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痕
痕-1-
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数週間が過ぎた。
胡桃の世界は少しずつ変化を見せていた。
学校に行って勉強して、美歩や友達と何気ないお喋りをして、休日はアルバイトをして尚人や朋香とご飯を食べて……そして週1で剛史に会う。
最初のホテルが待ち合わせ場所になり、時間をずらしてそれぞれ中に入った。胡桃が部屋の扉を開けると、彼がコーヒーを飲みながら待っている。他愛のない話をして、どこからともなくキスをしてベッドの中に溺れる。その流れは美歩達といる時と同じ自然な進み方だった。最初からこれが日常だったかのよう。
変わったのは、下着を買う時に悩むようになったことと、美歩や朋香に彼氏の話を聞くようになったこと。
恋人ができたとは言ってないが、そろそろバレているだろう。
それでも、もっと彼に喜んで欲しくて胡桃は積極的に自分の見せ方を追及していた。
化粧を一時変えてみたけど、剛史が前の方がいいと言ったので元に戻した。
雑誌やネットを見て調べた。どの体勢でも絶頂に行きたかったから、やめられなかった。
剛史も同じだった。自分の体を改めて眺めながらどこを触られたら気持ちが良いのか、彼女はどこが好きなのか仕事中に考える。結羽に怒られて渋々事情を伝えたが反対はされなかった。それが嬉しくて、初めて恋愛が楽しいと思えるようになった。幸せだった。
そんなある日。
休み時間になった胡桃は美歩と一緒に食堂へ向かうところだった。
「ちょっと」
最初は自分が呼ばれたことに気づかなかった。
ねえ、と強い声で言われて振り返る。
美歩のげっ、という声と自分が驚いて瞬きをしたのは同時だった。
背後に立っていたのはあれから一度も遭遇しなかった一ノ瀬紗良だった。
「一ノ瀬、さん?」
「なんか用」
訝しそうに美歩は胡桃より少し前に立つ。まるで庇うような体勢だった。
そんな彼女を紗良は嘲笑った。
「あんたじゃない。私はその後ろの子に用事があるの」
「胡桃があんたに用があるとは思えないんだけど」
「み、美歩ちゃん、いいよ。私に何かご用ですか?」
一歩前に出て、紗良を見る。大きな黒い瞳は嫌らしそうに笑っていた。
「場所、変えるわよ」
「どこですか?」
何も言わずに紗良が反対方向へ歩き始めたので、慌てて付いていく。
心配そうな美歩に笑って「大丈夫だよ、先行ってて」と頷きながら言った。自分を大切にしてくれる友達が嬉しい。一瞬だけ紗良はその光景を見てから再び何事も無かったように歩き出す。
本館の外に出て、少し道を進んだ先に別館がある。
その2階には本館と同じラウンジがあるが、授業する教室から遠いことと自動販売機の種類が少ない事で来る学生は少なかった。今日も勉強している学生がちらほらいるだけだった。
胡桃の世界は少しずつ変化を見せていた。
学校に行って勉強して、美歩や友達と何気ないお喋りをして、休日はアルバイトをして尚人や朋香とご飯を食べて……そして週1で剛史に会う。
最初のホテルが待ち合わせ場所になり、時間をずらしてそれぞれ中に入った。胡桃が部屋の扉を開けると、彼がコーヒーを飲みながら待っている。他愛のない話をして、どこからともなくキスをしてベッドの中に溺れる。その流れは美歩達といる時と同じ自然な進み方だった。最初からこれが日常だったかのよう。
変わったのは、下着を買う時に悩むようになったことと、美歩や朋香に彼氏の話を聞くようになったこと。
恋人ができたとは言ってないが、そろそろバレているだろう。
それでも、もっと彼に喜んで欲しくて胡桃は積極的に自分の見せ方を追及していた。
化粧を一時変えてみたけど、剛史が前の方がいいと言ったので元に戻した。
雑誌やネットを見て調べた。どの体勢でも絶頂に行きたかったから、やめられなかった。
剛史も同じだった。自分の体を改めて眺めながらどこを触られたら気持ちが良いのか、彼女はどこが好きなのか仕事中に考える。結羽に怒られて渋々事情を伝えたが反対はされなかった。それが嬉しくて、初めて恋愛が楽しいと思えるようになった。幸せだった。
そんなある日。
休み時間になった胡桃は美歩と一緒に食堂へ向かうところだった。
「ちょっと」
最初は自分が呼ばれたことに気づかなかった。
ねえ、と強い声で言われて振り返る。
美歩のげっ、という声と自分が驚いて瞬きをしたのは同時だった。
背後に立っていたのはあれから一度も遭遇しなかった一ノ瀬紗良だった。
「一ノ瀬、さん?」
「なんか用」
訝しそうに美歩は胡桃より少し前に立つ。まるで庇うような体勢だった。
そんな彼女を紗良は嘲笑った。
「あんたじゃない。私はその後ろの子に用事があるの」
「胡桃があんたに用があるとは思えないんだけど」
「み、美歩ちゃん、いいよ。私に何かご用ですか?」
一歩前に出て、紗良を見る。大きな黒い瞳は嫌らしそうに笑っていた。
「場所、変えるわよ」
「どこですか?」
何も言わずに紗良が反対方向へ歩き始めたので、慌てて付いていく。
心配そうな美歩に笑って「大丈夫だよ、先行ってて」と頷きながら言った。自分を大切にしてくれる友達が嬉しい。一瞬だけ紗良はその光景を見てから再び何事も無かったように歩き出す。
本館の外に出て、少し道を進んだ先に別館がある。
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