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第三章 異世界の馬車窓から
初代様の記録〜其の漆〜
しおりを挟む雨足は激しくなり、兵供の気配を消す。
敵の総数二百程、全てがひと塊りに纏まっておる。
我の闇の術で姿を隠し、敵陣の間近まで寄り合図を待つと、程なく、右翼と左翼が同時に奇襲を仕掛ける。
敵兵がそちらへ散るのを待ち、敵大将の元へと背後より忍び寄り、一気に制圧する。
勿論反撃は有ったのだが、我のもう一つの術なのだろう、見えぬ壁の様な者で周りと切り離され、敵の攻撃は我には届かぬ。
「主らの大将は捕らえた、武器を収めよ!
刃向かわねば危害は与えぬ。
こちらは会合を求めておる故、大将を招きたいだけである。
勿論会合が終われば大将は解放する故、すぐさま武器を収めよ」
我の口上に敵方はざわめくが、仕方のないことだ。
大将を抑えた奴の戯言などすぐさま聞けるわけがない。
「……皆、武器を捨てろ。
この人の言う通りにするんだ」
我に囚われておる大将が、落ち着いた声で周りを制す。
「大丈夫、この方は私に危害を加える事はない。
武器を捨てるんだ」
「…ほう、我の言葉を信じるか?」
問うてみるとそ奴は、
「ええ、信じられます。
貴方から嘘は感じられませんから」
肝の座った奴よ。
周りの者が武器を手放すのを確認した後、敵将を誘(いざな)う。
「この国の主人(あるじ)が話をしたいと申しておる。
付いてまいれ」
我の言葉に周りの妖供が引き止めようとするが、我の妖術なのか、近づく事が出来ぬ。
近づけぬが周りを隙間なく取り囲まれるのは煩わしい。
我は遠くに見える大木に狙いを定め、渾身の力を込め大雷(おおいかずち)を落としてみせる。
「我等が妖術なら貴様らを一掃するのは容易き事為れど、この国の主人は貴様らを滅ぼす事なく和平を望んでおる。
その甘くも面白き考え故に、我も力を貸しておる。
無傷で戻す事を違わぬ故、道を開けよ」
我が言葉を発すると、暫しの後妖供が割れ道ができる。
伴を走らせ、右翼左翼供に兵を下がらせる。
町の入り口付近に待機させ、敵大将と副将を城へと連れ戻る。
城で王が捕虜ではなく、客人として持て成し、話し合いをしておる。
戦いに至った経緯は自分らの住む土地確保の為、妖供を有無を言わせず一方的に追いやった事が発端だと、王が非を認める。
先住しておる妖供を人とは違う姿をしておる事を理由に、話もせず、数に任せ蹂躙した事は先祖の過ちだと頭を下げよる。
下げられた妖供は唖然とした顔だ。
如何なる世界でも戦さの発端などは限られておる。
住む土地を求めて、豊かな収益を求めて、手駒になる人員確保、主な所はそんなものだ。
後は力の誇示だが、此奴らの祖も、国を追い出され、豊かに住める土地を求めていたのであろうが、先住するものを追い出しただけで、のちの策も為さず、遺恨だけ残した結果がこの戦さの始まりだと、話を聞いておりわかった。
相手が妖だから、相手が人だからと、話をしても通じるわけがないと、実力行使に出るのは愚策と思い悩む王に、何かしらの助力があり、小さき者の力を借りるに至ったと言う経緯らしいな。
「ですから、私としてはお互いの定住地を犯す事なく、交流をし、供に生きていけないのかと思うのです」
相変わらず甘い。
「しかし、住人が増えればまた住む土地欲しさに我等を追いやるのでは?」
妖の言うのも最もだ。
「この大陸は広い。
人の住む土地など、未開の土地に比べれば一握りも無いです。
にもかかわらず、開拓の手間を惜しみ、手軽だからと先住されている貴方方の土地を奪った先祖たちの愚行が始まりです。
ですから、私はこの地より南へ人が踏み込まない様この地を人の住む最南端の地とする事を誓います」
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