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第三章 異世界の馬車窓から

弓削家の書

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昼食は、レニさんは仕事が押してしまい、戻って来れなかったので、レンさんとナチ、それから次男さんと五男さんの五人でとなった。

「初めまして、ユゲ・リキ・テムです。
国の外れに有る町の代表をやっています」

見た目三十半ばくらいの、少し白いものの混じった黒髪の、小柄でがっしりとした体つきの男性だ。

「町長さんですか」
「ええ、ユゲの初代が功績を認められて、頂いた土地を収めています。
母に言われて家系の書物を持参しましたので、後でお見せしましょう」
笑顔で言いながら右手を出し、握手をする。

「ありがとうこざいます」
うん、他の召喚された人達の事って気になるから、記録が有るなら見て見たかったんだ。

もう一人の二十代前半に見える、明るい茶髪の、同じく小柄な青年が前に出る。

「ユゲ・リキ・ナカです。
母の元で宰相補佐をしております。
このまま適任者がいなければ仕事を継ぐ予定です」

彼もニッコリ微笑んで右手を出すので、僕も素直に手を出したら……やられた!

「兄さん!凄いよこの子!
このまま家に連れて帰りたい!」
「お前狡いぞ!俺だって触りたいの我慢したのに!
次は俺だ、貸せ!」

ゴツい男性二人に、まるで縫いぐるみの様に奪い合われた……。
この精神的ダメージは筆舌にし難い…………。

そしてそんな僕らを見ているナチは、呆気にとられた顔で、隣に立っているレンさんに耳打ちする。

「父様、義兄様達は確か…」
「ああ、確か母親の血が強く出たハーフだから、魔物の反応なのか?
成る程、これが通常の反応だとすれば、レニは随分冷静な態度だったんだな」

二人で納得し合ってるけど、そんな分析どうでもいいから助けろー。

スイが助けてくれました。
流石スイさん、凄く冷静に助けてくれました。


*****


「いやいや、先程は失礼した。
こう…何というか、抑えが効かない?」
「そんな感じですよね。
何だろう、触って触ってって言う感じが滲み出てると言うか」
「だよなぁ」

いや、今まで会った人の中で一番激しいから。

昼食を食べながらの会話は穏やかだった。
テーブルの位置が離れていたからね!

食事中もチラチラこっち見てたし、スッゴく怖い!
色々聞きたいけど、近寄りたくない!
だってレンさん親子は遠巻きに見てるだけなんだもん。

なので、昼食後、書物を見せてもらうのに、スイを防波堤代わりにソファーの後ろに控えてもらった。
しかし、スイが近くに居ると近寄って来ないのは何でだろう?

「これが我が家の初代が書きつけたものだ。
何でも同時に召喚されたフジ家の初代から、後のために書きつけを残した方が良いと言われて、どの家でも同じ様な記録が残っている」

フジさんか、確か医療大臣って紹介された黒髪の人がフジ何ちゃらさんだったよな。
少し古びている冊子の表紙には

【弓削 幸蔵】

と書かれていた。
名前の感じから昭和から召喚されたって人かな?
【蔵】って字を使っているイメージからの憶測だけど。

予想をつけて読み出したら、やはりそうだった。
書かれていたことを掻い摘んで纏めると、


【昭和の第二次大戦に上弓削村から出兵した、弓削家の三男。
学問好きで、兵法の書なども数多く読んではいたが、一兵の意見など上官は聞き入れず、見え見えの罠に嵌って隊は全滅。

爆発で脚を吹き飛ばされ、薄れていく意識の中で、眩い光に包まれたと思ったら、見知らぬ男達と広間で蹲っていたそうだ。

異国人の風体の人達が話しかけてくるけど、何を言っているのか分からない。
ただ気分が悪く蹲っていると、着物を着た若い男の身体に光がいくつか入って行くのが見えた。

同じように蹲っていた着物の男は立ち上がり、自分を始め他の男を指差し、空中に何か話しかけている。
すると自分の中にも光が入って来て、言葉が分かるようになった。

取り乱さずに済んだのは、若い男が自信あふれる笑顔だったから、奇怪な出来事にも冷静でいられた】

妖精の祝福受ける感じは同じだな。

その後は状況を聞き、戻れないのならここで第二の人生を歩むのもいいかと、協力する事となったそうだ。
そして、自分と若い男が中心で作戦を立て、戦いを終結させたそうだ。

うーん、歴史小説っぽかった。
正直なところ、そんな戦いの場に呼び出されなくて良かったと思う。

こう言う書きつけたものが各家系に有るのか。
ちょっと楽しみに思うな。

因みに同じ英雄家系のスイも僕の隣で、興味深げにユゲ家の書物を読んでいた。




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