哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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痛い

痛い-1-

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フィルター越しの誰かを睨む。
体の半分を水に浸けてわざと乱暴に髪を掻き上げた。
光が舞う。カメラマンが「いいよいいよー」と褒めながら自分を写している。
挑発的な眼差しで、とリクエストがあったので普段の感情を殺した顔にしてみたら、喜んでくれた。
バラエティだとお茶目で天然を前面に出さねばいけないので、それに比べたら楽かもしれない。


「次はプールサイドにもたれかかって」
「はーい」


背中を預ける。体が水に入って心地良い。撮影関係なく泳げたら楽しいだろうな、とぼんやり思った。


カメラが止まった時、もう一度視線をギャラリーに向けた。
…………いる。


色々と尋ねたい事がある。というかこれが終わったらすぐにでも連れていきたい。


――黄色の水着とか聞いてないし。


スカートでフリルだから体のラインは隠れている。露出がもう少しあったらお仕置きする所だった。
でも可愛いので嬉しいような、他の奴が見るから腹立たしいような、変な感情が渦巻く。
どちらにしても、彼女の水着を見ただけで体は元気になった。良い意味でも、悪い意味でも。


なるべく深呼吸をして落ち着かせる。
すぐに反応する正直な体だ。


「はいオーケーでーす」


カメラマンに言われてお辞儀する。とりあえず前半は終わりかと一息つこうとした。


その時、水飛沫が舞う音と後ろから自分の腕に手が回った。
思わずうわっと声が出る。


隣のプールにいたはずの紗良が剛史に腕を回してきた。
すかさずカメラのシャッター音が鳴る。


「お、いいねえさよちゃん。ペア撮影そのまま始めるねー」
「お願いしまーす」


彼女の瞳が再び剛史を見上げて微笑む。
男を知り尽くしているような目だ、と思った。


「私、TAKESHIさんとこういう事したかったんですよね、すごく嬉しいです」
「…………君、結構大胆だね」
「グラビアはこうしないと上がれない世界なので」


嬉しそうに、かつ舐めるように見つめる妖艶な顔と、それに興味を示さない男の目がカメラに向いた。剛史の無表情さにカメラの音が増えていく。


「いいねえ!さよちゃん、もう少し近づいていいよ」
「はーい」
「……」


せっかく元気になった体が急速に冷えていく。抱きついてくる女の体は全く剛史の望むものではなかった。
仕方ないと諦めて、黙って事の成り行きを見守る。視線をカメラに集中しなければいけなかったので、ギャラリーにいる彼女に目を向けることができなかった。




体が冷える。水に触れていないのに、心の芯から凍えていく。


「何なの天月さよ、TAKESHIに引っ付きすぎ」
「あれ絶対狙ってるだろ」
「撮影だし仕方ないんじゃね。てかそれ分かっててTAKESHIは引き受けたんだろ、案外期待してたりして?」
「ああー、俺もさよに抱きつかれたいー」
「狙ってなくてもあんなに密着したらやばそう、TAKESHIが好きになっちゃうかもね」


十人十色の声が全て胡桃の中に押し寄せてくる。
凍った後にひびが入って、痛みが生まれた。


剛史と紗良が近距離で見つめる姿、腕を回して不敵に微笑む紗良と読み取れない表情の剛史、どんどん痛みが不覚になっていく。


痛い。痛い。痛い。
…………嫌だ、嫌だ、嫌だ…………いや


自分の中にどす黒い泥が滲み出る。泥が体を覆って溺れさせようとする。


胸を押さえて、その場から逃げ出した。見なければ良かったと後悔が溢れてくる。


彼が水と共演した撮影は美しかった。フィルターを睨む姿も、微笑んでプールサイドにもたれる姿も、水を浴びて笑って手を差し出してくれる姿も、胡桃の心の中に全部保存したつもりだ。
あの手、足、体、顔、口、それぞれで愛して欲しいとねだってしまいそう。


体が満たされた時、紗良がプールに入ってきて剛史に接近した。


どうして彼女なのか。
そこにいるのは……自分のはずなのに。
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