寺娘(てらむすめ)

根本純一郎

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テレビ

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彼女の部屋は小さな4世帯ほどのアパートの二階にある。
建物はかなり古く階段も昔ながらの鉄の階段で所々に錆が目立ち、
僕が階段を上がると
カンッ、カンッと音がする。
ドアの前に立ち呼び鈴を押した。

「あ、あのー、僕です。山都一郎です。」
ガチャッ・・と音がしてドアが開いた。
  「あれ・・どうしたんですか?」
彼女が尋ねると、僕は少し待つ様に言ってから、急いで近くに停めてあった車からTVを運んで来た。
「これ、良かったら使ってくださいませんか?」
「僕ん家にあったんだけど、どうせ使わないから丁度いいかなと思ってね。」

勿論、嘘だ。
しかし、こうでも言わないと遠慮してしまうと僕は思ったのだ。

亜矢子はびっくりした様子でポカンと口を開けたまま、しばらく僕の顔をじっと見つめていたが、
ようやく理解出来たのか、急に嬉しそうな顔になり、
   「本当にいいんですか?」と僕に訊いた。
今でも目に焼き付いている・・・初めて彼女の笑顔を見た瞬間だった。

「もちろん!」
僕はそう言うと、早速TVの交換を始める。
配線を外し、新しいTVに繋ぎ直す。
その時、妙な事に気付いた。
古いTVの側面に黒っぽい斑点状のシミの様な跡がある。
・・・さっきは気付かなかった。
火花が飛んだ跡なのかと思ったが、どうやら違う。
何かが染み出たような跡だった。
他にもTVの後ろ側に、蜘蛛の糸の様なひも状の物が大量にこびりついていた。

一体なんだろう。
僕は一瞬、亜矢子の方を見た。
亜矢子は視線を窓の外に移し、不安そうな表情をしていたので、
この話題に触れるのはよそう、と思った。
冗談っぽく、笑い飛ばせば良かったのかもしれないが、
あまりにも不自然な物が付いていたので、気味が悪くなってしまったのだ。

5分もすると新しいTVは無事に設置出来て、
ひと通りの使い方も教える事が出来た。

「じゃあ、この古い方のTVは電器店で処分しておくよ」
僕はそう言って、TVを外に出そうとした。
    「・・・私も手伝うわ」
亜矢子と僕は一緒にTVを運び出す。
ブラウン管の旧型なので、それなりに重さはあった。

僕の顔と亜矢子の顔が、至近距離まで近付く。
ふと、彼女の方に目をやると横顔が見えて、ドキドキしてしまった。
これって、
一目惚れなのかも知れないが、こういうドキドキが更に「好き」を加速させる。
何かある度に、僕の心の中に亜矢子が入り込むのが分かるのだ。

ようやくTVを外に出すと、亜矢子は深々とお辞儀をしてドアを閉めた。
僕は焦っていたのかも知れないが、
この重いブラウン管のTVを階段下まで一人で運ばなければならなかった。
きっと油断もあっただろうし、一目惚れでかなり舞い上がっていた。
階段の最後の方で足を挫いてしまい、その上にTVも落としてしまった。

それでも何とか車に積み込んで、そのまま電器店に向かう事にした。
僕はその途中で、
テレビから無数の蜘蛛の糸の様な物が出ている事に気付いた。。。

「うわぁぁっ~!!」
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