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第三章 異世界の馬車窓から

異世界ノ常識トハ

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商店を一通り巡り、スイに案内されて本宅へと移動する。

「本宅とは呼んでいますが、実際は寄り合い処と言った方が正しいですね。
土岐家は家族が増えすぎて、一堂に会する場所としてこちらを改築致しました。
普段は皆それぞれの家に居ます」

この隣とあちらに見える家もそうですよ、と指差した場所には城下町でよく見る、普通のサイズの家がある。
今まで訪れた家は屋敷や城(改造城?)だったので、小ぢんまりとして見えるね。

「店で働いている方々も通いですし、働くのが好きな者ばかりなので、店に居る事が多く、自宅より店を快適にする事に力を入れています。
寝に帰るだけと言っても良いくらい、朝から晩まで店に居ますからね」

言葉は揶揄しているようだけど、スイの表情は誇らしげだ。

「……まぁ【一部を除き】ですがね」
おっと、周りの気温が少し下がったように感じたよ。


着きましたの言葉に本宅を見ると、かなり広い二階建てのお屋敷だ。
旅館っぽい感じかな。

入り口正面の階段を上がり、客室に通される。
「一階は高祖父殿が、孫が生まれた時期に改築し、一階スペースの三分の二を宴会場にしています。
祝い事などがあると、そちらで集まる事となっております。
従業員の婚約パーティーに貸し出したり、緊急時の避難場所だったり、倉庫から溢れた商品を置いたり。
定期的にバザーを催したりもしています」

宴会場と言うより、公民館の様な使い方なのかな。

「二階は休憩所と言ったところですかね。
高祖父殿としては、一族皆で住むには狭いですし、窓から見える距離に家を建て住んでいるのだから、広いスペースは皆で共同で使えば良いと。
なので従業員以外でも、ツテがある町の方も利用しています」

「へー、町の人も使えるとか、太っ腹だね」
「まぁ、高祖父殿が言うには『町の人有っての商売人、イメージアップにもなるし、有る物はなんでも使え、それが客足に繋がる一因になるのだから』だそうです」
ギブアンドテイクと言ってますよ、とスイは笑う。

秋彦さんの商売人の考え方は、スイも理解できるみたい。
でもきっと国から貰っただろう家を解放するって、なかなか凄い事なんじゃないかな、と思う。

町の人からすれば、広いスペースを借りれると言うだけでなく、英雄の館を借りられるってのもステータスなのじゃないかな。
しかも聞くと無償で貸しているそうだ。

「でもさ、物を壊されたり、持って行かれたりしないの?」

穿った見方かもしれないけど、客室の中だけでも、高価そうな壺やら絵やらが飾ってるし、カップやポットも値が張りそうだ。

「まあ落としてお皿などが割れたりする事は有りますけど、その様な時は割られた方から申し出が有りますので、同じ物を商店で買ってきて貰っていますね。
定価の半値以下の価格で。
本当は無償で良いと高祖父殿は言うのですが、それでは皆様の気が済まないとの事なので、そうした対処をしています。
後盗難などはあり得ません」

あり得ないとまで言い切った!

スイはニッコリと微笑みを浮かべて続けた。
「だってラグノルの民ですからね」
えー?何その理由?
国民に悪人は居ないって事?
あり得なくないか?

疑問が顔に浮かんで居たのだろう、
「その辺りについては国王様からお聞きください」
うーん、一体どう言う事なんだろう。
機会があれば聞いてみよう。


*****


一階の宴会場ではバイキング形式の食事が用意されていた。
これ、宴会場と言うより、パーティールームっていう方が合ってると思う。

広いスペースに高い天井、そこから下がるシャンデリア、クロスのかけられたテーブルには花が飾って有る。
あー、これで定番の音楽などが流れたら、まんまバンケットルームだな……古傷が………。

気を取り直してどんな料理が……ってテーブルの上が見えないのはいつもの事か。

気が付いたスイが「失礼します」と抱き上げてくれる。
お~~、見事に和洋折衷。

サラダ数種類、肉じゃがに筑前煮、煮魚、塩焼き、焼き鳥、照り焼きチキンに唐揚げ、ハンバーグ、ステーキ、フライドポテト、卵焼き、コーンスープに味噌汁おにぎり、チャーハン、八宝菜、麻婆豆腐、お寿司、サンドイッチ、ホットドッグとハンバーガーにミートスパとうどんそばにラーメン。
全部見慣れた料理だ。

ランチバイキング…いや、田舎でばあちゃんが、孫が来るのに張り切っていっぱい作りました的な感じかな。

見当たらないけど漂って来る匂いはカレーかな。
スンスンと匂いを嗅いでると、秋彦さんとヤシさんがやって来た。

「やーやー、いらっしゃい!
どうよこれ、ヤシに手伝って貰って久々に腕をふるっちゃったよ」
「おお、これ全部作られたんですか?」
うんうんと、笑顔で頷く秋彦さん。

「で、どうよ?」
「いやー、凄いですね、どれも美味しそうです」
素直に感想を述べたのに、微妙な顔をされた。

「……他には?」
「え?種類も豊富で、短時間でこれだけ作れるって凄いですね」
「……………………」

ええー?なんだかガックリされた?

「いやー…ほら、こうさぁ『異世界なのに日本の料理が食べられるなんて!』ってのは無いのかな?」
いや、そう言われても、ここに来て最初の食事から、見慣れた物が有ったから。

「マッキーなんて、感激して咽び泣いてくれたのに」
???料理で泣くの?

僕が思いっきり疑問の表情を浮かべてたのに気づいたスイが、小声で教えてくれた。
どうやらこの世界、と言うより異世界では、食材も違うし料理方法も違うし、食生活も違うので、日本食ってのは無いのが常識なのだそうだ。

勿論秋彦さんがこの世界には来た時も、初代様のおかげで米味噌醤油くらいは有ったけど、揚げ物や炒め物などは無かったんだって。

そこで秋彦さんの特技を生かし、試行錯誤の末に、自分の作れる料理を再現したと。
そして数年後に召喚された牧家の初代は、そう言った知識が豊富に有ったので、いきなり日本食が食べれる事に感動したそうだ。

そして21世紀の食の魔改造を秋彦さんに教えて二人で色々作り出した……との事。

異世界でのオヤクソクなど知らない僕としては、始めの食事から煮物が有ったので、こんなものなんだと思ってたよ。

「なんかすみません」
思わず謝ってしまう。

きっと後輩の山田さんなら驚いたりしたんだろうけど、漫画やゲームはたまの暇つぶしにしか嗜んでいない僕には、こう言う場合の常識なんて分からないよ……。




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