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追想
追想-6-
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「また思い出しちゃったな」
雪とあの曲を一緒にしたら、目に涙が浮かんでくる。やはり忘れるにはまだ時間がかかりそうだ。
視線を落とすとスマートフォンが震えている。ディスプレイに浮かんでいる文字を見る。
「尚人くん?」
躊躇いもなく通話を押した。
「もしもし」
『あ、胡桃ちゃん?急に電話してごめんね』
第一声で謝るところが低姿勢で謙虚さが滲み出てくる。本当に優しい人だ。
それだけで胡桃は温かい気持ちになれる。
「いいの。今、誰かと話したいなって思ってたから」
『良かった。僕は……なんか雪見てたら胡桃ちゃんと話したくなって』
「ふふっ」
微笑む。自分が自然に笑っていることに安心した。
『えっと何を話そうかな……』
「うん。私も考えるね」
ゆっくり話すのは嫌いじゃない。むしろ昔はそれが好きだった。
尚人と一緒ならどんな話も楽しく感じられる。それを分かっているから彼の言葉をいつまでも待っていられる。
歩きながら話していると、涙がもう落ちていないことに気づいた。
いつの間にか降り続けている雪を見ていても、視界が歪むことはなくなっていた。
「えっ、今度の日曜日?……特に予定はないけど。
……えっ、新作のケーキ?しかもチョコレートケーキ、行くっ、絶対に行く。
尚人くんが推すケーキに外れないから、絶対に一緒に行くね。
……うん、私も楽しみだよ」
――俺と一緒にいなくても笑うようになったんだね。
弾んでいる声。嬉しそうにはにかむ顔。
俺と一緒の時も喜んでいたけれど、時折何かに怯えた顔になるのを知っていた。
でも、それでも、二人でいた時間は、ベッドにいた瞬間は幸せだったと思いたい。
俺も。君も……そうだったよね……?
そう“だった”……
「何時にどこに待ち合わせる?尚人くんに合わせるよっ」
――――ごめん、無理だ
道路の向こうに歩いている、愛しい人。決して言葉に出来ない人。
俺を捕らえて放さない人。
俺を、狂わせる人。
終わりたくない
「……愛してる」
剛史の呟いた言葉はか細く、降り続けている雪と突風でかき消されていった。
雪とあの曲を一緒にしたら、目に涙が浮かんでくる。やはり忘れるにはまだ時間がかかりそうだ。
視線を落とすとスマートフォンが震えている。ディスプレイに浮かんでいる文字を見る。
「尚人くん?」
躊躇いもなく通話を押した。
「もしもし」
『あ、胡桃ちゃん?急に電話してごめんね』
第一声で謝るところが低姿勢で謙虚さが滲み出てくる。本当に優しい人だ。
それだけで胡桃は温かい気持ちになれる。
「いいの。今、誰かと話したいなって思ってたから」
『良かった。僕は……なんか雪見てたら胡桃ちゃんと話したくなって』
「ふふっ」
微笑む。自分が自然に笑っていることに安心した。
『えっと何を話そうかな……』
「うん。私も考えるね」
ゆっくり話すのは嫌いじゃない。むしろ昔はそれが好きだった。
尚人と一緒ならどんな話も楽しく感じられる。それを分かっているから彼の言葉をいつまでも待っていられる。
歩きながら話していると、涙がもう落ちていないことに気づいた。
いつの間にか降り続けている雪を見ていても、視界が歪むことはなくなっていた。
「えっ、今度の日曜日?……特に予定はないけど。
……えっ、新作のケーキ?しかもチョコレートケーキ、行くっ、絶対に行く。
尚人くんが推すケーキに外れないから、絶対に一緒に行くね。
……うん、私も楽しみだよ」
――俺と一緒にいなくても笑うようになったんだね。
弾んでいる声。嬉しそうにはにかむ顔。
俺と一緒の時も喜んでいたけれど、時折何かに怯えた顔になるのを知っていた。
でも、それでも、二人でいた時間は、ベッドにいた瞬間は幸せだったと思いたい。
俺も。君も……そうだったよね……?
そう“だった”……
「何時にどこに待ち合わせる?尚人くんに合わせるよっ」
――――ごめん、無理だ
道路の向こうに歩いている、愛しい人。決して言葉に出来ない人。
俺を捕らえて放さない人。
俺を、狂わせる人。
終わりたくない
「……愛してる」
剛史の呟いた言葉はか細く、降り続けている雪と突風でかき消されていった。
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