哀歌-aika-【R-18】

鷹山みわ

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追想

追想-4-

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上目遣いでじっと見つめてくる彼女に剛史は唾を飲んだ。
自分を求めてくれる眼差し。どんどん吸いこまれていく。見つめられたら逃げる事なんて頭から消える。離れるなんて考えられない。やめることはできない。
胡桃も戸惑う彼の瞳に釘付けになる。これ以上はいけない、と思っていても彼の瞳に狂わされる。自分の潜んでいた欲望が剥き出しになっていく。
「このどうしようもない気持ち、もやもやするこれを、剛史さんので全部消してよ」
「くる――」
名を呼ばれる前に唇を押し付けた。自分の感情全てを一度にぶつけてやろうとした。
呼吸をして一瞬離れた後、追いかけるように剛史から舌を絡めさせてくる。夕食前の続きだった。
何も考えたくない。思考を捨てる。ただ、今は快楽に浸りたい。
ゆっくりと体を倒して胡桃の上に乗る。
いつもの体勢になればやる事は決まっている。
唇が服の上を通る。布がもどかしい。唾液をたっぷりと付着させる。
もう使い物にならない。着ている意味もない。ベタベタする服が邪魔だった。
待てなくなって、初めて胡桃は自分からシャツを脱ぐ。下着の金具も外してベッドの下に捨てる。
スカートとレースのショーツは剛史の手がはがすように奪っていく。そこだけは自分がやりたいと言わんばかりに。強引に取られて胡桃の体はどんどん疼いていく。
彼も邪魔になった衣類全てを地面に捨てた。上半身の筋肉がしっかり付いている。
互いの体に密着してしばらく肉感を共有する。胸、お腹、太股、足のつま先まで重ねて目を閉じる。心臓の鼓動まで全部が繋がっていくよう。この瞬間が胡桃は堪らなく好きで泣きたくなる。

やがて剛史がすっと顔を上げて彼女の体をじっくりと眺めた。獣のように獰猛な目、舌を舐める。すぐにでも食らいつきたそうな顔をしていた。
「ああ、いつ見てもキレイだ……」
ベッドサイドの普段は見えない死角に手を伸ばして隠れていた小さな箱を一つ取る。
この場所にある事は彼しか知らない。彼のために置いているだけだから。
ビニールを歯で引きちぎっている。その仕草だけで奥が閉まっていくのを感じた。
期待している。これからの行為に体が喜んでいる。
「……どっちがいい?もう少しキスでとろとろにするか、それとも」
「や……もう、いいから……きて……」
その答えを待っていたか、分かっていたか、言うよりも早く彼の体が動き始める。
お互いの指を絡めて合図を出す。体をまた密着させる。今度は下半身も。

二人だけの世界。誰も認めてくれない穢れた世界。それでも胡桃はその世界に行きたかった。

相変わらす慣れない体に迸る痛みと窮屈さ。顔を歪ませて胡桃は喘ぐ。
でも痛みを感じているくせに、体からはどろどろと液体が出てくる。
それに彼のものが滑り込むように入ってきて奥深くまで進んでいく。
「いいよ……すげ……なか……すっごくいい」
「ぁあ」
どこが好きか、どこで互いに反応するか、全部知っていた。一年付き合っていれば、ずっと体を重ねていれば分かる。
最奥に辿り着いた時、手を繋いだまま上下に動く。激しく揺れている。端から見れば普通の恋人にしか見えないだろうなと胡桃はぼんやり思っていた。
「好きだ」
唐突に告白されてまた震える。気持ちよさですぐにでも上ってしまいそうだった。
「好きだよ……愛してる……あいしてる……」
独り言のように呟きながら剛史は何度も貫く。
この時だけ、この瞬間だけ、彼は囁いてくれる。
彼は私だけのものでいてくれる。
言の葉を聞き逃さないように胡桃の耳は敏感になっていた。
「もっと……もっと言って」
「愛してる、胡桃」
「もっと」
「愛してるよ……君は……俺だけのものだ……誰にも、渡さない」
「私も愛しています」
嬉しくてこのまま消えてしまってもいい。このまま死んでしまってもいい。
彼の中でならどれだけ幸せだろう。もう現実には戻りたくない。
いつも胡桃は思っていた。
この夢がずっと続けばいいのに。歯車が狂い続けたまま動いていればいいのに。
二人だけ別世界に飛べたらいいのに。そんな空想が広がっていく。
果ててしまって、また絡みついて、酷く疲れてしまっても何故が体が引き寄せられてまた始める。
ベッドの周りに脱ぎ捨てられた服と、幾つものゴミ。清潔に見えた部屋は一夜にして男と女のにおいが染みついた汚い部屋に変わってしまう。
でも二人は満ち足りていた。普段は気絶するように眠ってしまう胡桃だけど、今日はすぐに眠りたくなかった。
恍惚な表情を浮かべている剛史を間近で眺めていられるのが嬉しくて、記憶に残したくて眠りたくなかった。

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