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追想
追想-2-
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すき焼きの野菜を切り始める。剛史は荷物を置いてソファーに座るとキッチンへ視線を向けた。
まるで子どものようにはしゃいでいた。
「今日は何?」
「すき焼きです。せっかく美味しいお肉を貰えたので、味付け頑張りますね」
やった、と両手を合わせている。喜んでいる彼を見るのが好きだ。私の料理を笑って食べてくれる顔が好きだ。
彼の表情や仕草を見るのが好きだった。
胡桃がはにかむと、急に真顔になって剛史は呟く。
「……明日も一緒にいような」
「えっ、でも……」
手が止まる。だって、二人の夢は一日限定で、次の日に彼は帰ってしまう。いつもそうだった。
「今日、実家帰ってるんだ。地元の友達の結婚式らしいよ。
……明日の夜まで帰らない」
浮かんだ考えは馬鹿げたものだった。
不倫のくせに、自分が一番になることなんて今後一生ないのに、胡桃はどんどん勘違いを起こす。
彼が隣にいるだけでおかしくなっている。
このままではいけない。いてはいけない。分かっているはずなのに。
理性を吹き飛ばしてしまうのは胡桃の“欲望”
一番じゃなくてもいいから彼と一緒にいたいと欲してしまう。
「……胡桃?」
「あ……はい。あの……嬉しい、です」
声のトーンが暗い事を察したのか、剛史は立ち上がってキッチンへ歩いてくる。
背後からそっと抱き締められて、心臓の鼓動が早くなる。
「俺と一緒にいるのは、嫌?」
「嫌じゃ……ない」
悲しそうな声で囁かないでほしい。
耳に息を吹きかけられ、彼の手が直接肌に触れて、声が出てくる。
「ぁっ……まだ……」
「まだ?」
「だめ……ごはん……つくってる」
体がいちいち反応する。嫌らしく撫でられて、翻弄されていく。
腹部から徐々に手が降りていき、焦らすように周りを触られる。料理に集中できない。
「胡桃……濡れてきてる」
「やっ……」
下降した手がスカートの中に入り、欲深く熱くなっている部分に侵入しようとする。
彼の唇が自分の首筋にあたって、なぞるように舐められる。
頭がぼうっとして思考が止まっていく。
我慢できずに剛史に振り向いた。
同じだった。彼の頬も赤くなっている。引き寄せられるようにキスした。
二つの視線が絡み合って熱を帯びている。角度を変え舌を結び合う。
互いの足を交差させようとした時、炊飯器の無機質な音楽で現実に戻された。
「わわっ」
慌てて体を離した後、炊飯器のスイッチを止める。
その慌て方が面白かったのか剛史はクスリと笑って彼女の頭を撫でた。
「食べるのは、後のお楽しみにしておくよ」
笑っている顔を直接見ることができない。
……どうして。
どうしてこの人はそんな言葉を易々と言えるのだろう。
愛を誓い合った人がいるくせに。帰る場所があるくせに。
――どうして私を……期待させるの?
まるで子どものようにはしゃいでいた。
「今日は何?」
「すき焼きです。せっかく美味しいお肉を貰えたので、味付け頑張りますね」
やった、と両手を合わせている。喜んでいる彼を見るのが好きだ。私の料理を笑って食べてくれる顔が好きだ。
彼の表情や仕草を見るのが好きだった。
胡桃がはにかむと、急に真顔になって剛史は呟く。
「……明日も一緒にいような」
「えっ、でも……」
手が止まる。だって、二人の夢は一日限定で、次の日に彼は帰ってしまう。いつもそうだった。
「今日、実家帰ってるんだ。地元の友達の結婚式らしいよ。
……明日の夜まで帰らない」
浮かんだ考えは馬鹿げたものだった。
不倫のくせに、自分が一番になることなんて今後一生ないのに、胡桃はどんどん勘違いを起こす。
彼が隣にいるだけでおかしくなっている。
このままではいけない。いてはいけない。分かっているはずなのに。
理性を吹き飛ばしてしまうのは胡桃の“欲望”
一番じゃなくてもいいから彼と一緒にいたいと欲してしまう。
「……胡桃?」
「あ……はい。あの……嬉しい、です」
声のトーンが暗い事を察したのか、剛史は立ち上がってキッチンへ歩いてくる。
背後からそっと抱き締められて、心臓の鼓動が早くなる。
「俺と一緒にいるのは、嫌?」
「嫌じゃ……ない」
悲しそうな声で囁かないでほしい。
耳に息を吹きかけられ、彼の手が直接肌に触れて、声が出てくる。
「ぁっ……まだ……」
「まだ?」
「だめ……ごはん……つくってる」
体がいちいち反応する。嫌らしく撫でられて、翻弄されていく。
腹部から徐々に手が降りていき、焦らすように周りを触られる。料理に集中できない。
「胡桃……濡れてきてる」
「やっ……」
下降した手がスカートの中に入り、欲深く熱くなっている部分に侵入しようとする。
彼の唇が自分の首筋にあたって、なぞるように舐められる。
頭がぼうっとして思考が止まっていく。
我慢できずに剛史に振り向いた。
同じだった。彼の頬も赤くなっている。引き寄せられるようにキスした。
二つの視線が絡み合って熱を帯びている。角度を変え舌を結び合う。
互いの足を交差させようとした時、炊飯器の無機質な音楽で現実に戻された。
「わわっ」
慌てて体を離した後、炊飯器のスイッチを止める。
その慌て方が面白かったのか剛史はクスリと笑って彼女の頭を撫でた。
「食べるのは、後のお楽しみにしておくよ」
笑っている顔を直接見ることができない。
……どうして。
どうしてこの人はそんな言葉を易々と言えるのだろう。
愛を誓い合った人がいるくせに。帰る場所があるくせに。
――どうして私を……期待させるの?
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