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番外編ーこぼれ話集ー

その8 どこにでもいる…

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私はフウ。どこにでもいる狐の獣人です。
狐と言ってもロリ様みたいに複数のシッポはありません。
シッポは一本ですが、手触りは自慢です。

そんな私はユウ様の【俺の嫁】の一人です。
ユウ様にはとても良くしていただいています。

そんなある日、呼ばれてユウ様の元へ行くと、衝撃的な言葉をかけられました。

「フウちゃん来月から来なくていいよ」
「え?私クビですか?」
「クビと言うか、勤務地変更」
「私何か気に触る事いたしましたか?」

親くしていただいていると思っていたのに、いきなりのクビ発言に、目の前が暗くなりました。

「次の勤務地は……ラグノルだ!」
愉快そうに仰るユウ様。

「そんな……クビになっただけではなく、国からも出されてしまうのですか?」

ショックを受けている私に、ニヤニヤ笑いながらユウ様は言葉を続けます。
「しかも……城でメイドだー!」
クビになって、国を追い出されて、しかも下働きとは…………。

「私の何が至らなかったのでしょう…」
しんみりと呟く私にユウ様は、
「フウちゃん、にやけてる」
ハッキリキッパリ仰るのです!

「酷いですわ!ここはやはりしんみりするシーンではないですか」
「いや、フウちゃんが思いっきりにやけてるから、自分の【無慈悲なる暴君】の仮面が剥がれちゃったんじゃない」
「ですが、ラグノルの王城ですよ?
にやけるなと言うのが無理ですよ」
「うん、まぁねぇ。
書庫に籠もりがちと言ってもニトだって出歩くし、スイもウチの家に移動してからも、城にはちょくちょく顔出すみたいだし、ネイも居るしね」
「ああああああ……3人が揃うところを想像しただけで尊い~~」
「勿論ウチも城に行く事あるだろうし」
「あああああああああ、スイ様を中心にニト様とネイ様の三角関係に、突如と加わったウチ様!
スイ様は唯一の主人とウチ様を尊み、ニト様は興味は無いんだからね、と言いつつ何時もウチ様を気にかけて、そして……そして!孤高の貴公子のネイ様の、孤独の心にすっと忍び込みハートを鷲掴みに…………あ、鼻血が……」
「ははははは、フウちゃんは本当に面白い」

ユウ様は笑ってらっしゃるけれど、私がこんな妄想家になったのは、ユウ様が描かれた【薄い本】のせいなのですからね。
私に萌えと尊みを植え付けて、二人で飽きる事なくお互いの推しトーク(お互い一方的に好きな事を話して、互いの話は聞いていないですがなにか?)に徹夜をした事も……。

そんな妄想に燃料注入な城勤?
ごちそうさまです。
私は翌月、夢と希望と妄想を胸にマモランドを出国しました。


城勤はパラダイス!
スイ様が、ニト様が、ネイ様が、ウチ様が、(黙っていたら)王子様なリイ様が…………。


そんな尊み溢れる職場である日、庭掃除中に一枚の紙を拾いました。

誰の落し物でしょう?と見てみると、それは書類などではなく、一枚の精巧な絵。
しかも描かれていたのは、スリムでキリッとした犬獣人メイドと、タレ目で童顔な猫獣人メイドが、肌もあらわに絡み合っているシーン!
しかも上手い!そっくり!エロい!

勿論同僚の二人はこんな関係ではありません。
しかしながらたった一枚の絵から物語が伝わってくる、秀逸な作品です。
一体誰がこれを?

私は絵を元の場所に戻し、物陰に隠れます。
持ち主が現れれば良し、他人が拾おうとしたら阻止してあげようと思います。

そして待つ事暫し。
一人の狼獣人の騎士団員がキョロキョロ辺りを見回しながらやって来ます。
どうやら落とし主のようですね。
元の場所に戻した絵を見つけると、あたりに人影が無いのを確かめて、サッ!と拾いました。

そのまま黙って隠れていようかと思いましたけれど、辛抱たまらずに、物陰から飛び出してしまいました。

「あの!それ貴方が描かれたのですか?」
「‼︎⁉︎」
ビックリして毛を逆立てた騎士は、いえ…あの……と挙動不審です。
その挙動不審さが、彼が描いたものだと表しています。

「素晴らしいです!
この精巧さ、息遣いまで聞こえてきそうな精密な描写!絡み合う瞳から物語が伝わってきます!何よりエロいのに品がある!!もうこれは一種の芸術品と言っても過言では無い!けれどお高くなく、尊みのストップ高ブッチギリです!」

滾る思いを口に出すと、彼は若干引いたみたいです。
いけませんね、私の悪い癖です。
萌えが燃えると口が止まらないのです。

ちょっと恥ずかしくなってしまい口を閉じると、彼はフルフルと震える手で私の手を握り、思いっきり振りだしました。

「ありがとう!
こんなに褒めてもらったの初めてです!」
あら、この方よく見てみると華は無いけれど、なんて親しみのわく笑顔なんでしょう。



私はフウ。どこにでもいる狐の獣人です。
この度どこにでもいる狼獣人の騎士団員の彼と結婚します。

どこにでもある運命の人との出会いでしたけれど、ちょっと変わっているところと言えば、バラスキーとユリスキーな趣味を持っているだけ。
お互いそれを尊重できるのは、運命の人だからこそなのでしょうね。
今日も二人で萌えトークが止まりません。

ああ、萌えって素晴らしいですわよね!





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