哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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ざわつく

ざわつく-2-

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外観は密やかに佇んでいる『ミエーレ』。しかし中に入ると個室はほとんど客でいっぱいだった。
カーテンで表立って見えないが有名人が中に入っているのかもしれない。

前と変わらず奥の個室に案内された。
最初は訝しんでいた男性スタッフも今では「胡桃様」と呼ぶようになって恥ずかしくて慣れない。店では剛史の恋人であることが知られている。一人で来た時も変わらず対応してくれたので、胡桃のお気に入りのカフェになった。一人で勉強したり物思いに耽る場所として最適だった。

コース料理を剛史は注文していた。前菜からちょうど良いタイミングで料理が運ばれてくる。
値段が桁違いに上がるので今まで注文したことはなかった。胡桃は料理の一覧を見て圧倒されつつも至福の気持ちだった。

笑顔の彼女を見るだけで、自分の悩みなんて小さなものだと錯覚できる。
思い通りに行かずにもがく自分は格好悪く見えるだろうなと剛史はぼんやり思っていた。

付き合い始めて彼女の料理の好みも分かった。
意外に肉食系でハンバーグが一番好きだった。メインディッシュはいつも肉を選んでいる。美味しそうに頬張る姿を見ていると、そんな彼女を食べたくなってしまう。

衝動はいつだってある。
スープが熱いから口を小さく開けて息を吐く姿。
自分の仕事の話を嬉しそうに聞きながら時折髪を掻き上げる仕草。
目線が混ざって恥ずかしそうに俯く顔。
どれも目に焼き付けていく。抱き締めて体中にキスしたくなる衝動を必死で抑える。いつからこんなに貪欲になってしまったのか、剛史には分からない。隠れて呼吸を整えていた。


「ハタチになったらお酒も飲めるな。オススメのワインがあるから今度紹介するよ」
「わあ、嬉しいです。最初は剛史さんと飲みたいって思ってたから、すごく楽しみです」
「へえ……それなら口移しで飲ませたいな」
「っ……えっと……それも、良ければ……」


ほら。視線を下げてもじもじしながら、期待している声。
可愛い小動物だった。簡単に捕まえて口に入れたくなる。

彼女の話も楽しい。大学で友達と過ごしている何気ない日常が、剛史には眩しかった。自分ができなかったことを体験している彼女が少しだけ羨ましい。でもまるで疑似体験をしている気分だった。

何より、ふっと沈黙しても全く苦にはならなかった。
空間を感じながら食事をするのが心地良い。最初は恥ずかしがっていたのに、慣れてきて目が合うと頬が緩んでいた。数ヶ月しか経っていないが彼女は着実に大人になりつつあった。


「胡桃は目標とかあるの?」
「目標……ですか」


胡桃は考えた。
浮かれていた一日だったけど、今日から自分は変わる。
世間からは”大人”として認定されて、様々なものができるようになったり、縛られたりする。
目標。何をしたいのかと聞かれて改めて自分に問いかけた。

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