【完結】英雄召喚されたのに色々問題発生です【改訂版】

七地潮

文字の大きさ
124 / 161
第五章 問題は尽きないようです

そして僕の日常の事

しおりを挟む

いつものように店番をしながら、納品された新たな見本品の検分をしていると、来店を告げるドアベル(カウベル)が鳴った。

「いらっしゃいませ」

入り口に目をやると、スラリと背の高い男性が店に入って来るところだった。

引き締まった身体に、白い騎士団服、輝くブロンドは緩くウェーブしている、絵に描いたような王子様な容姿の……ワンコ副団長だ。

「ウチ様、団長より伝言を承って参りました!
本日急遽王妃様の帰宅へ付き添うため、来店出来なくなってしまったとのことです!」

……いや、ネイ、いつもの事だけど、こんな私信に部下を、しかも副団長を使うなよ…。

「了承しました。
しかしリイさん、前々から言ってるけど、私用の伝言なんて断っていいと思うよ。
それに別にネイとは約束しているとかでも無いんだし」
しかしリイさんは、ニッコリ微笑み緩く頭を振る。

「いえ、例えどんな些細な事であろうと、団長の言う事に私は従います!
逆に団長の用件を他の人に任せるなんて事、したくはありませんので!」
あくまでも表情は王子様スマイルなのに、後ろでは尻尾がブンブンと勢いよく振れている。

「それと、こちらは私の私用なのですが、来週ウチの妻の誕生日でして、週末に家でささやかな誕生会を開くのですが、娘が『是非』ウチ様にいらして欲しいと」
ははーん、今日はこっちが本命の話題だな。

「すみません、来週末はヤギ家の農園でタタンジュのメンテナンスなんです」
タタンジュのメンテナンス…つまり躾だ。

生まれて間もない仔タタンジュに、人や家畜を襲わないとか、作物を荒らさないとかを教えたり、毒抜きの手伝いなどを、タタンジュを紹介?した責任として、仔タタンジュが生まれる度にやっている。

タタンジュだって一応魔獣だからね。
人と共存する為にはきちんと躾をしないと、お互いに悲しい事になるからね。

「そうですか…キロが残念がります…………と言うか「パパの役立たず」とか「パパなんてキラ…」とか言われたらどうすればいいんですか!」

あー……ミミはペターンと寝てるし、尻尾は内に丸まってるし……本当に王子様ルックスとのギャップが………。
でも大体、本人の誕生日ならまだしも、母親の誕生会なんて、呼ばれても…だよ。

「ねー、ウチ様、ちょっと顔を出すだけでも…なんだったら次の週の頭にキロに会うだけでも…」
「あー……ごめんなさい、週頭はチムちゃんと買い物をする約束で……」
「チムちゃんと?
キロとは会わないのに、チムちゃんと買い物……。
そんな事キロが知ったら「パパなんて大っきら……」………ああああ…!!
あの、キロもそこにご一緒する事は無理ですか⁈」
リイさんには悪いけど、そうすると僕の負担が……。

「ごめんなさい」
嫌な事ははっきりと断ろう。

「ああああああ…キロ、ごめんよ、パパが不甲斐ないばかりに……」
あー、リイさん蹲ってしまったよ。
騎士団服汚れるよー。

本当に残念な人だよなぁ、見た目はこんなにキラッキラなのに。

そんな収集のつかない所に、騎士団の団員さんが店に入って来た。
「副団長、団長がお呼びです」
団員さんは、床に蹲っている姿を見ても一つも気にせず、用件だけ伝える。
この姿が日常だと物語ってるよな。

団長と聞いた途端、頭に張り付いていたミミがピーンと立った。
「わかった、すぐ向に向かう」
立ち上がった時には、先程嘆いていたのと全く別人のような、完璧な王子様。

ただしズボンの膝下が汚れているけど…。

慌しく出て行った二人を見送り、僕は見本品の検分に戻る。


なんて事はない日常の一コマだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...