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第三章 異世界の馬車窓から
フジ家で滞在
しおりを挟む「ところで、先程から口にされている『クマザワサン』とは何なのでしょうか」
あ、そう言えばナチュラルに呼んでたな。
「熊澤さんって、僕の勤め先の先輩の名前で…」
顔がよく見えるように、熊澤さんを抱える。
「このタタンジュとソックリな顔をしてるんです」
後ろで覗き込んでいた護衛と、位置的に僕の後ろに居る男性も微妙な顔をする。
「ほっとけないって言うか、助けてあげたくなる顔してるんですね、タタンジュって」
このタレ眉とタレ目、手助けしてあげたくなるよね。
「いやー……普通のタタンジュはこんな顔して無いな。
こんな顔のヤツは珍しいって言うか……ブサイクだよな」
男が言うと、護衛さん達も頷く。
え?何それヒドイ!
後ほど見せてもらったタタンジュは、黒いクリッとした目の、オコジョな顔つきだった。
確かにオコジョフェィスが通常なら、熊澤さんはちょっと個性的だけど、味が有って良いじゃん!
……と言う僕の主張に頷く人は誰も居なかった…………なぜ⁈
*****
「改めまして、フジ・ウル・レフだ。
外科と言うモノを担当しているんだな。
外科って聞いた事無いかもだけど、身体の中の悪い所を治すんだな。
中なのに外科って不思議だよな」
へー、外科なんて有るんだ、この中世っぽい世界に。
「後は三男が隣の建物で内科って言う、風邪や頭が痛いとかの診察してる。
父さんは薬の研究で、殆ど研究室から出てこないな」
「フジ家は新しい薬を数多く開発しているのですよ」
スイが補足してくれる。
「でな、そんな父さんの跡取りが次男なんだけど、今タタンジュの管理で東の森に行ってて留守なんだな。
暫く戻って来ないから、顔を合わせないかもしれないな」
男…レフの言葉に小さな声で、
「だからこの家に来たんですよ」
とスイが呟いたんどけど、何の事だろう?
「そしてこの美人な女性が俺のカミさんのリラだ。
病院の事を全部仕切ってくれてる、美人で優秀な、女神様の様な最高な伴侶なんだな」
「ちょっと何言ってんの!
恥ずかしいからやめなさいっていつも言ってるでしょ!」
いつの間にそこに居たのか、レフの横に小柄……って言うか、随分背の低い女性がいた。
ネズミのミミが有るからネズミの魔物の人かな?
背は低いけど、顔は確かに整った美人だ。
しかし身長差……1メートルくらいないか?
他の従業員も紹介してもらい、やっと部屋に案内される。
道路に面した病院の裏側が住居となっている。
従業員は皆近所なので通いだそうだ。
住居部分より病院のスペースが3倍近くの広さが有る。
その中に薬品研究室が有るそうなのだが、室内には危ない物も多く、中から鍵がかかっていて、外からの音も聞こえない、特殊な作りの部屋になっているらしい。
勿論中からも、音だけではなく、何かが漏れ出しても、部屋の外には出ないと。
……何かってなんだろう…………。
研究室ってどんな作りの部屋なんだろう。
と言う前に、どんな危ない事しているんだろう。
集中している当主のウルは邪魔をとことん嫌うし、集中力が切れると失敗の元となるので、ウルの気がすむまで部屋から出てこないとの事。
跡取りの次男もだけど、この滞在中に顔を合わせることは無いかもしれないと言われた。
レフさんも、コムさんも、病院は年中無休で診察していて、リラさんも仕事で家を空けている。
なので、訪問した僕の対応してくれるのは、三男のフジ・ウル・コムの奥さんの、フジ・ツカ・キキさんだ。
リラさんは主に病院の事務的な仕事と、従業員の管理をしているそうだ。
なので、二家族分の家事の采配は、キキさんが全て行なっている。
全ての家事を一人でって大変だろうに、僕の相手までして貰うのは気が引ける。
だから滞在中はリビングで大人しく、フジ家の書物を読んで過ごした。
幸いにと言うか、書物は医者の残した物なので、専門用語も多く、集中力が続かず、読むのに時間がかかったので、少し読み進めてはゴロゴロと休憩したり、熊澤さんと遊んだり、スイに小言を言われたりしながら滞在日を過ごした。
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