誤召喚された異世界でチート魔法使いと旅をします

桐戸李泉

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1章

11話 犯人

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 真っ暗闇の世界に俺の体は漂っていた。
 ふわふわとした頭の中で必死に考え事をしようとするが、纏めようとしたものが散り散りになり、結局、何も考えられずにいた。
 
 ーーここは何処だろうか?

 そんな根本的な疑問ですらよく分からない。
 そういや刃物で刺されたなぁと、他人事のように先ほどのことを思い出す。
 そうしてしばらくの間、真っ暗闇の無の中を漂っていると、少し先の方で光が見えた。光に近づくと、どうやらそれはこの空間のヒビの向こう側から漏れ出ているものらしい。
 空間のヒビに近づき、光を見る。
 
 その光の中で一人の年端もいかぬ少女が泣いていた。
 少女の周囲には焼けた家と幾つもの焼け焦げた死体。
 見た事ない筈の少女。
 しかし、その容貌には見覚えがあった。
 両手に覆われた顔。その手の隙間から涙がこぼれ落ちていた。
 どうにか慰めてあげたいな、ふとそう思ったが、どうやら俺はその光には近づけないらしい。
 やがて少女は立ち上がると、真っ赤に腫らした瞳で辺りを強く睨みつけた。
 その姿を見て、ようやく俺は思い出す。
 あの少女はーー。

******

「……ト、……ウト」

 誰かの呼ぶ声がする。それはここ最近では、すっかりと聞き慣れた声。

「……なんかもう面倒くさいわね。3、2、1……」

 心地いい音と共に頬に激痛が伝う。

「いってぇぇぇぇぇぇ」
「ようやく目を覚ましたわね」
「て、てめぇ……」
「ったく心配をかけさせないでくれるかしら? ほんとに一時はどうなるかと……」
「そういや俺……」

 意識を失う前に、少年に刺された場所を触る。

「……痛くない?」

 腹部は包帯でぐるぐる巻きにされていたが、一切痛みは無かった。

「もう治療してるから傷は塞がってるわよ。ただ今動くと傷が開いちゃうかもだけど」
「……あ、ありがとな。てか、そんな奴の頬を叩いて起こすなよ……」
「傷は塞がってるのだもの。それに、あんたにここでずっと寝てもらう訳にはいかないの」
「何かあったのか?」
「えぇ。彼等に魔導書狩りを依頼したのはデルイで確実ね。それと、いざという時のために彼らに記憶消去と反撃の魔法を施していたみたい」

 もう解いたけどね、とリザは付け加える。

「つまり、俺はその反撃の魔法に引っかかったってわけか……てかここは?」
「今更ね。ここは彼らが住んでいた洞窟よ。ここもデルイが結界を張ってたみたいで、認識されにくいよう施されていたらしいの」
「つまり……なんだ? あいつ、自分が黒幕な依頼を出してたってことか」
「そういうことよ。おそらく写本ではなく本物が欲しかったんでしょうよ」
「それでやり過ぎた結果、図書館から貸出禁止が言い渡されたと」
「えぇ」
「何だよそれ、ただの自業自得じゃないか……」
「そういうことみたいね。依頼を出してるのも、ようは自分は事件を解決しようとしてますってアピールに利用してるだけね。後、彼らに話を聞いたけど、案の定難民になって彷徨ってた時にデルイに拾われたらしいわ」

 お金ってろくなもんじゃないわよね、と吐き捨てる。

「そうなのか……」

 辺りを見回す。
 そこにはまだ少し心配そうな表情を浮かべてこちらを見る人たちがいた。その顔にはもう布は巻かれていなかった。
 
「あの男の子は?」
「あぁ、あの子なら奥の方で寝てるわ。少し記憶をいじらせてもらってるから起きるのにもうしばらく時間がかかると思う」
「記憶をいじった?」
「えぇ。あんな子が人を刺した、なんていう記憶を持ったままだとトラウマになりかねないから」
「確かに……それでこれからどうするつもりだ?」
「勿論、デルイの所に行って魔導書狩りに関わってる証拠を突き付ければ終わりだけれど」
「そう簡単に認めるわけないよな」
「でしょうね。それに盗んだ魔導書だっておそらく何処かに隠しているはずだし」
「どうするんだ?」
「とりあえずギルドか何かに通告を入れるべきなんでしょうけど」
「街の有力者と旅の途中で寄った俺たち、どちらが信用されるか分からないもんな」
「そんなのどうでもいいわよ。私が心配してるのはデルイの館を破壊した時、その責任が私に降りかかるのが嫌ってことだけだもの」
「……お前という人間を間違えてたわ」

 怪我人にビンタを喰らわすような人間だったことを忘れていた。

「それに、私の所有物を傷物にしたことは大変許しがたいことだし」
「所有物ってな……」

 メラメラと怒りを燃やすリザ。
 言い方はともかく俺の事を心配してくれていたらしい。

「デルイについては色々と言いたいことがあるのだけど、別にいいわ。それよりも……」
 
 リザは途中で言葉を切ると出口の方へ向かい、外を見る。

「やっぱり腐っても魔法使いね」
「どうしたんだ? えっ……」

 時間は夜。
 随分と気を失っているらしい。いや、今はそんなことどうでもよかった。
 崖の下、暗闇の中、真っ赤な瞳が幾つも蠢いていた。

「まずはあれをどうにかしなくちゃね」

 リザは口角を上げてそう言った。


 
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