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第三章 異世界の馬車窓から
秋彦アワー(後編)
しおりを挟むまだまだ続くよ秋彦アワー……。
「生前?そんな感じだったからさ、女の人がダメになっちゃったんだよねー。
お客さんとかなら平気なんだけどさ、いざナンパしようとすると、身が竦んじゃってさ。
このままじゃあ第二の人生、清く正しく女性無しで生きていかなきゃなんないのかなって凹んだんだよ」
その方が良いと思う。
「そんな時にさ、出会っちゃったんだよ、運命の人に」
まあ、こちらの世界で伴侶見つけていないと、スイが居るわけないんだもんね。
でもこのサイテーな人と一緒になった人って凄いよな。
「あれは忘れもしない、この世界に来て三ヶ月目の事」
って、女性が途切れたのって、たった三ヶ月かよ!!
「交渉から戻る途中の森の中、何処からともなく漂ってくる刺激的なスパイスの香り……、そう、彼女はスパイスやハーブで薬を作る仕事の人だったんだけど、その香りがどう嗅いでもカレーだったんだよ。
そのカレー臭の元を探して辿り着いた山小屋に、運命の女(ひと)が居たんだけど、まさしく『一目会ったその日から、恋の花咲くこともある』だよ。
今まで付き合って来た女の子達はなんだったんだってくらい、初めての恋だよ!
もうロマンチックが止まらないだよ!
でも彼女は年の差を気にして『ごめんなさい』だったんだけど、何度も通って口説いて、土下座までして何とかゴールイン。
年の差なんて問題なく幸せだったよ。
そんな彼女なんだけど、実は……奥様は魔女だったのです。
知ってるかい、魔女って鼻をピクピクさせたり、ステッキを振って魔法を使うってイメージじゃない?
でも本当は薬のスペシャリストなんだよ。
それで、その日も新たな薬を作る調合していた所で、この俺に出会ったと。
彼女ビックリしていたよ、薬の為のハーブやスパイスを料理に使うなんて、この世界には無い考えだったんだって。
それで分けてもらったハーブを使って料理を作って食べさせたの。
ほら、胃袋掴むのって基本じゃない。
そうしてやっぱり最後に愛は勝つだったよね~。
そこからは毎日がハッピーエブリデイだったよ…って惚気ばかりでどーもスミマセンだよねー」
……いやー、色んなネタが入って居るのかもしれないけど、わかる様なわからない様な?
とにかくこちらの世界では一途に奥さんだけど過ごしたみたいだからまだましなんだろうけど、日本で付き合ってた女性に謝れ!って感じだよな。
ほら、スイが「どうしてくれよう、このサイテージジイ」って顔してるよ。
「まぁ確かに爺さんと婆さんは仲良かったよな。
俺がまだ小さい頃に亡くなったけど、目の前でイチャイチャデレデレで、子供心に恥ずかしかったよ」
ズルさんが言う。
「そんな爺さんの自由奔放主義な血が、一家に一人出るのは勘弁して欲しいけど、仕事は真面目にしてるんだから、スイもそう嫌わないでやれよ」
膝の上から見上げるスイの視線は氷点下だ。
「仕事に関して真面目なのは認めます。
しかしそれ以外の比重が大きいですよね。
仕事も好きな事しかしていませんし、第一にトキ家の書は書き終えたのですか?」
あ、そうだよね、今聞いた話って本来なら書物になってるはずだよね。
秋彦さんを見ると、人差し指でポリポリと頬を掻きながら視線を逸らす。
「だってー、メンドーだしー」
「これは召喚された方々で決めた事ですよね、聞き取りでは詳細が伝わらない事も出て来るかもしれないので、それぞれに書き記して後のために、そう言う決まりですよね?」
あーそうね、他人が聞いて書くと、ニュアンスが伝わらなかったり、書いた人の主観やら、文書としてのバランスなどで細かな所が変わって来たりするから、本人が書き記すのが一番だよね。
うんうんと頷いてると、秋彦さんが『閃いた!』みたいな感じで手を打ち鳴らす。
「そうだ、東堂内君、君は色んな妖精と会話が出来るんだよね?
記録をしてくれるって妖精居ないの?」
絵の子が居るんだから、頭の中の考えを文章化する妖精も居るのかな?
そう僕が答える前に、
「高祖父殿」
スイが一言呼ぶ。
色んな感情の篭ったその一言に、
「いやいや、冗談だよスイスイ、怒っちゃいやーよ」
秋彦さんは両手を顔の前で振って、
「あ、喋ったら喉乾いたな~、お酒貰ってこよう」
と言いながら離れて行ってしまった。
残されたスイやズルさんは『やれやれ』と言う感じのため息を漏らす。
自分勝……自由過ぎる人が居ると真面目な人は大変だねえ。
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