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ざわつく
ざわつく-1-
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祝福メールを見る度に胡桃は心が温かくなった。学校でも休み時間に友達から祝いの言葉を貰えた。美歩からは化粧水、天然性で肌を包んでくれるものを手渡しされた。女子力をさらに上げなさいと言われて苦笑いする。
食堂で話していると、ふと紗良と出会っていない事を思い出す。
授業で会うことも擦れ違うこともなくなった。それだけ。もう関係無い人だ。考えるのをすぐにやめる。
それよりも胡桃の心を占めていたのは、朝に来ていた剛史からのメールだった。
『とっておきのプレゼントを用意したよ 迎えに行くね』
たった数文字の言葉だけで一日が華やかになる。心が躍り始める。
自分は単純ですぐに浮かれてしまうからわかりやすい。でも彼はそれを「可愛い」と言ってくれた。
沢山の人に祝ってもらったが、誕生日の本番は夜だと思っていた。
服も悩みに悩んで、透け感のある白のブラウスと淡い赤色のロングスカートにした。彼が好きな赤色が自分の服や小物に影響している気がする。
何度も鏡で見直す。化粧はやり過ぎていないし、服も野暮ったくない。大丈夫のはずなのに、気になって部屋を回ってしまう。落ち着くために一息ついた後、インターホンが鳴った。
鏡の自分がにやけていて気持ち悪い。慌てて首を横に振った。
いつも通りの笑顔で。
扉を開けると、グレーのカジュアルスーツに紺色のソフトハットを被った剛史が笑って立っていた。
笑っているのに、黒縁眼鏡の奥は捉える瞳で、胡桃は早速体が痺れるのを感じた。
「こんばんは、お待たせ」
「今日はよろしくお願いします」
頭を下げると、こちらこそと笑って彼は玄関から中へ入る。自然に迎える形になった胡桃は嬉しそうに微笑んでいた。
彼女の姿を一瞥して、剛史は頬が赤くなる。鮮やかな赤色のスカート、上は清楚な白の佇まいで余計に赤色が映えていた。あまり見つめすぎると食事の前に抱きたくなる。
頭を振って部屋に視線を向けると、ふと棚の上に置かれている箱に目が行った。
「……あれは」
「えっ?」
胡桃が振り返ると、昨日尚人から貰ったプレゼントがそのまま置かれてあった。
帰宅後にしばらくフラワーボックスを眺めていた事を思い出す。
「昨日、バイトの先輩から誕生日プレゼントを貰って。青い花が好きみたいでいっぱい詰められてたんです。綺麗だなあって、つい」
「…………へえ」
ゆっくり近づいて、咲き乱れている青の花達を見下ろす。
嫌でも主張するように咲いていた中心の花に目が釘付けになる。
「……青い薔薇、か」
「そうなんです。こんなプレゼント初めてで、すごく嬉しくて」
「…………ふうん」
――それって男?
そう言いたくなったが剛史はぐっと喉元で止める。
せっかくの誕生日デートなのにいきなり空気を乱したくない。
でも、この薔薇は好きではなかった。彼女の傍に存在するのが、とても嫌だった。
自分が用意したものも関係しているだろうけど、この薔薇からは胡桃に対する”好意”を感じ取れる。
それが、剛史には酷く不快なものだった。
「剛史さん?」
「……なんでもないよ」
隣に立って、顔を覗いてくる彼女ににっこりと微笑んで手を握った。
そのまま部屋から連れ出す。もうここにはいたくない。
この感情は知っている。
でもまさか、自分がこんなに激しく乱れるとは思わなかった。
――本当に、君は俺の色んな部分を浮き彫りにする……
期待に胸を膨らませている彼女を横目に、剛史は車の後部座席に隠した”とっておきのプレゼント”を気にしつつ、カフェに向かうためエンジンをかけた。
食堂で話していると、ふと紗良と出会っていない事を思い出す。
授業で会うことも擦れ違うこともなくなった。それだけ。もう関係無い人だ。考えるのをすぐにやめる。
それよりも胡桃の心を占めていたのは、朝に来ていた剛史からのメールだった。
『とっておきのプレゼントを用意したよ 迎えに行くね』
たった数文字の言葉だけで一日が華やかになる。心が躍り始める。
自分は単純ですぐに浮かれてしまうからわかりやすい。でも彼はそれを「可愛い」と言ってくれた。
沢山の人に祝ってもらったが、誕生日の本番は夜だと思っていた。
服も悩みに悩んで、透け感のある白のブラウスと淡い赤色のロングスカートにした。彼が好きな赤色が自分の服や小物に影響している気がする。
何度も鏡で見直す。化粧はやり過ぎていないし、服も野暮ったくない。大丈夫のはずなのに、気になって部屋を回ってしまう。落ち着くために一息ついた後、インターホンが鳴った。
鏡の自分がにやけていて気持ち悪い。慌てて首を横に振った。
いつも通りの笑顔で。
扉を開けると、グレーのカジュアルスーツに紺色のソフトハットを被った剛史が笑って立っていた。
笑っているのに、黒縁眼鏡の奥は捉える瞳で、胡桃は早速体が痺れるのを感じた。
「こんばんは、お待たせ」
「今日はよろしくお願いします」
頭を下げると、こちらこそと笑って彼は玄関から中へ入る。自然に迎える形になった胡桃は嬉しそうに微笑んでいた。
彼女の姿を一瞥して、剛史は頬が赤くなる。鮮やかな赤色のスカート、上は清楚な白の佇まいで余計に赤色が映えていた。あまり見つめすぎると食事の前に抱きたくなる。
頭を振って部屋に視線を向けると、ふと棚の上に置かれている箱に目が行った。
「……あれは」
「えっ?」
胡桃が振り返ると、昨日尚人から貰ったプレゼントがそのまま置かれてあった。
帰宅後にしばらくフラワーボックスを眺めていた事を思い出す。
「昨日、バイトの先輩から誕生日プレゼントを貰って。青い花が好きみたいでいっぱい詰められてたんです。綺麗だなあって、つい」
「…………へえ」
ゆっくり近づいて、咲き乱れている青の花達を見下ろす。
嫌でも主張するように咲いていた中心の花に目が釘付けになる。
「……青い薔薇、か」
「そうなんです。こんなプレゼント初めてで、すごく嬉しくて」
「…………ふうん」
――それって男?
そう言いたくなったが剛史はぐっと喉元で止める。
せっかくの誕生日デートなのにいきなり空気を乱したくない。
でも、この薔薇は好きではなかった。彼女の傍に存在するのが、とても嫌だった。
自分が用意したものも関係しているだろうけど、この薔薇からは胡桃に対する”好意”を感じ取れる。
それが、剛史には酷く不快なものだった。
「剛史さん?」
「……なんでもないよ」
隣に立って、顔を覗いてくる彼女ににっこりと微笑んで手を握った。
そのまま部屋から連れ出す。もうここにはいたくない。
この感情は知っている。
でもまさか、自分がこんなに激しく乱れるとは思わなかった。
――本当に、君は俺の色んな部分を浮き彫りにする……
期待に胸を膨らませている彼女を横目に、剛史は車の後部座席に隠した”とっておきのプレゼント”を気にしつつ、カフェに向かうためエンジンをかけた。
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