93 / 137
第三章 追憶と悔恨
【第91話:蠢動】
しおりを挟む
風が吹いていた。
雲一つない青空の下、遥か遠くから旅してきた風が草原を波となって流れていく。
「ここは何という国になるんだ?」
一人の男が横に控える少女二人に問いかける。
「ここはオーレンス王国という小さい国のようですわ」
「とっても小さな国のようですね」
その少女たちは丈の短い着物のような服に身を包み、今にも消えてなくなりそうな儚い少女の姿をしていた。
しかし……、その瞳だけは消え入るどころか何もかもを消し去ってしまいそうな強さを宿していた。
「とっても小さい国ですので我ら二人でも攻め滅ぼせそうですわ」
「二人で十分ですね」
そしてその瞳に宿る強さが本当の姿だった。
その少女たちの本当の名は『クスクス』と『トストス』。
今まで歴史の影で数えきれない厄災を振りまして来た中位魔人だ。
「滅ぼさなくとも良い。俺様は今はとても気分が良いのだ。日の差し込まない世界でいったい何年燻っていたと思っている。たまにはのんびり日の光を浴びてもいいだろう?」
男はクツクツと笑いながらそう答える。
「ゼクス様がそうお望みならそうしますわ」
「お望みならそうしますね」
その男の正体は『魔人ゼクス』。
死の権化であり、災禍を振り撒く者。
しかし、今は人の姿をしていた。
ゲルド皇国次期皇帝になるはずだった男『サルジ・ゲルド』の姿を。
ゼクスに取ってこの男の体を乗っ取ったのは気まぐれ。
それが人の体になってみると今まで感じた事の無い感情が湧き上がって来るのを感じた。
朝、日が昇るのを見て『綺麗』だと思った。
雲の無いただの青空をみて『気持ちいい』と思った。
風をその身に感じて『心地よい』と思った。
はじまりの森で指示された作戦が失敗に終わった時、消えそうになっていた呪いの力を集めて以前から作ってみたかったこの呪具を作り出した。
それが思いもよらない感情や感覚をゼクスにもたらしていた。
「今はゆっくりした時間を望んでおる。そのために遺跡に寄ってきたのだからな。しばらくはこの国で色々遊んでみようではないか」
そう言って漆黒の闇を操ると、二人の少女クスクスとトストスを包み込んで霧のように消え去るのだった。
~
皇都ゲルディア。
ゲルド皇国の東に位置するこの都では、昨日までの激戦が嘘のように静かな朝をむかえていた。
所々に崩れてしまった建物や焼け落ちた跡などがみられるが、それでも皇都の住人は前を向いて明るい表情をしているように思えた。
それは絶望的な戦力で攻め込んできた魔物の大軍を相手に勝利を収めたからだろうか?
オレ達にそのハッキリとした理由まではわからなかった。
だが、この沢山の見送りに来てくれている街の人々の表情を見れば、頑張って良かったと素直に思う事ができた。
「ユウトさん。それじゃぁそろそろ行きましょうか?」
その声に振り向くと、【神器:草原の揺り籠】の窓から顔をのぞかせたリリルがこちらを見てほほ笑んでいた。
(こうして見るとやっぱり美少女だよなぁ……)
オレが一瞬リリルに見惚れていると、
「ばふぅ!」
スコン!
パズが早く来いとばかりに後頭部に氷の礫をぶつけてきた。
だが、すっごい痛かったが何事もなかったようにふるまってオレは馬車に乗り込む。
(痛って~!?でも、こんな街の人がいるまで痛がるのも恥ずかしいし我慢だ!)
と、内心思っていたのは絶対の内緒だった。
「凄いでござる。ユウト殿は石頭だったでござるか……」
「がぅがぅ……」
と、メイとキントキが変な方向性で感心していたがこちらもスルーの方向でお願いしたい……。
~
パーティー『暁の刻』最後のオレが乗り込み終わると、見送りに来ていた人たちから歓声が上がる。
その歓声はオレ達に向けたものではなかった。
(あぁ。やっぱり気付いたか~)
オレは少し悪戯っ子のような表情を浮かべると【権能:見極めし者】を発動。
そして権能で気配をさぐると、遠くからもの凄いスピードで近づいてくる人物を察知する。
その近づいてくる人物。それはこの国唯一のお抱えプラチナ冒険者『グレス』だ。
もちろんこの歓声もこの国の有名人でもあり人気者のグレスに対するものだった。
「ひどいっち!何こっそり出発しようとしてるっちか!?」
グレスはかなり慌てて準備を整えたらしく、大きなリュックをパンパンに膨らませて必死の形相で駆けてくる。
その荷物を見てオレは、
「その背負っている巨大なものはなに……?とりあえずその巨大なものを整理して3分の1ぐらいにしたら連れてくよ……」
そう言ってため息をつく。
「う!?急いで減らすから待ってくれっち!」
こうしてグレスとも合流してオレ達の出発の準備はようやく完了する。
まぁまだグレスの荷物整理は続いているわけだが……。
そもそも昨日オレ達のパーティーを雇いたいと言ってきたグレスだったのだが、大したお金を持っていなかった……。
稼いだお金は自分が育った孤児院に多額の寄付をしたり他の孤児院数軒にも同じような事をしていたみたいで、プラチナ冒険者なのにオレ達より所持金が少なかったのだ。
(まぁそもそもオレ達はいらないって言ったのに、払うときかなかったのはグレスの方なんだけどな……)
オレは内心そんな事を思いながらも、
(良い奴だな。サルジ皇子が生きている事はセリミナ様が教えてくれたし、グレスのためにも絶対救出しないと……)
そう心の中で誓うのだった。
ただ……、お調子者のグレスは思わずからかいたくなるキャラをしているので、
「グレス!じゃぁオレ達先に出てるから荷物整理したら追いかけてきて!」
と言ってゆっくりと進みだす。
するとグレスは、
「ちょっ!?パズっちが本気だしたら追い付けないっちよ!」
と叫びながら、器用にも荷物整理をしながら走って追いかけてくるのだった。
~
こうして一人の仲間が新たに加わった新生『暁の刻』は、沢山の街の人に見送られて『崩れ去った遺跡』に向けて出発するのだった。
雲一つない青空の下、遥か遠くから旅してきた風が草原を波となって流れていく。
「ここは何という国になるんだ?」
一人の男が横に控える少女二人に問いかける。
「ここはオーレンス王国という小さい国のようですわ」
「とっても小さな国のようですね」
その少女たちは丈の短い着物のような服に身を包み、今にも消えてなくなりそうな儚い少女の姿をしていた。
しかし……、その瞳だけは消え入るどころか何もかもを消し去ってしまいそうな強さを宿していた。
「とっても小さい国ですので我ら二人でも攻め滅ぼせそうですわ」
「二人で十分ですね」
そしてその瞳に宿る強さが本当の姿だった。
その少女たちの本当の名は『クスクス』と『トストス』。
今まで歴史の影で数えきれない厄災を振りまして来た中位魔人だ。
「滅ぼさなくとも良い。俺様は今はとても気分が良いのだ。日の差し込まない世界でいったい何年燻っていたと思っている。たまにはのんびり日の光を浴びてもいいだろう?」
男はクツクツと笑いながらそう答える。
「ゼクス様がそうお望みならそうしますわ」
「お望みならそうしますね」
その男の正体は『魔人ゼクス』。
死の権化であり、災禍を振り撒く者。
しかし、今は人の姿をしていた。
ゲルド皇国次期皇帝になるはずだった男『サルジ・ゲルド』の姿を。
ゼクスに取ってこの男の体を乗っ取ったのは気まぐれ。
それが人の体になってみると今まで感じた事の無い感情が湧き上がって来るのを感じた。
朝、日が昇るのを見て『綺麗』だと思った。
雲の無いただの青空をみて『気持ちいい』と思った。
風をその身に感じて『心地よい』と思った。
はじまりの森で指示された作戦が失敗に終わった時、消えそうになっていた呪いの力を集めて以前から作ってみたかったこの呪具を作り出した。
それが思いもよらない感情や感覚をゼクスにもたらしていた。
「今はゆっくりした時間を望んでおる。そのために遺跡に寄ってきたのだからな。しばらくはこの国で色々遊んでみようではないか」
そう言って漆黒の闇を操ると、二人の少女クスクスとトストスを包み込んで霧のように消え去るのだった。
~
皇都ゲルディア。
ゲルド皇国の東に位置するこの都では、昨日までの激戦が嘘のように静かな朝をむかえていた。
所々に崩れてしまった建物や焼け落ちた跡などがみられるが、それでも皇都の住人は前を向いて明るい表情をしているように思えた。
それは絶望的な戦力で攻め込んできた魔物の大軍を相手に勝利を収めたからだろうか?
オレ達にそのハッキリとした理由まではわからなかった。
だが、この沢山の見送りに来てくれている街の人々の表情を見れば、頑張って良かったと素直に思う事ができた。
「ユウトさん。それじゃぁそろそろ行きましょうか?」
その声に振り向くと、【神器:草原の揺り籠】の窓から顔をのぞかせたリリルがこちらを見てほほ笑んでいた。
(こうして見るとやっぱり美少女だよなぁ……)
オレが一瞬リリルに見惚れていると、
「ばふぅ!」
スコン!
パズが早く来いとばかりに後頭部に氷の礫をぶつけてきた。
だが、すっごい痛かったが何事もなかったようにふるまってオレは馬車に乗り込む。
(痛って~!?でも、こんな街の人がいるまで痛がるのも恥ずかしいし我慢だ!)
と、内心思っていたのは絶対の内緒だった。
「凄いでござる。ユウト殿は石頭だったでござるか……」
「がぅがぅ……」
と、メイとキントキが変な方向性で感心していたがこちらもスルーの方向でお願いしたい……。
~
パーティー『暁の刻』最後のオレが乗り込み終わると、見送りに来ていた人たちから歓声が上がる。
その歓声はオレ達に向けたものではなかった。
(あぁ。やっぱり気付いたか~)
オレは少し悪戯っ子のような表情を浮かべると【権能:見極めし者】を発動。
そして権能で気配をさぐると、遠くからもの凄いスピードで近づいてくる人物を察知する。
その近づいてくる人物。それはこの国唯一のお抱えプラチナ冒険者『グレス』だ。
もちろんこの歓声もこの国の有名人でもあり人気者のグレスに対するものだった。
「ひどいっち!何こっそり出発しようとしてるっちか!?」
グレスはかなり慌てて準備を整えたらしく、大きなリュックをパンパンに膨らませて必死の形相で駆けてくる。
その荷物を見てオレは、
「その背負っている巨大なものはなに……?とりあえずその巨大なものを整理して3分の1ぐらいにしたら連れてくよ……」
そう言ってため息をつく。
「う!?急いで減らすから待ってくれっち!」
こうしてグレスとも合流してオレ達の出発の準備はようやく完了する。
まぁまだグレスの荷物整理は続いているわけだが……。
そもそも昨日オレ達のパーティーを雇いたいと言ってきたグレスだったのだが、大したお金を持っていなかった……。
稼いだお金は自分が育った孤児院に多額の寄付をしたり他の孤児院数軒にも同じような事をしていたみたいで、プラチナ冒険者なのにオレ達より所持金が少なかったのだ。
(まぁそもそもオレ達はいらないって言ったのに、払うときかなかったのはグレスの方なんだけどな……)
オレは内心そんな事を思いながらも、
(良い奴だな。サルジ皇子が生きている事はセリミナ様が教えてくれたし、グレスのためにも絶対救出しないと……)
そう心の中で誓うのだった。
ただ……、お調子者のグレスは思わずからかいたくなるキャラをしているので、
「グレス!じゃぁオレ達先に出てるから荷物整理したら追いかけてきて!」
と言ってゆっくりと進みだす。
するとグレスは、
「ちょっ!?パズっちが本気だしたら追い付けないっちよ!」
と叫びながら、器用にも荷物整理をしながら走って追いかけてくるのだった。
~
こうして一人の仲間が新たに加わった新生『暁の刻』は、沢山の街の人に見送られて『崩れ去った遺跡』に向けて出発するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる