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母さん、吸血鬼です

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母さん、大変です。
母さんの大好きなあのゲームキャラが空中に浮いています。

頭の中で母さんの車の中で、延々と聞かされていた、サントラのあの曲がグルグルまわってます。

俺は男の容姿になんて興味ないし、特にこの世界イケメンだらけだから今更一人増えても…だけど、敢えて厨二的に言うなら……

【赤味がかった大きな月を背に、その男は宙に浮いていた。
漆黒の装束を身に纏った男は、静かに音もなく俺たちの目の前に舞い降りる。
風に靡く長い銀髪は月の光を反射し、密やかな輝きを放つ。
漆黒に包まれた身は引き締まり、そのせいか佇まいに隙がない。
透明感のある白い肌に映える涼やかな瞳は紅く、その視線は僕を捉える……】

○○○○○!チャラララ~ン○○○○○!
あー、刀持たせたい!

いやいや落ち着け俺、リザードマンの状況と、聞いていた外的特徴、銀の髪に赤い瞳は…

「やっぱり吸血鬼だった……」
仲間達は小さく囁きながら後退り、漆黒の男から距離を取る。
薄っすらと微笑みをたたえた口が開き俺に語りかけて来た……

「お前かー、魔族を纏めるってあちこち回ってる奴は」

………え?……。


*****


「色々噂は聞いてるよ。
何でも人族の王に頼まれたんだって?
わざわざ他の世界から来てまであんたも大変だねぇ」

……何だろ…今まで会った人達より飛び抜けて美形なのに、口を開いた途端に、気の良いチャラい兄ちゃんになってしまった。 

「私がもっと血ぃー吸えたらわざわざ呼び出されなくても良かったんだろうけどね」

ん?何の事だろう。
俺の疑問が顔に出てたのか、アンズがぴょんと肩に乗り答えてくれる。

『あのねアルジ、吸血鬼って魔族の血を吸うんだ。
血を吸われたら無気力になっちゃうんだよ』
遠くでオニギリ達がうんうんと頷いている。

「私が血を吸うとね、無気力になると言うより生気も一緒に吸うから脱力しちゃうんだよ。
脱力して戦いなんてどうでも良いって感じになるのかな」

ああ、成る程、だからリザードマンがこんな状態なんだ。

「基本的にシーズンにしか血は吸わないし、毎年好みは変わるしで、手当たり次第血を吸ってるわけじゃないんだよ。
毎回変わる好みで選んでるしね。
それに血だけで生きていけるわけ無くて、普段は普通に食事をしてるんだよ。
肉や野菜や魚なんかも、バランス良く食べなきゃ体に悪いしね」

…………え?吸血鬼……?
バランスの良い食生活を心がける吸血鬼?

話せば話す程イメージ崩壊していくんだけど……。

「まあ、シーズン以外でも吸えないって事じゃ無いからね。
私もお前に協力するよ」

えーーー……。

押しかけ吸血鬼が仲間になった……のか?


*****


何でも吸血鬼って、元々魔族の暴走を抑える為に生まれた、たった一人の種族なんだって。

魔族も人族も、動物さえ自由に(好き勝手に)生きているのに、自分だけ仲間もいないたった一人きりの種族の上、役目が有る事に納得出来ず、最初は荒れていたそうだ。

たった一人…ある意味エルフよりキツイかもしれないよね。

暴走して、体が受け付けず吐くほど血を飲みまくり、加減なしに吸われた相手は死んでゆき、魔族だけでは無く人族も襲っていたそうだ。

『このまま体を崩し死ねれば良いのに…』

そう思いながら血を吸い続けていたある日、人族の親子が現れた。



『お前が吸血鬼か?
残虐非道な吸血鬼?
嘘だろ、フラフラでお前の方が今にも倒れそうじゃないか』
『放っておいてもらおう。
私には共に語り合う仲間も居ない、そなたのように次に繋ぐ命も育めない、滅んでしまえば良い存在なのだから』
『で?一人で死ぬのは寂しいから道連れに手当たり次第って感じか?
暗いねー、お前さん友達居ないだろ?』
『!!だから私は独りだと言っている!』
『だったら!…だったら俺と友達になってくれないか?』
『…………何を言っている、ひ弱な人族が……』
『あー、貧弱でひ弱だよねー。
よく増えるけどちょっとした事ですぐ死んじまう。
だから俺と友達になって人族を襲わない様にしてくれないかな?』
『……何を勝手な………』
『血は吸わないと生きてけないのかい?』
『……シーズン以外は飲むと逆に体調を崩す。
元々魔族の暴走抑える為に飲むのであって、食事では無いのだからな』
『何それ、人族にめっちゃ都合の良い能力じゃん!
これはもう人族の為にも俺達友達な?』
『な……何を勝手な……』
『はははははー、勝手上等!
人族は魔族の暴走に悩まされなくなる、お前は独りじゃ無くなる、お互い様ってやつだよ。
お前は俺の友達、そしてこの子はお前の子でも有ると思って助けてやってくれ』
『…どこまで勝手な奴なんだ、呆れるな』
『お?今笑ったな?お前笑った方が良いぞ、ますます良い男だ、男の俺でも惚れちまう』
『何を言っている!貴様!』
『はははは、結構表情豊かじゃん。
最初の能面よりそっちの方が断然良いぞ!』
『……相手にしていられない、私はもう行くぞ』
『おう、またな!人族の街に俺を訪ねて来てくれ、いつでも待ってるからな。
俺の名前はガーム、ガーム・タリタル、コイツはリック・タリタルだ、
忘れるなよ!』





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