中で竜を退けた後、何事もなかったかのように、「さて、仕事の続きをしましょうか」とでも言いたげに、自分の泥だらけの作業着の埃(ほこり)を払っているファティマ・フォン・バルケンを見つめた。
(地味なスキル。【害虫駆除】。だが、その『本質』は、蝗もゴブリンも騎士団(ぐんたい)も竜(ドラゴン)すらも、『害』と認識する限りすべてを『駆除』する、最強の『守護スキル』)
それだけではない。
(聖女の『前借り(まやかし)』とは真逆の、『土壌改良(ほんもの)』という『技術』で、死んだ土地すら蘇らせる。『本物』の『豊穣』をもたらす力)
国王の思考が、確信へと変わる。
(我々は、なんと、いう『宝』を、なんと、いう『愚か』な理由で、捨ててしまったのだ!)
国王の目から、静かに一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、絶望の涙ではない。あまりにも深い「後悔」と、そして、王国(われら)にはまだ「希望(ファティマ)」が残っていたことへの、万感の「安堵」の涙だった。
国王は、その涙を拭うと、数日ぶりに「王」の威厳を取り戻した、冷たく、しかし力強い声で命じた。
「―――全員、聞け!」
腐敗した空気の中で死人のようだった貴族たちが、ビクリと国王の「生」の声に顔を上げた。
「魔術師オルロ! 聞こえるか!」
水晶の向こうで、ファティマに呆然としていたオルロが、『は、はひっ! 陛下!』と飛び上がる。
「宰相ゲオルグ・フォン・バルケンを、『反逆罪』で即刻、拘束せよ」
「えっ?」
『へ、陛下!?』
水晶の向こうで、腰を抜かしていた宰相が、信じられないという顔で叫んだ。
「騎士団長! 貴様はまだ『騎士』か!」
「は、はっ!」
水晶の向こうで、唯一無事だった騎士団長が、恐怖に震えながら立ち上がった。
「宰相を捕えよ。それが貴様の最後の『任務』だ。その後、貴様も他の者たちも、王都へ戻り次第『処分』を決定する」
「御意(ぎょい)!!!!」
騎士団長は、もはや何の迷いもなく、絶望の顔をする老(お)いた宰相にその手をかけた。
国王の裁きは、止まらない。
「―――アルフレッド王子は、本日ただいまをもって、『王太子』の資格を剥奪(はくだつ)する! 帰還(きかん)次第、北の修道院へ『幽閉』とせよ!」
貴族たちが、息を呑んだ。国の根幹が、今、作り変えられていく。
そして、国王は、玉座からゆっくりと立ち上がった。
彼は、水晶の向こう、何が起きたのかまだ理解できず、キョトンとしている泥だらD 1s けの少女(ファティマ)に向かって、その老いた体を、深く、深く、折り曲げた。
「―――ファティマ・フォン・バルケン、公爵令嬢」
国王は、一度言葉を切り、訂正した。
「いや。バルケン領『領主』、ファティマ殿」
「王国(われら)の愚かな行いを、心より詫(わ)びる」
「どうか。どうか、その、『力』と、その、『恵み(しょくりょう)』で、この、愚かな、王国を、救ってはくれまいか」
王が、頭(こうべ)を垂れた。
【害虫駆除】のスキルが、【豊穣の祈り】の奇跡を、完全に超えた。
王国の、「価値」が、逆転した、瞬間だった。
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