哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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珈琲

珈琲-2-

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「……何食べる?胡桃ちゃんの好きなもの食べていいよ」

そう言われてメニューを見ると、普通に入る店の倍以上の値段が並んでいて瞬きを繰り返した。

「ほ、ほんとに高いですね」
「まあ安心して。君よりは大人だし働いているから、それなりにお金はある方だと思うぞ」

笑いながら眼鏡を外して、じっとこちらを眺めてくる。
何を選ぶのか待っているのだろうか。恥ずかしくなって俯く。
自分の好きなものは何だっただろう。

「えっと……じゃあ、この肉料理で」
「うん。意外に肉食系か、いいな」

どう良いのか分からなかったけど、褒められたみたいで嬉しくなった。

スタッフに諸々注文した後、会話が始まる。
主に剛史が胡桃に質問してきた。年齢、学生なら勉強していること、休日の過ごし方、好きなこと、最近の発見とか。軽い話をして胡桃も場慣れしてきた。彼の相槌は優しくて、時折話してくれる内容も面白かった。聞き上手だし話し上手で、緊張がどんどん解れてくる。

この人は沢山の人に好かれるだろうなと今更ながら思った。

メインディッシュのハンバーグを食べていると、ふいに彼は尋ねてきた。

「胡桃ちゃんは彼氏いないの?」
「えっ」

ナイフとフォークの手が止まった。
急に微妙な所を突かれて少し黙る。

「……あ、ごめん。聞かない方が良かったかな」
「……いえ……いません……」

小声で呟く。
顔を上げると、彼の表情が柔らかくなって、笑ったような。
気のせいかもしれない。

「た、剛史さんはやっぱりいるんですか?ファン会とかで言われてますけど」
「……どうだろうね。ご想像にお任せにしておこうかな」

微笑む顔には余裕があった。
やっぱりいるんだろうなと納得する。
見た目も中身も素敵な彼を女性が放っておくはずがない。

耳元で「愛してる」って囁かれたら、胡桃は身も心も蜂蜜のように蕩けてしまうだろう。
器用に動かす手の指。
これに触られたら過敏に反応するだろう。
フォークをそのまま口に頬張る。
その唇でキスをされたら、きっと気持ち良いのだろう。

(っ……なに考えてるの私)

顔が真っ赤になって必死で首を横に振る。
どうしてこんな事を妄想してしまうのか。

「顔、赤いけどどうした」
「な、な、なんでもないです」
「……ほんと可愛いな」

その声でまた可愛いなんて言わないでほしい。耳が機能しなくなってくる。
肉の味が分からない。美味しかったはずなのに、頭の中は剛史の事ばかり考えている。
目の前の彼の仕草に、いちいち反応している。

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